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不慣れな教室、見慣れた二人

木製の重い扉を開ける。


そこは、洋館の一室のような重厚な空間だった。


木の根が張ったような壁。

年季の入った本棚。

がっしりとした木製テーブル。


……教室?


養成学校という名前の響きから、僕はもっと職業訓練所みたいな場所を想像していた。


作業服を着たおっさんが、ホワイトボードを背に「あーだこーだ」教えてくれる感じの。


そういえば、先程呼び出された職員室にも、先生はほとんど居なかった。


この学校では、教師はそれぞれ専用の私室を持っているらしい。


だから職員室に居るのは、本当に職員さんばかり。

事務的な作業をあそこでしているのだとか。


ちなみに、僕を呼び出したのは実質事務方トップの副校長先生。


ガチ怒りされていたから必死に自制していたが、めちゃくちゃ美人の年上のお姉さんだった。


ぶっちゃけ、あれに叱られるのはご褒美と言っても過言ではない。


あのぴったりしたスーツが良い。

いや本当に、ぴったりしていた。


あと泣き黒子。


……いや待てよ?


こうなってくると、お菓子を見せて個人的に叱ってもらうべきだったか?


もったいないことをしたかもしれない。


「アゲハさま!

コチラの席にどうぞ」


スズが椅子を引き、僕へ席を勧める。


だから、それをやめろと言っとるのだ!


めちゃくちゃ周囲の視線を集めているじゃないか!


「スズありがとう。でも、僕のことは気にしなくて良いからね」


僕は苦笑いを浮かべながら、周囲へ軽く頭を下げて席へ向かう。


生徒は三十人ほどだろうか。

その辺りは普通の学校と同じ……か……


僕はスズに勧められた席に座り、隣を見て固まった。


嘘だろ……。


***


そこに居たのは、見覚えがありすぎる顔だった。



僕と同じブレザーを着た、少年のような少女のような……。


首元のタイは、だらしなく緩められている。


燃えるような赤毛。


それを、ハーフアップにした髪。


肌は白い。


透けるように白い。


病的なほどに。


宝石のような……まるでエメラルドみたいな緑の目が、じっと僕を見つめていた。


僕は目が合い――


そして、光の速さで目を逸らした。


『何かの間違いだ。

何かの間違いだ。

何かの間違いだ』


必死に心の中で唱える。


僕の願いとは裏腹に、その生徒は、わざわざ席を立ってまで僕の視界へ入ってきた。


幻だ。

幻に違いない。


こんなところにヤツが居るわけがない。

しかも制服を着ているなど、ありえない。


きっと、慣れない旅の疲れが出たのだ。


……出たのだ。


「あーげは、1日ぶりだなー」


僕の幻が、ひらひらと手を振りながら僕の名を呼ぶ。

心底嬉しそうに。


ガラリ、と教室の扉が開いた。


「はい、はーい。

みんな席についてねん」


……次は幻聴が聞こえる。


ありえない。

あってはならない。



「みんなのクラスを受け持つ、シトロおねーさんだよ。

よろしくねっ」


艷やかな黒髪を揺らし。

キャピっとポーズをとる。


名乗るな。

頼むから名乗らないでくれ。


聞こえない。

僕は何も聞こえない。


スズが僕の右側に座る。


「良かったですね、アゲハさま。

皆さまと一緒で」


皆様って誰のことだ?

僕にはよく分からないなー。


「テオ君も、さっさと席に座って。

ホームルーム始めるよん」


言うなよ!

その名を!

確定させないでくれ!!


……そうか、これは夢だ。

きっと夢に違いない。


そう念じる僕の横で。


「今日からクラスメートだから、よろしくな」


テオが嬉しそうに笑った。


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