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殺意には、いちごミルクキャンディが一番です

講堂に集められる。


黒い蛇と剣が交差する紋様の描かれた旗が、いくつも壁に飾られていた。


大理石のような石で作られた、荘厳な部屋。


三百人くらいいるだろうか?


……いや、もっと居るかもしれない。


潜行者養成学校は六年制で、学年が上がると実地訓練に入るという。


だから、この場に居ない上級生もいるとのことだった。


今は様々な潜行者たちが地下坑道ダンジョンへ潜っているが、いずれは一元化し、ここで技術や知識を学んでから潜る、という体制に変えていきたいらしい。


それにより、今のように無駄な死亡者を出さず、安定してまものを狩れるようになるだろう、と。


壇上にいるのは、この学校の学校長だ。


年の頃は四十過ぎだろうか?


もじゃもじゃだ。


真っ黒いヒゲももじゃもじゃだし、鬱陶しい黒髪もちょっとウェーブしている。


こんなに離れてるのに、なんか暑苦しくて男臭い感じがする。


ただ、オジサマ好きが見たら、ちょっとテンションが上がりそうなナイスミドルだった。


……うん、嫌いだね!


なんだよ、無駄にダンディじゃないか。


僕は可愛い女の子と動物と子供には甘いが、イケメン――特に男らしいイケメンには、すこぶる厳しいのだ。

その上、学園長のクセに、無駄な話をダラダラしない。


先ほど僕が披露したような、インテリジェンスに富んだ説明(……丸パクリと言うなかれ!)と、この学校の目的、僕らの目指すべき場所。

それらを簡潔に、分かりやすく説明し。


激励の言葉だけを贈って、さっさと退場していく。


いや、もっとダラダラ無駄なこと喋れよ!


新入生へ贈る言葉が桜の話になって、気がついたら昨日駅で見た看板の話になって、最後は校長が食った晩ごはんの話になって、


『結局、何が言いたかったんだよ!?』


ってなるくらい、寄り道した挙句グダグダになれよ!


めちゃくちゃ格好良い感じで、簡潔に終わってるから、ちょっと目をキラキラさせてる女子が出てきてしまってるではないか!


そして校長先生はハゲてるべきなんだよ。


なんで長髪なのさ。


「アゲハさま、アゲハさま。

入学生代表の挨拶ですよ」


クラス分けでは名前順のはずなのに、何故か当然のように僕の横にいるスズが、僕へ話しかけてくる。


行かなくても良いのか? と言いたげだが、僕は入学生代表じゃない。


大体、代表ならあんなギリギリの移動でなく、前日には学校へ到着して、予行練習しているはずだ。


なんか涼やかな感じの、短髪の男の子が背筋正しく前へ出ていく。


「なんなんだ、アイツは!

アゲハさまを差し置いて代表など、生意気な!

ふざけるな!」


声がデカいし、よくある学園ものの悪役の取り巻きのセリフだろ、それ。


皆の視線が集まる。


僕は必死で他人のふりをするが、


りますか?」


と、初めて会った時のような、あの氷みたいな表情でスズが話しかけてきた。


殺らねーよ!


怖ぇよ!


というか、今、話しかけてくるな!



スズが騒ぎ立てたせいか、校長先生が信じられないくらい鋭い目で僕らを睨んでいた。


そらそうだろう。


今日は静粛なる入学式。

これから、手に手を取り合って仲良くキャキャうふふと、同じ学び舎で学ぶ級友相手に、こんなアホみたいな殺気を放って。


『殺りますか?』とか真顔で言ってる生徒がいたら。

僕でも『ちょっと、君こっちに来なさい』って言うよ。


「アイツもアゲハさまのことを、あんな不敬な目で見ています。

どうなってるだ、この学校は!?」


……僕が聞きたいよ!

どうなってんだよ、お前の認識は!?


校長先生の方が偉いもの!

そら、不敬だよ!!


だって僕たちは、ただ騒いでる生徒なんだから!!

分かれよ!!


僕は心を無にする。


これ、絶対に怒られるやつやん。


というか、騒いでるのスズだけだし。

僕は関係ないだろ!?


連帯責任とか言い出さないだろうな!?

おい!?


『僕は関係ない、僕は関係ない、僕は関係ない』


僕はいきり立つスズの横で、心の中で必死に唱えながら、突き刺さるような校長先生の視線を無視した。


絶対に目を合わせるんじゃないぞ。

絶対にだ。


……ああ、というか。


禿げとくべきとか言ってごめんなさい。


いや、ふさふさ校長って良いなー。

フサ校先生とか呼んじゃいたいなー。


それに僕、結構そのモサモサヘアー好きですよ?


だから本当に面倒事はやめてください。


いや、マジで!


***


このままではいかん。

全然、校長先生が視線を外してくれない。


僕はポケットから必殺の飴玉を取り出し、スズの口にポコンと放り込む。


「飴ちゃんをあげましょう、スズ。落ち着くのです」


仏だ。

こんなときこそ仏になるのだ。

御仏の言葉を、心を思い出すのだ!


決して同類だと思われてはならない。


僕は穏やかで平和的な人間だ。


ここで心を乱して、

『静かにしろ!』とか、

『僕まで怒られるだろ!』とか怒鳴ってしまえば、


ああ、やっぱりコイツもヤバいやつだったんだー

――と思われかねない。


スズはキョトンとした顔で僕を見る。


「いちごミルクキャンディです。

これはとても良い、優しい味がします。

僕は全然怒っていないので、スズも心を落ち着けて、静かに新入生代表の話を聞きましょう。

ほら、あんなに立派な生徒ですよ。

新入生代表にとても相応しい」


僕は周りに気を使いながら校長先生に見えないようにしつつ、犬にするように手の甲を使って、スズの首元や耳の後ろを撫でる。


大型犬というより、むしろ、野生の狼だがな!

徐々にスズが落ち着いてくる。


どう見ても僕より賢そうな少年が、困惑したように僕らを見ていた。


そらそうだ。


ただ頑張って勉強したり、態度が良かったり、推薦される理由があって推薦されてるんだから。


急に見ず知らずの人に、

相応しいだの相応しくないだの言われても、困惑するより他ない。



スズは飴ちゃんで落ち着いたのか、コクコクと頷いて静かになった。


すげーな飴ちゃん。

今度から大袋で買うとこ。


見てくれましたか? 校長先生。

僕、ちゃんと狂犬を止めましたよ!


……伝われ!

僕はまとも側だと……!


僕はちょっと微笑みながら、極めて優しい表情で校長先生を見た。


……めちゃくちゃ睨まれていた……。


お菓子持ってきちゃダメだったんだ。

めっちゃ見られてたし。


クソ、校長先生の前で盛大にやらかした。


僕は誤魔化すように、さらに笑みを深くしたのだった。


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