新しい生活、でも、いや、ちょっと待て
テキストに実習道具。
ノート、筆記用具。
「鞄や筆箱は、良いものがあればお買い直し下さいね」
財布には、週に使う分のお金が入れられていた。
「無駄遣いはいけませんよ?
お小遣いで足りない時は、センにお申し付けください」
こんがり焼けたトーストに、目玉焼きとサラダ。
そら豆のポタージュ。
それから、バナナとベリー、葉野菜のスムージーがテーブルには用意されていた。
センリツは結構、天然ボケボケなのだけど、こういうところはもう完璧というか、頭が上がらない。
つうか、めちゃくちゃ朝食も豪華だな。
普段食べてるメニューと、ほぼ変わらない。
ただ、一点だけ気になることがある。
「センリツ、ほかの寮生は?」
「一人は自室に居られます。もうお一人は……ご連絡ございませんね。
まだ到着していないのかもしれません」
ということは、スズを合わせて全部で四人だろうか?
僕のように階層をまたいで来る人もいるだろうし、入学式に間に合わない人もいるのかもしれない。
僕らも前日、ギリギリに入寮したくらいだし。
「あ、あの、セン姉さま。
わ、私もアゲハさまと同じメニューでよろしいのでしょうか?」
「寮生の方は皆、同じでございますよ?
足りなければ、おかわりは沢山あります。
たんとむさぼり食うと良いです」
スズが目をキラキラさせる。
食いしん坊だから、嬉しいのだろう。
僕には若干、量が多いが。
まあ、いいや。
食べ切れなければ、スズにあげよう。
***
学校は、寮からすぐのところにあった。
半分木に飲み込まれた城。
それが、僕の第一印象だった。
緑の三角屋根。
蔦の這う壁。
レンガ造りの重厚な壁は、歴史を感じさせる。
なんか、思ってたのと違う。
だって、十三区の潜行者って、マジでヤクザもののヤバいのしかいなかったから。
まあ、見た目に反して気の良いおっちゃんとかもいっぱい居たけど。
金将会の下っ端とか、ジャージ着た、いかにもヤクザみたいなのばっかりだった。
こんな立派な学び舎で学んでいたとは、到底思えない。
「ドキドキしますね! アゲハさま」
「というか、マチダのおっちゃんとかもここに通ってたのかな?
嘘だろ?」
マチダのおっちゃんとは、よく寺にステテコで来るハゲ頭のおっさんだ。
和尚様とよく将棋を打っていた。
割と有名な潜行者で、それから空蝉寺の檀家だった。
「マチダさんの頃は、潜行者養成学校は無かったはずです。
それに、マチダさんは安全な表層専門ですからね。
ここは上級潜行者を養成するところです。
どちらにせよ、通ってはいないかと」
……なんだ、上級潜行者って?
いや、そういえば、街の潜行者って若い人もゴロゴロいた。
学校なんて通ってなかったな。
ん?
そういや、学校のこととか、センリツに任せきりで何にも読んでなかった。
「……アゲハさまに、そのような説明は不要ですね。
ここに集うのは、伝説級の魔物を狩るために学びに来た、より深層に潜ることを目的とした生徒達ですからね。
気を引き締めねば!」
いや、不要じゃないです。
詳しく教えてください?
なんか、ちょいちょい不穏なワードが出てきてますよ?
え?
なに?
より深くってどういうこと?
街の潜行者でも、手足ないとか普通だったし、結構死んでたぞ?
安全な表層とか言ってたけど。
安全なら怪我もしないし、死者も出ないのでは?
「ささ、アゲハさま」
ずずいとスズが僕の背中を押す。
いや、マジでちょっと待て。
ほんとにちょっと待って!




