表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/69

吾唯足知《われただたりたるをしる》、受け入れろ、和尚様はエンジェルでした

あの生放送から数日後のことだ。


和尚様が、僕とスズを本堂に呼んだ。


本堂には観音菩薩さまが祀られていて、その頭のところに蝉の意匠が施されていることから、この寺は空蝉寺と呼ばれるようになったらしい。


……僕のインテリジェンスが上がってる気がする。


まあ、こんだけ寺に通ってて、本堂の掃除なんて嫌というほどやってるのに。


今さらながら、仏像の頭にセミを見つけた僕が「セミおるやん」と騒いだため、スズが今しがた教えてくれたんだけどね!


だって、呼んだくせになかなか来ないんだもんよ、オーク様。


ギシギシと重い足音を響かせて、ようやく和尚様が姿を現す。


その手には、年季の入った、けれどよく手入れされた杖が二本持たれていた。


光刃も出る、銃剣型のものだ。


僕たちの前にドカリと腰を下ろす。


スズがすかさず和尚様にお茶を差し出した。


「すまんな」


そう言って、和尚様は一息つく。


こういう積み重ねが、殴られない秘訣なんだろうか?


そういえば、僕の前にもいつの間にかお茶が置かれていた。


「すまんな」


和尚様の真似をして礼を言えば、


「何を偉そうに言うとるか、バカタレが」


普通のテンションで怒られた。


自分も偉そうに言ったくせに!


「まあ、良い。何から話そうかの」


和尚様はしばらく考えてから、


「お主らの鍛錬は、今日で一応終わりじゃ」


唐突に告げた。


というのも、ミコトさんから和尚様が頼まれていた期間は三年。


それが、もう過ぎようとしていたのだ。


月日は早いもので、この寺に来てもう四年目に入る。


……というか、素振りと、めちゃくちゃ型通りの模擬試合しかしてないぞ?


僕の顔から何かを感じ取ったのだろう。


「もともと、ここは子供らの手習いの道場じゃ。剣術はおまけよ。


お主らは、よう腐らんと頑張った」


和尚様は良いことをすると、よく褒めてくれた。


だが、今のトーンはなんだか違うというか。


「そうじゃの。まずは儂のことから、話さねばならんな」


そう言って、和尚様は急に袈裟を脱ぎだした。


おい、待て!


露出が趣味とか急に言われても、流石の僕も受け止めきれないぞ!?


和尚様は僕らに背を向ける。


火傷の痕。刀傷。銃創。


左腕は肘から先がない。


思わず目を背けたくなるような、痛々しい姿だった。


「儂は天使じゃ」


僕は思わずお茶を吹き出した。


「なんじゃ、汚いのぉ」


厳つい顔を、さらに厳しくしかめる。


その顔で何が天使じゃ!


お前が天使なわけねーだろ!


豚の王が何言ってやがる!!


……思わず口汚くツッコミそうになるが、この世界の天使っちゃあ、アレだ、アレ。


「和尚様も、人造天使なのですか?」


スズが尋ねる。


そう、それだ。


決して僕のマイエンジェルじゃない。


あの凶悪な方の天使だ。


「でも、それはおかしい」


いや、まあ、オークが天使なのはおかしいが、もと軍属が人造天使なのは別におかしくない。


自分で考えてて、なんか混乱してきた。


スズのおかしいは、そういうことじゃないはずだ。


和尚様は服を正し、再び僕らの前に座った。



「人造天使の傷はいずれ治ります。腕だって生えてくるし……それに、和尚様は、その、お年だって召されていってる」


そういえば、人造天使は年を取らないし、傷も治る。


年を取ってから、神の血を入れたのか?


和尚様はコクリと頷いた。


「スズは正しい。じゃが、少し違うのぉ。


神の血は、人の欲によって進化するのじゃ」


人がまず恐れるのは死。


そして、老い。


まずそこに変化が現れる。


異常な回復力と不老。


多くの人造天使が、最初に得る力だ。


「しかし、その限りではない。


死を恐れず、老いを受け入れたなら、人造天使とて年老い、やがて死ぬ」


和尚様は、つまり受け入れたのだ。


「この寺にある手水鉢ちょうずばちに書かれとる文字を知っとるか?」


「はい、あの茶室の前にあるものですね。


吾唯足知われただたりたるをしる


和尚様は満足そうに頷いた。


なるほど、何のことかさっぱり分からん。


んなもん、あったか? 庭に?


嘘だろ、手水鉢の記憶すら曖昧だ。


睡蓮鉢すいれんばちのメダカのエサはヒミコちゃんと良くやってるけど。



「人の欲は限りない。


人造天使に限らず、過ぎた力はいずれ身を滅ぼす。


ミコトも儂も、それを危惧した。


だから、お主らの心を鍛えることを、まずやった」


それが、あの型通りの素振り。


勝つ方と負ける方が決まってる模擬試合か。


負けることが決まってるのに、負けたあと「参りました」って言わなきゃいけないやつ。


なんのこっちゃ?と思ってたけど、そういうことなのか。


「あのバカタレどもに教えを請えば、いずれ人外の高みに届く。


しかし、そのとき力に振り回されては、元の木阿弥もくあみじゃ」


和尚様は僕たちに、持ってきた二振りの杖を置いた。


「一つは英雄、アゲハお前が以前使っていた杖じゃ。

これはヌシに返そう。

もう一つはワシのお古じゃな。

コレはスズ、ヌシに託そう」


……よく分からんが、つまりは。


「明日からは、また、テオたちに鍛えてもらえ」


……嘘だろ!!!!?


僕は大慌てでスズを見る。


スズは泣きそうな顔をしていた。


そりゃ、そうだろ。


また、あのバケモノどもにしごかれるとか、たまったもんじゃねーもんな!


ふざけんな!


最後まで面倒見ろや!!


「……良かった、良かったですね、アゲハさま!」


スズは、喜びに打ちひしがれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ