英雄は、誰にも見えないところで努力します。
端的に言えば、スズは焦っていた。
三英雄から直接指導を受けられる機会は、自分の不甲斐なさのせいで棒に振ってしまった。
三年前。
テオの動きにも、シトロの新薬にも、センリツの恐ろしい力にも驚くことなく。
アゲハは、いつもと同じように、スズを眺める時のように、動じることなく鍛錬についていっていたというのに。
スズは、気がついた時にはもうベッドの上だった。
見かねた三英雄の故知であり、新政府で大佐を務めるミコトが、新しい修行先を紹介してくれた。
今度こそ。
今度こそは、アゲハに恥じぬよう立ち回ってみせる。
ここで必ず、自分は強くなるのだと心に決めた。
——にも関わらず、だ。
鍛錬は思いのほか穏やかだった。
同じことの繰り返し。
あまりの焦りに自主鍛錬もしたが、師である無我から「程々にするように」と言いつけられた。
日に日に募る不安。
無我は確かに、テオや三英雄と共に、あの人間復興の戦いを駆け抜けた強者だった。
けれど、実戦で強いことと、指導者として優れていることはまったくの別物だ。
正直なところ、スズは疑っていた。
このままでは、ダメなのではないかと。
アゲハは、言われた通りのことを毎日楽しげにこなしている。
無我とじゃれ合う余裕すら見せていた。
スズの心に、わずかな疑念が生まれる。
——アゲハはもう、強くなることを諦めたのではないか。
……もし、そうならば。
自分がアゲハを正さなければならない。
彼はいずれ、三英雄に並び立つ人間なのだから。
話をしなければ。
そう思い立ったスズは、帰ろうとするアゲハを追いかけた。
アゲハはいつも、鍛錬が終わると、スズから逃げるように帰ってしまうのだ。
どこへ向かうのだろう。
疑念を抱きながら、スズはアゲハをこっそり追いかけた。
途中、少し見失ってしまったが。
再び見つけたアゲハは——
大きな稲藁を抱えていた。
スズは思わず、その場に崩れ落ちた。
抱えている。
あの細腕で。
一人で。
額に汗かき抱えているのだ!
「……バカだ。本当に、大馬鹿だ私は……っ!!」
なぜ疑った。
なぜ、諦めたなどと、アゲハを侮った。
ヘラヘラと笑っていたのは、見せかけに過ぎなかった。
強くなりたいという意思を隠し、
こうして誰にも見えない場所で鍛錬を重ねていたのだ。
スズにも隠れて。
たった三年。
たった三年で、あの日の決意を忘れたのは自分の方だった。
命を助けられ、
しかも、その助けられた命を身勝手に捨てようとした、あの日。
誓ったはずだった。
アゲハに生涯尽くすと。
この人の力になろうと。
そう——。
スズの胸中にあったのは、恥ずかしさや憤りなどではなかった。
もはや——
それは、自分自身への嫌悪感だった。




