ここは、楽園です?
テオは人間復興の戦いで、最も多くの命を奪ったとされている。
単騎突撃、殲滅。
そんな狂った戦い方で、敵も味方も関係なくぶっ殺しまくり、恐れられていた。
命令違反は当たり前。
独房送りは数しれず、除隊寸前になることもしばしば。
それでもなお、その戦闘力は代えがたく。
何度も一兵卒に落とされながら、最終的な階級は大佐。
そして——
アゲハが副隊長として補佐に入ってから、その力はさらに加速した。
人間復興の戦いに終止符を打ったのは、テオだとさえ言われている。
昨日までの僕は、前世の記憶が曖昧だった。
転生したということはなんとなく分かっていたが、過去については分からない。
だから、自分を“アゲハの生まれ変わり”だと信じていた。
だって、みんながそう言うんだ。
信じるしかないだろ。
幸い「記憶を失っている」と扱われていたから、
僕は大人の思考を持ちながらも、それを隠し、幼児として振る舞って過ごしていた。
そのうち思い出すだろうと、呑気に構えて。
——まさか、人違いだとも思わずに。
急速に蘇る記憶。
そして、今までの生活の数々に、背筋が凍る。
その最たるものが——これだ。
僕は今、テオに抱きしめられている。
彼? 彼女? の、秘密の花園で。
赤い髪が頬を撫でる。
見上げれば、緑の瞳。
中性的な顔立ちに、華奢な体。
透けるような白い肌。
テオは十代半ばほどで成長が止まっている。
老いない。それは人造天使が背負った呪いの一つだ。
——そんなことはどうでもいい。
問題はそこじゃない。
粗暴で、粗野で、それを誇りのようにしているテオは、実は花が好きだ。
そこに集まる蝶を眺めるのが好きだ。
ここはテオだけの秘密の花園。
ジャンク商会が所有するビルの最上階。
誰も足を踏み入れてはいけない聖域。
アゲハとテオだけの楽園。
そう。
アゲハとテオだけの——楽園。
そこに僕は足を踏み入れている。
僕がそれじゃないとバレれば。
——確実に、命はない。
そう思った、そのときだった。
「……アゲハ」
耳元で、低い声が落ちる。
「な、なに?」
心臓の音が早まる。
テオの腕の中で、逃げ場はない。
「お前さ」
少しだけ間が空く。
ほんの一瞬。
でも、その沈黙がやけに長く感じた。
「今日はなんだか、変じゃないか?」
——終わった。
血の気が引く。
「え、えっと……そ、そんなことないよ」
言葉が出ない。
何か言わないとまずいのに、頭が真っ白になる。
逃げろ。
誤魔化せ。
笑え。
この体の記憶が、必死に警告する。
「……まあいいか」
ぽつりと、テオが言った。
「へ?」
思わず間の抜けた声が出る。
テオはそのまま、僕の頭を軽く撫でて——
つむじに唇を落とす。
「……アゲハ、愛してる」
心底愛おしそうに、そう言った。
その一言で。
——逃げ場が、完全に消えたような気がした。
頬を撫でる、その手は、ひどく優しく。
まるで壊れ物でも扱うかのようだった。
テオにとって世界で一番大切なもの。
それは花じゃない、それを喜ぶ蝶なのだ。
——恐ろしくてたまらなかった。




