表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

僕、違います

僕はベッドから起き上がり、額ににじむ汗をぬぐった。


なんか分からんが転生したが、これはマズい。

僕は英雄の生まれ変わりじゃない。


なのに——


僕は溺愛されている。


この世界の英雄どうりょうに。


コンコン、とドアがノックされる。


「アゲハ様、まだお休みですか?」


外から声がする。

戦術級魔唱兵器せんじゅつきゅうましょうへいき『センリツ』の声だ。


「寝かせてあげなよ! アゲハくんは育ち盛りなんだからさ!!」


あれは、伝説の玻璃球はりだまの魔女『シトロ』さんの声。


そして——


「お前らうっせーぞ。アゲハが起きるだろ?

ぶっ殺すぞ?」


聞こえてくる、最凶、最悪の英雄。


赤い悪魔『テオ・ドール』の声。


まずい、まずい、まずい。


この体の記憶と、今しがた思い出した過去の記憶が、同時に警鐘を鳴らしていた。


僕は英雄じゃない。

異世界から来た、ただのオッサンの転移体だ。


バレたら、殺されるだけでは済まない。


——この体の記憶が、そう言っている。




***



僕の名前は、アゲハ。


かつて神の名の下に好き勝手していた神官たちから世界を取り戻した戦い。

人間復興の戦い(レコンキスタ)において、英雄テオを守り、命を落とした。


英雄の中の英雄。

大法師アゲハの生まれ変わり——


……と思われている。


だが、違う。


僕は日本で生まれ育ち、間抜けにも車にはねられて死んだ、ただのオッサンに過ぎない。


連日の残業で頭はぼんやりしていた。

生きる屍のようだったと言えば確かにそうだ。


死にたいなんて思うことは日常茶飯時。

そう呟くこともしばしばあった。


でも、だからって、雨の中、一時停止も無視して突っ込んでくるのは違うだろ。


止まろうよ、車。

左右確認は大事だよ?


死ぬにしたってタイミングとか、用意とか、色々あるだろうに。


……そういえば、僕のパソコンとスマホはどうした?

あのままか!?


——現実リアル的にも死んだ。


もとの世界に戻りたくもない。

戻ってはいけない。


四歳になった僕は、唐突に前世の記憶を取り戻した。

これまでの記憶も残っている。


僕は英雄たちに溺愛され、このジャンク商会で育てられている。



***


僕は恐る恐るドアを開ける。


ドアの前には、真っ白な髪のツインテール。

真っ黒な瞳。

黒いワンピースに白いエプロン。

そして、豊かな胸元。


廊下に出た瞬間、抱きしめられる。


「おはようございます!

アゲハさま!!」


フンス、フンスと僕の匂いを吸い込むメイド。


センリツ。

戦術級魔唱兵器と呼ばれるロストテクノロジーで生み出された生体兵器だ。


「おはよ〜せんりつぅ」


僕はこれ以上ない甘えた声で抱きつく。


——この子が最後の砦。

最後の良心。


ここから引き離されたら……終わる。


「おっはよーん、アゲハ君。よく眠れたん?」


ニコニコと笑う玻璃球の魔女。


長い黒髪、スレンダーで長身。

黒いワンピースには大胆なスリットが入り、艶めかしい生脚が覗く。

見た目だけなら最強だ。……見た目だけなら。


「お、おはよう、シトロお姉様」


「いや〜ん!可愛い!好き!」


そのままのテンションで、


解剖ばらしていい?」


と聞いてくる。


良いわけがない。

マジで何を考えているんだこの人は。


最悪のマッドサイエンティストだから、冗談が冗談に聞こえない。


そして——


さらに最悪なのは。


「よぉ、アゲハ。起きたか?」


赤い悪魔、テオだ。


「お、おはよう、テオ」


僕の顔は引きつった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ