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そこは、由緒正しい暴力寺です

……なんでこうなった。


僕の前にはセンリツとシトロさん、それから、不機嫌そうなテオ。

そして、スズが立っていた。


「アゲハくん、今日からスズが正式にアゲハくんの組手相手ね」


シトロさんが言った。


テオは何か言いたそうだったが、口をつぐんだ。


「アゲハさま、申し訳ありません。まさかこのジャンク商会に危害を加える愚か者がいるなど、センたちは考えもしなかったのです」


センリツが泣きそうな顔で深々と頭を下げてくる。


確かに、こんなバケモノどもの巣窟に攻めてくるやつがいるなんて、考えも及ばないよね。


今度からは警備が厳重になって、僕はさらに手厚く守られる。


……じゃないのか?


「テオちん、センと相談してね。

また今回みたいなことがいつ起こるか分からない。

だから、アゲハくんにも最低限の力が必要じゃないかって、話になったの」


もちろん、私たちが手厚くサポートするよん、とシトロさんはウィンク付きで付け加える。


そして、


「それで良いよね、テオくん」


と、不貞腐れているテオに声をかけた。


テオは本当に渋々といった様子で、小さく頷く。


スズは皆の顔を見渡して。


そして、僕の前に跪いた。


「不肖このスズ、アゲハさま(・・)の力になれるよう、尽力させていただきます!」


……アゲハ……『さま』だと。


この三人にどれだけ脅された!?


脅迫!?

洗脳か!?

いや、替え玉か!!!?


スズが僕を潤んだ瞳で見上げる。


何かを堪えるように。


泣くほど嫌なのを、必死に堪えてやがる!


「いや、あの、なんていうか……」


この状況をどうにかしようと必死に頭を働かせる僕を、テオが抱きとめた。


「きっと守るって言ったのに、ごめん、アゲハ。

だが、戦わなくても大丈夫なくらい強くしてやる!

お前を見たら、誰も戦う気が失せるくらいに強く」


噛み締めた口の端から、血が滲んでいた。


待て。


そこまで思い詰めるなら、今まで通り守られることはやぶさかじゃない。


っていうか、戦う気が失せるくらい強くするって、

どんなヤバい訓練をさせるつもりなんだよ!?


僕は助けを求めるようにスズを見た。


スズは、力強く頷く。


コイツも僕を逃がさないつもりだ。


***


結果として、訓練は三日と続かなかった。

そもそも、この三人に人を教える素養などなかった。


本能の赴くまま、人間離れした先読みと戦闘センス、経験で戦うテオ。


なぞの薬によって、なんかヤバげな力を与えようとするシトロさん。


センリツに至っては、戦術級の兵器であり、僕らが真似できるようなしろものではなかった。


たった3日で僕もスズもぼろぼろだった。

スズなど立ったまま、気を失っていた。


「まったく、私は皆さんを信じたからこそ、アゲハさんをお任せしたのだぞ?

理解しているのか?」


青みがかった髪を一括りにし、

少しきつそうな目元に、小柄な体躯。

濃紺の詰襟をきっちりと着込んだ女性。



彼女はミコト大佐。


特出すべきは、体のラインが出づらいこの服装ですら分かるナイスバディさ!


……いや、今はそれに鼻息荒くしてる場合じゃない。

久しぶりに見たから、思わずテンションが上がってしまった。


執行隊をはじめ、警邏隊や保安部など、ユグドラシルの保安・秩序維持に関わる一切を取り仕切る特務治安総監を任されている人だ。


彼女もまた、人間復興の戦いにおいてテオたちと戦った、英雄の一人で。


要職に就くことを嫌がった三人の代わりに新政府側に残り、それに恨み言を言うことなく、ジャンク商会に対して様々な便宜を図ってくれている、まさに聖人のような人だ。


普通の人が言ったなら三人とも聞かなかっただろうが、彼女の言葉はさすがに無視できない。


ふくれっ面をしながらも、みんな、黙って耳を傾けていた。


「剣術指南役は、私の方で適した人を当たろう。皆様は皆様でできることをやってくれ」


頭を抱えながらも解決策を提示するミコトさんを見て、

なんでこの人はジャンク商会に入ってくれなかったんだと心から思う。


一人でもまともな人がいてくれれば、少しは違ったろうに。


***


ミコトさんからの、連絡はすぐに来た。

あのあと帰ってすぐに、心当たりの人物に連絡をとってくれたようだった。

流石である。


僕たちは早速、その人がいるという道場に向かう。


久しぶりのシャバだった。

基本的に僕は商会ビルの外になかなか出してもらえない。


下三層は地下迷宮ダンジョンへの入り口がある階層であるため、治安は正直あまり良くない。

ジャンク商会のような潜行者の商会やファミリアであったり、クラン、一家などが多数存在しているためだ。


ぶっちゃけ、ヤクザやマフィアの類と考えて支障ないような連中だ。


実際、三大潜行者組織の一つ金将会きんしょうかいなどは、紛うことなきヤクザである。


漢字やローマ字、カタカナみたいな文字、さまざま入り交じった雑多な街並み。

潜行者目当ての飲み屋や商店が軒を連ねる。


近世ヨーロッパというより、明治時代の和洋折衷入り乱れた日本の街に、歌舞伎町や香港を足したような、混沌とした街並みだ。


足元に蠢くのは巨大コラドリス。

地上魚というやつで、落ちたゴミを食う。


こいつの糞を集めて処理場に持っていくと、ちょっとしたお小遣いになるのだと商会の人が言っていた。


糞の中に含まれる金属とかレアメタルを取り出せるのだとか。


混沌とした街並みを歩くこと少し、僕たちは目的の場所に到着した。


***


「なんで、寺」


ミコトさんから紹介された施設を見上げ、僕は思わず言った。


長い階段。

大きな門。

両脇に立つ仁王像。


そこは、どこからどう見ても立派なお寺だった。


性根から叩き直せってことか?

いや、僕は今や心身ともにピュアキッズだ。仏様だってきっとそれは認めてるはずだ。


スズもなんだか微妙な表情を浮かべていた。


「お寺、だよね? センリツ?」


僕は引率で来たセンリツを見上げる。


「そですね。お寺です。

空蝉寺うつせみでらと言います」


「セン姉さま!

ここに、私たちに剣の手ほどきをしてくださる方が……?」


センリツはどこか得意げな顔をする。


「はいな!

このお寺は、人間復興の戦いの折、センたちを匿ってくださった由緒正しき暴力寺でございます!」


……そんな由緒正しさは聞いたことないし、嫌だ。


「当時、お寺に在籍していたのは、仏様でも目を背けたくなるような破戒僧ばかりでした!

今でも目を瞑ると思い出されます。

旧政府の軍勢に立ち向かう、スキンヘッドの男たち。

どれほど心強かったことか……」


胸に手を当て、まるで大切な思い出のように語るが、

僕の頭の中には、袈裟を着た世紀末ヒャッハー!!な軍団しか思い浮かばない。

なんなら、肩からメタルなトゲが生えたモヒカンが混じるくらいだ。


「……ボク、帰ろうかなー」


そーっと抜け出そうとする僕の肩を、センリツがガシりと掴む。


「ぜひぜひ、一度お会い下さい。

センは、無我むが様にあいとうございます!」


逃がして、助けて。


僕が遊んでいると思っているのだろう、離す気配のないセンリツとわちゃわちゃしていると、


「寺に何用じゃ?」


声をかけられる。


声のした方を見れば——

左腕と右目がないスキンヘッドの二メートルは優にある大男が、僕らを見下ろしていた

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