オークキング? いいえ、和尚様です
首から下げられた、デカくて長い数珠。
使い込まれ擦り切れた法衣の下には、ゴリラすら青ざめそうな隆々とした筋肉。
厳つい顔に、眉は無く。
右の顔面には、目を失ったときについたのだろう大きな刀傷と、
そして、鳥と蛇と……豚?の入れ墨が彫られていた。
なんだ、この化物は。
そして、なんで豚?
破戒僧を絵に描いたような人物の登場に、僕も、そしてスズすらも戦慄していた。
「無我様!」
ただ一人、センリツだけは飛び上がって喜んでいる。
「何じゃ、センか?」
オークキング……ちがった、無我はセンリツを見て目を細め、そして僕たちに視線を移す。
「美味そうなぁ」
……僕らを食う気か、コイツ!?
いくらなんでも人外が過ぎるだろ!?
慄く僕らに、無我は腰から何かを取り出す。
マジで殺る気か!?
無我が取り出したそれは、丸々とした大根だった。
「大根もろてな。お前らも食うてくか?」
……ややこしいところで言葉を切るなや!
自分の容姿、考えろよ!
***
寺の中に通されて、センリツが無我のことを説明してくれる。
もともとはテオやセンリツと同じように、人間復興の戦いを共にした戦士で。
戦いが終わったあと、
世話になった寺が住職を失い荒れていくのを不憫に思い、仏門に入り、今は寺を守っているということだった。
周辺の子どもたちに読み書きや、武芸の真似事を教えているのだとか。
めちゃくちゃ良い人じゃねーか。
見た目オークキングなのに。
「ミコトから、話は聞いておる。
まあ、基礎の基礎くらいは教えてやろう」
僕らの椀に、大根たっぷりの豚汁をよそいながら言う。
食って良いのか、豚肉!?
顔面の入墨といい、ツッコミ待ちなのか?!
僕の思考を読んだのか。
「わしは真の坊主じゃありゃせんからな。
生臭よ。
もろたもんは何でも食うし、無駄にはせん」
普通に真面目な話だった、良かった変なツッコミ入れないで……。
手習いのお礼で子どもたちの親が色々くれるらしい。
坊主に豚肉渡すやつもどうかとは思うが、
この世界の宗教観をちゃんと知ってるわけじゃないから、なんとも言えない。
まあ、美味しいし、良いや。
ジャンク商会は基本的にパンだから、
元日本人の僕からしたら、米と味噌汁は癒される。
そして、なによりキュウリの漬物がうまい。
無我が漬けているそうで、
見た目によらずマメなオッサンのようだった。
「慌てるな、しっかり噛め」
と僕を叱ってくるあたり、
ジャンク商会の面々より、遥かにまともな大人なんじゃないだろうか!
ちゅーか、見た目はともかく、
久しぶりの“普通の人”だ!
***
それから僕は無我の……いや、無我和尚さまのお世話になることとなった。
寺の横に建てられた道場で、他の子供たちに混じって木刀を振るう。
テレビとかでよく見る、あの横並びになって「エイヤ! エイヤ!」とするヤツだ。
腹から声を出し、無心で木刀を振るう。
「よーし。
よし!
ええ声じゃ!ええ声じゃ!」
和尚様は怒ると怖いが、褒めるところは褒めて、遊ぶところは遊んでくれる。
あの容姿でおままごとにまで付き合ってやるのだから凄い。
まあ、ただ、主に赤ちゃん役をやらされていて、その様子は狂気じみているが。
滴る心地よい汗。
まるで、心が浄化されるような……。
いや、まあ、僕の心はもともと酷く清らかだけどさ。
というか。
普通すぎる。
普通すぎないか!?
テオの無茶苦茶な鍛錬からの、シトロさんの薬。
そして、センリツの全てを破壊する攻撃。
それらを目の当たりにしたせいで、なんか変だ。
物足りなく感じている僕がいる!
走り込みに素振り。
道場や寺の掃除。
鍛錬としては、そこそこキツいはずなのに!!
なんだか、とても……とても。
味気ない、だと!!?
……どうやら僕も、だいぶ手遅れらしい。




