また地雷、そんなの予想がつきません
スズは、っと?……横目で、僕はスズを見る。
だよなぁ。
人造天使なんて、そう簡単に倒せるわけないよなー。
さっきまで防ぐだけでギリギリだったんだ。
援軍なんて望めるはずもない。
とはいえ。
僕は思う、これはチャンスかもしれない、と。
魔法使いは接近戦に弱いっていうし、見たところ、ずいぶんとくたびれてる。
こいつ程度ならワンチャンあり得るんじゃないか?
僕、結構鍛錬したし、
天才特有のアレで行ける可能性は、なくはない。
感じ的には、指揮官っぽい。
漫画やアニメだと、こういうやつはだいたい一騎当千だけど、
現実は意外とそうでもない。
普通、指揮官はチャンバラごっこなんて率先してやらない。
ゴリゴリの兵士より弱い可能性の方が高いはずだ。
しかもコイツ、さっきまで一人だけこそこそ隠れてたし。
僕は、その天才的な頭脳によって導き出された答えに、
我ながら感心した。
……これなら、スズも救えるんじゃないか?
最悪、商会の中に逃げ込めばいい。
そうやって時間稼ぎしてる間に、
中の人が助けに来てくれる可能性だって高い。
というか、もう来ても良い頃だ。
うっし。
ここはいっちょ、
ちょっと格好良いとこ、見せちゃうか。
「よそ見している余裕などあるのですか?」
男が不敵に笑う。
僕は、今までの鍛錬の成果を見せつける。
最高に格好良い構え。
素振りよりも、僕はむしろ“構えた時の格好良い立ち姿”の鍛錬に全振りしてきた。
センリツなんて、
『アゲハさま、カッコかわいい』と卒倒しそうな勢いで褒めてくれたくらいだ。
僕も鏡で確認したが、
素振りはへなちょこでも、立ち姿はもはや達人の域に達していた。
さすがの魔法使いも、
僕のその姿にわずかにたじろぎ、眉を寄せる。
……お。
やっぱりビビってんじゃね?
「お前がリーダーか。ならば僕が相手しよう一対一の決闘だ!
僕が勝ったら、潔く引き揚げろ」
決闘中は、周りも手出ししてこないはずだ。
スズの方にいる人造天使だって、
親分が戦ってる最中に勝手にドンパチやってたら怒られるだろ。
時間稼ぎ。
あわよくば討ち取る。
ついでに、ここ最近のスズからの心象も回復。
一石二鳥。
負けそうになったら負けそうになったで、
商会の中にすぐ逃げ込む。
……完璧だ。
完全に死亡フラグを回避した僕はご満悦だった。
***《スズ》***
「アイツは馬鹿なのか……?」
目の前の人造天使が、呆れたように言葉をこぼす。
スズは、怒りに震えた。
——なぜ分からない。
あの崇高な姿が。
隙だらけの、素人丸出しの構え。
だがそれは——
わざとだ。
挑発し、囮となり、
敵を自分の方へ引き寄せている。
自分や、あの親子が逃げられるようにとの配慮だろう。
そう思った瞬間、スズの胸はまた熱くなる。
先ほど、声を荒げたのは、聖域へ敵が侵入しそうになって思わずだとスズは思った。
だが違った。
それこそ浅慮だったのだ。
アゲハは感情的に怒鳴ったのではない。
無人の商会ビルに向かう魔法使いたちをわざわざ呼び止めたその理由。
それは——
人造天使に今のアゲハの力は届かない、自分の実力を理解した上で。
それでも、囮になるため。
わざわざ、はるか格上を呼び止め、気を引いた。
(なんて……)
(なんて、崇高な……!)
魔法使いですら脅威だ。
ましてや——魔導師。
並の人間が、勝てる相手ではない。
しかも相手は、上級魔導師。
人間復興の戦いを生き抜いた、正真正銘の歴戦の猛者。
勝てる道理など、どこにもない。
なのに、それでも。
一騎打ちを申し出て自分たちを守ろうとしている。
上級魔導師は、かつての大法師——英雄アゲハと同格。
接近戦すら制し、中長距離をも支配する化け物だ。
スズの見立てでは、
テオを討つための切り札。
その可能性すらある存在。
前に立つだけで、足が竦むはずの相手。
なのに——
アゲハは。
小馬鹿にしたような、間の抜けた構えで。
悠然と立っていた。
そこには——
余裕すら、感じられる。
スズの喉が、ひくりと鳴る。
アゲハが、振り返る。
そして。
ニコリと、微笑んだ。
スズは目を見開いた。
涙が一筋だけ頬を伝う。
───死が怖くないとでも言うのか?
***《アゲハ》***
僕はスズを振り返り、ドヤ顔で笑ってみせた。
今の僕、めっちゃカッコよくね?
相手も完全にビビっとるし、良き良き。
よく見たら、相手は片腕もない。
接近戦とか、絶対クソ雑魚に違いない。
「これほどの圧を向けて平気とは……何者です?」
えらく険しい顔で問われ、僕は少し考える。
いや、何者かと言われれば、ただのおっさんだけど。
……さすがにそれは言えない。
かといって、英雄アゲハと名乗るのも、
なんだか自分で逃げ道を塞いでる気がする。
アゲハじゃないとバレるのもまずい。
由々しき問題だ。
「何者でもない。これまでも、これからも」
とりあえず、それっぽい格好良いことを言って濁す。
場が、静まり返った。
「貴様か……貴様なのか!?」
……は?
誰?
誰の話してるの?
いきなり怒り出したぞ。
適当に答えすぎたか?
ローブの男は、わなわなと震え出す。
「腕を失い、足を失い、誇りすら失った私に——
貴様は、戦いの中、命を捨てることすら許さなかった!!」
知らねぇよそんなの!?
誰と勘違いしてんだコイツ!?
「アゲハ!!
よもや地獄から舞い戻っていようとは!」
え!?
めっちゃアゲハ認定されとるやん。
『いや、違います!!』
そう叫びかけた、その瞬間。
反射的に木刀を突き出す。
——重い衝撃。
何かが、弾かれた。
気づけば、男が目の前にいた。
ライフルのような杖から、
光の刃がほとばしっている。
それを——
僕の木刀が、受け止めていた。
……え?
そういや、なんか言ってたな。
この木刀、特別製だとか。
センリツが持ってきてくれて、説明もしてくれた気がするけど——
お菓子に夢中で、全然聞いてなかった。
「また……また貴様は馬鹿にするのか!?」
男の怒声が響く。
「かつて、私を完膚なきまで叩きのめした貴様が——
また、あの時と同じように『何者でもない』とのたまうのか!?
ふざけるのも大概にしろ!!」
……いや、ほんとに何者でもないんだけど。
そんな、言葉が地雷だとは、経験豊富なアラサーのおっさんで思わないよ!
ごめんなさい。
いや、謝る相手違う気もするけど。
……それはそれとして。
僕は、ある事実に気づく。
(あれ……?)
(こいつ……)
(もしかして——めちゃくちゃ強いんじゃね?)
しかも、めっちゃ怒っとるし。
血の気が、すっと引く。
やべぇ。
完全に失敗した。




