この方は、英雄です
***《スズ》***
アゲハの雄叫びに、思わず目をやる。
そこにいたのは——出来損ないの人造天使など比較にもならない、遥かに格上の存在。
魔法使いを束ねる、魔導師。
そして、その魔導師が率いる魔法使いの軍勢に、たった一人で立ち向かうアゲハの姿だった。
正気の沙汰ではない。
たった三人の人造天使で、ジャンク商会に乗り込むなどおかしいとは思っていた。
人造天使はあくまで陽動。本命は、やつらだったのだ。
だが——
まさか、迷彩術式を使った魔法使いの軍勢が潜んでいるとは。
スズでは、そこまで思考が及ばなかった。
そもそも商会内は、大規模討伐に出ているため、もぬけの殻だ。
スズは、ビル側に注意すら向けていなかったのである。
けれど——アゲハは違った。
無人の商会ビルに侵入しようとする、
迷彩術式を駆使した魔法使いたちを看過せず、
その正体を見破った上で——
わざわざ、呼び止めた。
たとえ無人であっても、
下賤の輩の侵入を許さないと——そういうのか。
考えてみれば、それも当然だ。
ここは、英雄たちの聖域なのだから。
ほんとうに、自分はどこまで甘いのか。
アゲハに頼まれた鍛錬にしたって、そうだ。
思い起こされる、数日前の出来事。
***《回想》***
酷く申し訳なさそうな顔で、アゲハは鍛錬を続けられなくなったことを告げにきた。
——自分のせいだ。
スズは歯を食いしばる。
力加減を間違えた。
いや、違う。
分かっていながら、止められなかった。
つい、指導に熱が入りすぎたのだ。
アゲハは、三英雄にバレないように、気持ちを抑えて鍛錬していたというのに。
それが分かっていて——自分は抑えられなかった。
情けない。本当に、情けない。
……責められても仕方がない。
そう思った。
だが。
「型を見せてほしいんだ」
アゲハは、そう言った。
責めるどころか。
俯くスズを気遣うように、逃げ場を作るように。
まるで——最初からそうするつもりだったかのように、そう頼んできた。
なんという向上心。
なんという、気遣い。
スズは、顔を上げることができなかった。
この人に、恥ずかしい姿は見せられない。
胸の奥が焼けるように熱くなる。
——応えなければならない。
自然と鍛錬に力が入る。
……いや、違う。
だから、自分は甘いのだ。
力を入れるなど当然。
——応えなければ。
ふと横を見る。
アゲハは、そんなスズの姿を慈しむように微笑みながら、
それでいて一切の隙なく見据えていた。
その目はやさしいのに、逃げ場がない。
——いや、違う。
これは全力か。
これが限界か。
スズは、自問する。
アゲハは見ているのではない。
——見極めているのだ。
自らが学ぶに相応しい動きかどうかを。
『───一切、手は抜けない!』
***
スズは目の前の敵に向き直る。
(あの人は、もう覚悟を決めている)
ならば——
自分が応えない理由はない。
力及ばずでも、あの決死の覚悟に報いねばならない。
例え、挽肉になろうと。
一歩も引かぬ。
スズは、木刀を握り直した。




