↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/111

金将会とお小遣い。 珈琲が甘すぎます!

談話室に入ると、玉のおいちゃんがタバコをふかし、テオはスプーンで珈琲をぐるぐるとかき混ぜていた。


テオは苦いものが苦手なくせに、こういう場になると格好をつけて珈琲を飲むのだ。


そして大抵、砂糖とミルクを山ほど入れた挙げ句、途中で嫌になって飲むのをやめる。


何がしたいんだろう、まったく。


「おいちゃん、お久しぶりぶりです」


僕が声をかけると、おいちゃんは顔を上げ、柔和な笑みを浮かべた。


噂では、かなり怖い人らしい。


けれど、僕はそういう姿を一度も見たことがない。


会えば大抵、照れたような、はにかんだような笑みを向けてくれる。


「アゲハちゃん、スズちゃん。元気にやってたかい?」


「元気です」


「はい。おかげさまで」


「そうかい、そうかい。おいで、お小遣いあげよう」


おいちゃんはそう言うと、懐から二つの封筒を取り出した。


受け取る。


……重い。


いや、封筒ってこんな重量感あるものだっけ?


隣では、スズがおずおずと受け取った封筒を両手に持ち、ふるふると首を横に振っていた。


「玉様、これはいけません。こんなにも頂けません」


くれると言っているのだから、貰えばいいのに。


玉のおいちゃんは、へへ、と笑った。


「スズちゃんは相変わらず真面目だねぇ。持ってるのが不安だったら、センリツちゃんにでも預けとくといいよ」


少し考えて、


「なんか、そうだ。夕飯のおかずでも一品増やしてもらえばいい」


と言った。


一品どころでは済まない気がする。


おいちゃんの後ろでは、ダンマが、


『オヤジの駄賃を突き返す気じゃないだろうな?』


とでも言いたげに、スズへ睨みを利かせていた。


いや。


返したら絶対、また因縁ふっかけてくるぞ、コイツ。


「スズ、貰っておきましょう。僕のと合わせて、センリツに預けておこう」


またシドの部屋ですき焼きでもいい。


手巻き寿司なんかも楽しそうだ。


これだけあれば、なかなか良い肉や魚介が買えそうである。


僕に言われ、スズはようやく封筒を胸元に抱えた。


「あ、ありがとうございます」


そして、玉のおいちゃんへ深々と頭を下げる。


「いいって、いいって。好きなもん食べな」


おいちゃんは嬉しそうに、また、へへ、と笑った。


それから一度、テオの方を見る。


「アゲハちゃんたちにも、ちょっと話があってね。それから――」


今度は、後ろに立つダンマへ目をやった。


「お前にも関係ある話だ。座れ、ダンマ」


先ほどまでとは少し違う、低い声だった。


怖い、というほどではない。


ただ、僕らに向けていた柔らかさが、すっと消えた。


「はい。いえ、自分はこのままで大丈夫です」


「いいから座れ」


おいちゃんがもう一度促す。


ダンマは一瞬黙ったあと、


「……はい」


と答えて、ようやく腰を下ろした。


金将会独特のルールなのか、それともヤクザな世界では当たり前のことなのか。


目上の人から、座れだの、食べろだの、飲めだのと言われると、一度は断るのである。


しかも『いいえ、座れません』ではない。


まず『はい』と相手を肯定してから『いえ、私は』と断るのだ。


この、しち面倒臭いやり取りは非常によく目にする。


センリツなんかも時々やるし、ミコトさんの部下たちにも似たようなところがある。


軍隊式なのか?


まあ、なんせ僕は素直なので、座れと言われれば即座に座るけどね!


そこがたとえ、上座であろうとも!


***


そして僕は、なぜかテオを抱えて座っていた。


なんだ、これ?


僕の横にはスズ。


その向こうにはセンリツが控え、正面には玉のおいちゃんとダンマが座っている。


テオは僕の腕の中で、もう珈琲を飲む気をなくしたらしい。


案の定である。


「下が、いろいろごたついててね」


おいちゃんは煙草をくわえ直し、火をつけた。


「テオの兄貴とも話したんだけど、金将会の一部をこっち――中層に移すつもりなんだよ」


ふうん。


僕は、テオから押しつけられた珈琲を見る。


すっかり冷めていたので、そこへ氷をいくつか放り込んだ。


これでアイスコーヒーである。


一口。


(……何じゃこりゃ、甘すぎるだろ!)


砂糖、どんだけ入れたんだよ!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。