金将会とお小遣い。 珈琲が甘すぎます!
談話室に入ると、玉のおいちゃんがタバコをふかし、テオはスプーンで珈琲をぐるぐるとかき混ぜていた。
テオは苦いものが苦手なくせに、こういう場になると格好をつけて珈琲を飲むのだ。
そして大抵、砂糖とミルクを山ほど入れた挙げ句、途中で嫌になって飲むのをやめる。
何がしたいんだろう、まったく。
「おいちゃん、お久しぶりぶりです」
僕が声をかけると、おいちゃんは顔を上げ、柔和な笑みを浮かべた。
噂では、かなり怖い人らしい。
けれど、僕はそういう姿を一度も見たことがない。
会えば大抵、照れたような、はにかんだような笑みを向けてくれる。
「アゲハちゃん、スズちゃん。元気にやってたかい?」
「元気です」
「はい。おかげさまで」
「そうかい、そうかい。おいで、お小遣いあげよう」
おいちゃんはそう言うと、懐から二つの封筒を取り出した。
受け取る。
……重い。
いや、封筒ってこんな重量感あるものだっけ?
隣では、スズがおずおずと受け取った封筒を両手に持ち、ふるふると首を横に振っていた。
「玉様、これはいけません。こんなにも頂けません」
くれると言っているのだから、貰えばいいのに。
玉のおいちゃんは、へへ、と笑った。
「スズちゃんは相変わらず真面目だねぇ。持ってるのが不安だったら、センリツちゃんにでも預けとくといいよ」
少し考えて、
「なんか、そうだ。夕飯のおかずでも一品増やしてもらえばいい」
と言った。
一品どころでは済まない気がする。
おいちゃんの後ろでは、ダンマが、
『オヤジの駄賃を突き返す気じゃないだろうな?』
とでも言いたげに、スズへ睨みを利かせていた。
いや。
返したら絶対、また因縁ふっかけてくるぞ、コイツ。
「スズ、貰っておきましょう。僕のと合わせて、センリツに預けておこう」
またシドの部屋ですき焼きでもいい。
手巻き寿司なんかも楽しそうだ。
これだけあれば、なかなか良い肉や魚介が買えそうである。
僕に言われ、スズはようやく封筒を胸元に抱えた。
「あ、ありがとうございます」
そして、玉のおいちゃんへ深々と頭を下げる。
「いいって、いいって。好きなもん食べな」
おいちゃんは嬉しそうに、また、へへ、と笑った。
それから一度、テオの方を見る。
「アゲハちゃんたちにも、ちょっと話があってね。それから――」
今度は、後ろに立つダンマへ目をやった。
「お前にも関係ある話だ。座れ、ダンマ」
先ほどまでとは少し違う、低い声だった。
怖い、というほどではない。
ただ、僕らに向けていた柔らかさが、すっと消えた。
「はい。いえ、自分はこのままで大丈夫です」
「いいから座れ」
おいちゃんがもう一度促す。
ダンマは一瞬黙ったあと、
「……はい」
と答えて、ようやく腰を下ろした。
金将会独特のルールなのか、それともヤクザな世界では当たり前のことなのか。
目上の人から、座れだの、食べろだの、飲めだのと言われると、一度は断るのである。
しかも『いいえ、座れません』ではない。
まず『はい』と相手を肯定してから『いえ、私は』と断るのだ。
この、しち面倒臭いやり取りは非常によく目にする。
センリツなんかも時々やるし、ミコトさんの部下たちにも似たようなところがある。
軍隊式なのか?
まあ、なんせ僕は素直なので、座れと言われれば即座に座るけどね!
そこがたとえ、上座であろうとも!
***
そして僕は、なぜかテオを抱えて座っていた。
なんだ、これ?
僕の横にはスズ。
その向こうにはセンリツが控え、正面には玉のおいちゃんとダンマが座っている。
テオは僕の腕の中で、もう珈琲を飲む気をなくしたらしい。
案の定である。
「下が、いろいろごたついててね」
おいちゃんは煙草をくわえ直し、火をつけた。
「テオの兄貴とも話したんだけど、金将会の一部をこっち――中層に移すつもりなんだよ」
ふうん。
僕は、テオから押しつけられた珈琲を見る。
すっかり冷めていたので、そこへ氷をいくつか放り込んだ。
これでアイスコーヒーである。
一口。
(……何じゃこりゃ、甘すぎるだろ!)
砂糖、どんだけ入れたんだよ!?




