↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/111

黒いスーツと野良犬と。目は合わせてはいけません

会計を済ませたら、お待ちかねの観光――そして、キャニオンでの昼食である。


どうやらカナタが、おしゃれなガレット屋さんを予約してくれたらしい。


そば粉のクレープと、自家製のソーセージが美味しいのだとか。

普通のクレープもあるらしく、木苺のやつが良さそうだった。


……そんなに食べられるだろうか?


わくわくしながら、そんなことを考えて店を出ようとした、そのときだった。


隣を歩いていたスズが、ふいに足を止めた。


僕は必死に見て見ぬふりをしていたのに……。


あーあ……止まっちゃった。


「すーずー……」


ため息まじりに僕は言って、その視線を追う。


ああ、やっぱり。


その先にあるのは、ひどく巧妙に隠された気配。


まあ、有り体に言えば――ジャンク商会が僕につけた護衛のいる方を、スズは見ていた。


スズがいるときまで護衛がついてくるのは珍しい。

けれど、今日は駅を一つ越えるのだ。


どうせ、過保護な英雄の誰かがつけさせたのだろう。


いつもの護衛とは違う。

けれど、見知った気配ではある。


だから僕は、そういうことにして無視しようと思っていたのだ。


そう、思っていたのだが!


スズが反応してしまった……。


「はぁ~……」


僕はもう一度、ため息をつく。


「スズさん……の、知り合いだろうか?」


僕らの様子から、カナタも気配に気づいたらしい。

そちらへ目を向けると、眉をひそめた。


「なんというか……危ない感じがするが」


カナタの目から見れば、スズは警戒している。


敵意を向けているのに、攻撃する意思はない。

なんとも微妙な距離感に映るだろう。


物陰に立っている男は、ジャンク商会の商会員と同じような黒服を着ていた。


ただし、胸につけているバッジが違う。


将棋の駒を象ったバッジに、金の文字。


――金将会。


その構成員。


いや、構成員というか。


ダンマである。


……まあ、蒸気一輪《モノレール》に乗った辺りから、僕もスズも気づいてはいたんだけどさ。


全力で無視してたんだぁ……。


なんでアイツが、僕の護衛についてんだよ。


僕が完全にガン無視しているからって、出てくんなよ!


つうか、無視されていることに気づいたもんだから、わざわざ少し目につくところまで出てきやがったんだろ、コイツ!!


「アゲハさま」


「目を合わせてはいけません。無視です、無視。あれは野良犬です。黒いスーツを着た野良犬なのです」


僕が言い聞かせるように告げると、


「野良……えっと……」


スズは困惑したように、もう一度ダンマを見る。


あとでテオにチクってやる!


多分、護衛をつけたのは玉のおいちゃんだろう。


下3層で何か問題が起きたのだ。


ダンマのやつ、僕の護衛を名目に、実働隊から体よく遠ざけられたのだろう。


そうに違いない。


「まあ、あれが馬鹿犬であることは否定しませんが……しかし、あの馬鹿、一瞬アゲハさまに殺気を向けました」


「言ったところで、どうせ『僕の後ろに何かいた気がした』とか言って、のらりくらりと誤魔化すだけです。絶対に認めません。放っておくのが一番です」


ここでスズと話し込めば、やつが寄ってきかねない。


というか、もうこの会話をしてしまった時点で、手遅れな気もする。


ほら。


だんだん近づいてきている。


こっちへ寄ってくる気配がする。


ジャンク商会の護衛には、あくまで気づかれていない体で尾行するという暗黙の了解がある。


こいつは、それすら守らないのだ。


『わざと』。


僕はあえて目を逸らした。


怖くはないが、面倒くさい。


「おやおや。これはこれは、アゲハのぼっちゃん。ご無沙汰してますねぇ」


聞き覚えのある、妙に馴れ馴れしい声がした。


「尾行にもすぐ気づかれたようで。さすがというか、なんというか」


なんて白々しい。


それに、さすが以外なら何だというのだ。


いちいち癪に障るやつである。


短い黒髪をオールバックに撫でつけ、眼鏡の奥にある目は鋭い。


背はそれほど高くない。

それなのに、ほかの構成員よりも遥かに大きく見えるのは、その態度のせいだろう。


態度がでかいのである。


ぼっちゃんと言いながら、頭を下げる様子もない。

ポケットに両手を突っ込んだまま、斜に構えている。


この男は、ダンマ。


金将会の紅棍《こうこん》。

ヤクザでいうところの若頭のような役職に就く男で、本来なら個人の護衛につくような地位ではない。


それなりの地位も実力もあるのだが、なんせ性格と素行に難がある。


だから下層で何かが起こると、実働隊から外され、こうして僕の護衛につけられるのだろう。


要は厄介払いである。


少なくとも、僕にはそうとしか思えない。


スズと一緒にしたくはないが、こいつも狂犬というか……いや、馬鹿犬なので扱いづらいのだろう。


誰彼構わず噛みついて回る。


ぶっちゃけ、正直に言うと。


僕はコイツがキライである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。