第100話 最悪の対抗戦の終わり。みんな何かを間違えます
無茶苦茶である。
シトロさんは、いつもの無茶苦茶論法でもって、力技で観客席を黙らせた。
あんなことを言われて、言い返せる者なんていない。
思うところがあったとしても、相手はあの災害級の英雄だ。
わざわざ舞台まで降りて、面と向かって物申すやつなんて、いるわけがないのである。
そもそもが、理不尽な賭けだ。
一年生は全員の退学を賭けているのに、上級生側は大したものを賭けていない。
そのうえで、なお強硬に一年生全員の退学を声高に要求できるやつがいたら、そいつはもう狂人と言って良いだろう。
まあ。
何はともあれ。
これで一年側の勝利は確定――ということで良いのだろうか。
そして。
長かったのか、短かったのかもよく分からない。
やたらと濃ゆい一週間も、これで終わった――ということで良いのだろうか?
「アゲハ様! お疲れ様です!!」
スズが駆け寄ってきて、僕にタオルを差し出してくる。
「ありがとうございます。スズもお疲れ様……それから、みんなも」
スズの後ろには、真剣な面持ちで僕を見据えるカナタ。
そんなカナタに支えられ、苦笑いを浮かべるシド。
そして、珍獣でも見るかのような顔で僕を見ているノラがいた。
一応、勝つには勝った。
けれど、なんとも危うい勝利であった。
「君は……一体……」
カナタは何かを言いかけた。
けれど、軽く首を横に振る。
「アゲハ君……いや、皆。すまなかった」
そう言って、僕らに頭を下げた。
「今回のことで、僕は、自分がどれだけ見えているつもりになっていたのか、よく分かった」
盤面を見誤った。
焦り、動揺し、戦力すらきちんと確認しないまま、戦いに挑んだ。
カナタは、そう言った。
「アゲハ君。僕は正直、君のことを侮っていた」
少しだけ言葉に詰まる。
「僕が導かなければならない劣等生なのだと決めつけて……その、見下していた」
……そう正直に言われると、返す言葉に困るではないか。
まあ。
なんとなく、感じてはいたけれど。
感じてはいたけれど、別に腹を立てていたわけでもない。
なんとなく受け流していた。
それに、カナタはカナタなりに、僕のことを考えてくれていたのだと思う。
僕もカナタも。
たぶん、友達の作り方が下手なのだ。
「僕の方こそ、すみませんでした」
カナタが顔を上げる。
「僕は……思ってました。こんなに頑張らなくても良いんじゃないかって。そんなに身を削らなくちゃいけないことなんて、ないんじゃないかって」
みんなの頑張りを、馬鹿にしていたわけではない。
カナタの責任感や、リノの思いを、軽んじていたわけでもない。
でも。
僕は、分かっていなかったのだと思う。
みんなが頑張っていることは、分かっていた。
分かっていた、つもりだった。
けれど。
こんなに追い詰められているなんて、思っていなかった。
勝てるなら、勝てるに越したことはない。
けれど、最悪どうにもならなくなったら。
シトロさんに頭を下げれば、なんとかなるんじゃないか。
心のどこかで、そう思っていた。
僕は、リノを助けたいと言った。
助けます、と言った。
なのに、結局はカナタに全部任せてしまった。
リノのことを一番よく見ているのはカナタだから。
カナタなら、きっとなんとかしてくれると思ったから。
それは、たぶん信頼だった。
でも。
信頼しているからといって、任せきりにして良い理由にはならない。
スズがいるから。
カナタがいるから。
リノやシド、それからノラが、きっとなんとかしてくれる。
どこかで、そう思っていたのだ。
僕はきっと、無責任だ。
「リノが起きたら、リノに謝らないと」
カナタは目を伏せた。
何かを言おうとして。
けれど、結局、何も言わなかった。
「ほんとに、ノラちゃんとアゲハを負け組にするとか、カナタ見る目なさすぎやん。カナタ、ブー」
沈黙をぶち壊すように、ノラがケラケラと笑った。
「まさか、アゲハがあんなバケモンとか、誰も思わんし! 普段、ぼーっとしてるだけやもんね!」
え?
僕って、そんなにぼーっとしてるの?
なんか最近、よく言われる気がする。
僕は思慮深く、常日頃から色々なことに考えを巡らせているだけなのだが。
「ノラ。それにカナタ」
横で、スズの声が低くなる。
「戒名は考えたか? アゲハ様への無礼な言葉の数々を悔やみながら死ぬと良い」
狂犬スズが、静かに殺気立つ。
けれど。
今までとは違って、そこまで本気ではない――と思う。
たぶん。
「アゲハ! スズちゃん抱きしめて!」
ノラの焦った声が飛んできた。
なんで僕が!?
とは思ったが。
僕は、とりあえずスズへ向き直ったのだった。




