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モブはラスボスから逃げ切りたい  作者: 黒鉦サクヤ


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無自覚お人好しのお兄様 1(妹視点)

 私は貧乏子爵家の末娘だけれど、とても幸せだと思う。

 ラシュリーというのが私の名前。上に二人の兄がいて、どちらの兄も私を大切にしてくれる。

 一番上のカミルお兄様は、お父様に似ていて赤茶色のサラッとした髪に私と同じ緑の目をしている優男風。見目がいいので女性の評価は高いらしいけれど、貧乏子爵家のため婚約者はまだいない。変な方が義姉になるより吟味していただいたほうが良いので、しばらくはそのままでいいけれど。

 次兄のリドルお兄様も婚約者はなく、お母様に似ていて栗色の癖毛で桃色の瞳。時折髪や瞳にも金色が見えてそれも良いと私は思う。明るく優しくて少しのんびりしているから女性うけもいいと思うのだけれど、本人は婚約者というものを気にしていないみたい。全体的に器用で、剣術や座学もそつなくこなし、人当たりも良いので領民からも好かれているのが特徴。体力があるからと、時折領民を手伝っていたりするから、それもあるのかしら。所謂お人好しだ。でも、自慢のお兄様でもある。

 そして、私はそんなお兄様たちの特徴を半々持っていて、赤茶の癖毛でふわふわの髪に緑の目。まだ成長途中だと思われるので、背はこれから伸びる予定だ。家族からは可愛いらしいと言われるけれど、身内びいきじゃないかしら。

 ただお父様、お母様からも愛されていると自覚しているし、お兄様たちも私に甘い。懐が厳しい中、今回のデビュタントに向けて、ドレスを新調してくれたし、タウンハウスで着る室内着も新しくなった。新しいものなんてなくても、皆が成人を祝ってくれるだけで嬉しいのに。

 だから室内着は少しでも長く着られるように、少し背伸びをしたデザインを選んでみたけれど、落ち着いたデザインと色も気に入っている。私の宝物だ。


 そうしてデビュタントに向けての準備をしつつ、先に来ていたカミルお兄様のいるタウンハウスにやってきたけれど、その日のうちにリドルお兄様が消えた。付近を散策してくるという話は聞いていたけれど、夜になっても戻ってこない。

 いい年した成人男性が一晩戻ってこないのを騒ぎ立てる必要はないのだけれど、あのリドルお兄様が無断外泊などあり得ない。どこに行くのにも、きちんと説明してから出かけるのだ。何かあったら出先から連絡をよこすくらい徹底している。

 連絡がないのは、よほどのことに巻き込まれたからではないだろうか。

 カミルお兄様たちと捜索するべきか迷っていると、手紙が届いた。


「無事です。トラブルに巻き込まれてまだ収拾がつかないので、今日は宿に泊まります、って書いてあるね」

「またお人好しなところを発揮してしまっているのでは?」


 今まで帰ってこないというトラブルはなかったけれど、自覚のないお人好しなのでよく巻き込まれ事故を起こすのだ。私たちは確実にそれだと顔を見合わせ頷く。

 お人好しエピソードは山ほどあるのだけれど、本人が無自覚なため気をつけるように言ってもその頻度は減らない。その行動がそうだと気づいていないからだ。しかも、苦労しているという意識が本人にないため、言うだけ無駄だった。


「今度は何をしているのかしら」

「犯罪には巻き込まれていないと思うけどなぁ」


 ひとまず連絡が来たことで、その日は解散となる。早々に寝て、帰ってきたリドルお兄様を捕まえなければならない。きっと、申し訳なさそうな顔をして、家に入ることができずにウロウロしているだろうから。


 翌朝、私の予想は的中し、門を入ったところで途方に暮れているリドルお兄様を見つけた。なにやら猫を抱えているように見えるのだけれど。

 何度見返しても黒っぽい猫のようだ。リドルお兄様とその猫らしきものが同じ魔力をまとっているから、重なっているように見えて判別が難しいのだ。

 私は魔力が見える珍しい体質のようで、子供のときは他の人には見えないものが見えるということで苦労した。遠いところにあるものは魔力のほうが目立つため、人の顔の判別が難しくなる。声や魔力の色を覚えて反応するしかなかったりと、結構面倒くさいのだ。

 でも、リドルお兄様だけはどこにいても分かった。黒に近い紫色でときたま金が光る、非常に珍しい魔力の色をしているからだ。私はこんなにも美しい色の魔力を、他で見たことがない。だから、猫らしきものがお兄様と同じ魔力をまとっているのが不思議でたまらなかった。

 私は慌てて玄関へと向かい、リドルお兄様の元へと走った。

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