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モブはラスボスから逃げ切りたい  作者: 黒鉦サクヤ


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10/11

タウンハウスにて 2

 ひとまず全員に納得してもらったあと、僕は自室に戻りため息を吐く。安堵のため息だ。基本的に領地に引き篭もっているため、たまにしか使わないけれど、ここは安心できる僕の城だ。ものが少なく殺風景でも、部屋に帰ってくるだけで安心するのだ。

 サティをベッドの上におろし、上着を脱いでソファの背にかける。あとでちゃんと仕舞うから、少しだけ脱力させてほしい。

 そのままソファに寝転がると、サティは隙間に飛び乗り丸くなる。せっかくベッドに置いてきたのに意味ないんだけれども。ずいぶんと甘えん坊の魔王だな。

 まぁいいか、とそのまま瞳を閉じる。

 少し触れ合った箇所から、心地よい魔力が循環する。温泉に入ったときのように、強張っていた体から力が抜ける。気持ち的に疲れてはいるけれど、この魔力循環のおかげで体調はすこぶる良い。癖になりそうな心地よさなのだ。

 これには困ったなと思いつつも、避ける理由が見つからない。手放せそうにないのだ。このままでは、魔王から逃げるなんて夢のまた夢だ。僕はただのモブだったはずなのに、どうしてこうなった。

 まぁ、どんなに嘆いたところで現状が変わるわけではないので、早々に諦め次の計画を立てる。

 まずは明後日行われるデビュタントを上手くこなしてからだ。

 すでに誰が暗躍しているのか目星がついているようだったし、おそらく明日にはコウモリ男から連絡が来るだろう。そこから話を詰めていけばいい。

 本当は魔族側だけではなく勇者や王族なんかの情報も欲しいところだけれど、生憎と僕の情報源は王都にいることが多い兄と執事夫婦くらいだ。情報屋に頼ることも考えたけれど、足がつくのは嫌だし、怪しまれるのも困る。

 調べられて困るのは僕の方だからだ。なにせ、魔王が従魔だし。反逆の意図ありとかなんとか言われて、勇者に葬られる未来が見える。嫌すぎる。

 僕は目立たずひっそりと生きたいモブなので勘弁願いたい。

 ただ、デビュタントのときに王族が来るはずなので、そこでなら本人たちの様子を確認できる。うまく隠している可能性はあるけれど、こちらには魔力の見える妹と魔王がいるのだ。

 あ、でもサティって身を隠すことってできるんだろうか。


「ねぇ、サティ。キミって影に隠れたり、姿を消したりできる?」


 前世読んでいた創作物には、影の中を行き来できたり、姿を消す者がいた。魔王ならできそうじゃないか、とダメ元で聞いてみたけれど、片目を開けたサティが頷く。


『影から影の移動は無理だが、契約者の影に隠れることはできる』

「おぉ! それなら一緒に参加できる。影から外を眺めることも可能かな」

『可能だ』


 ふむふむ、と僕は頷き告げる。


「じゃあ、それを踏まえましてお願いがあります。妹をエスコートする僕の影から、王族や会場の様子を見ていて欲しい。魂が見えるサティと魔力の見える妹で怪しいやつを探してくれると助かります」

『ほぅ。どんな魂を探す?』

「善行そうに見えて、腹の中では悪巧みしている人? 魂ってどのように見えるのか分からないからなぁ」


 でも、たくさんいそうだけれども。他人の不幸は蜜の味、って思っていて、私利私欲のために生きてる人を探せばいいんだろうか。


「見つけにくい?」

『いや、その手の者は案外分かりやすい。表情などはうまく隠せるだろうが、存在そのものである魂を偽ることはできない』


 探してみよう、とサティは言ってくれた。サティが怪しいと思った人物を、世間知らずの若者を装って周りに教えてもらおうっと。社交界に興味がないから、世間知らずは嘘じゃないけれどね。

 よし、大まかな方針は決まった。

 コウモリ男が持ってくる情報とデビュタントで僕たちが見つけた情報を精査し、次の行動を決める。

 僕はモブだけど、モブがモブらしく平和に生き延びるためには、世界を混乱に導くような者は邪魔だし必要ないと思うんだ。特に逼迫した状況に陥っていないなら、命をかけるような戦争なんてしないほうがいいに決まっている。

 モブはおとなしくしておけ、って怒られそうだけれど、大切な家族や領民たちが苦しむ未来は嫌なんだ。僕だってできれば目立つことはしたくないけれど、怪しい動きに気づいてしまいそれをどうにかできる手立てがあるのに、何もしない卑怯者にはなれない。

 よくお人好しって言われるけれど、できるのに何もしないのはなんか胸がモヤモヤとするから嫌だった。

 お人好しっていうよりも、自分と自分が好きな人たちの幸せのためにやるっていうか。理由はそんなところ。

 いつの間にかサティが枕元に移動してきて、僕の頬をぺろりと舐める。ざりっとした舌がくすぐったい。猫に擬態すると舌もちゃんと猫になるんだなぁと感心しながら、僕はそのまま揺りかごのような微睡みに身を委ねたのだった。

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