タウンハウスにて
宿を出て、やってきました、王都のタウンハウス。
貧乏子爵家なので、貴族街の一番端にひっそりと建っている。でも、建てた当時は今よりも裕福だったらしく、外観はしっかりとしていた。
人が住まないと家は廃れていくから、タウンハウスには王都の執事夫妻に住んでもらっている。大事に手入れしてもらっているので、王都に来たときも快適に過ごせるのだ。
さて、辿り着いたものの僕は中に入るのを躊躇っていた。所謂、無断外泊をやらかしているからだ。
すでにサティは猫になってもらっている。彼を抱いたまま玄関前をウロウロとしていると、入らないのか、とサティが頭に直接話しかけてくる。けれど、なんと言えば良いのか考えるだけで憂鬱だ。僕は今まで優等生だったので、無断外泊をしたことがなかったのだ。それに妹は少し複雑な目を持っている。何一つごまかせる気がしない。
僕が頭を悩ませていると、元気な声と共に玄関が開いた。
「リドルお兄様、早く私にその子を紹介してくださる?」
出てきたのは可愛い可愛い僕の妹であるラシュリーだ。
ふわふわとした緩いウェーブの髪は腰付近まであり、大きくぱっちりとした目は僕とは違い宝石のような緑色をしている。身内という目線抜きにも愛らしい容姿だと思う。
少し前まではフリルが好きだったようだけれど、デビュタントに向けて心境の変化があったのか、少し背伸びしたデザインのドレスを着ている。貧乏といえども、今までせっせとこのためにお金を貯めてきた。妹のドレスくらいは買える。はにかみながら嬉しそうに袖を通してくれることが、僕たち家族は嬉しいのだ。
そんな妹がサティに興味を持っている。
僕が無断外泊したことよりそっちが大事なのか?
そのことに少しショックを受けながら、僕はサティを紹介する。
「昨日、ちょっとしたことから保護してね。飼おうと思って」
「本当の事を知りたいんですけれど。ただの猫じゃないでしょう? だって、この子ってばお兄様と同じ色を纏っているんですもの」
やっぱりか、と僕は苦笑する。
家族しか知らないことだけれど、妹は他人の魔力が見えるらしい。
言葉が話せるようになってしばらく経った頃、不思議そうに言ったのだ。みんなの周りに見えるキラキラはなぁに、って。僕たちにはなんのことかさっぱりだったんだけれど、色見本を作ってどう見えるのか聞いてみた。すると、水属性が得意な母と兄は青系といったように、使える魔法の属性でだいたいの色が分けられるようだった。そこに、本人の色も加わるらしく、色はそれぞれ人によって違うのだそうだ。
僕の色は珍しいようで他に見たことがないと言われた。黒に近い紫で時折金が交じるのだそうだ。そんな僕の属性は無属性だ。妹曰く、無属性の人はだいたいが灰色らしい。もしかしたら、サティたちの僕が人間じゃない判定も、そこから来ていたりするんだろうか。あとで詳しく聞いてみたい。
そんな訳で、おそらくサティの魔力と僕の魔力は相性が良いらしいのと従魔契約しているので、同じ色をしているのだろう。
取り繕ったところでバレるので、ここはもう諦めて従魔契約のことを話してしまおう。
「いつの間にか従魔契約していて、それの反動でぶっ倒れてたから帰れませんでした。そして、この子はサティ」
「まぁ! 従魔契約した話はあとから詳しく教えてほしいけれど、サティと言うのね。可愛らしい。ねぇ、本当の姿はどうなのかしら。もっと大きな猫ちゃんなの?」
「んー、どうかな。僕もまだよく分からないんだ」
まさか、実は魔王です、人型です、とも言えないので言葉を濁す。サティにも、念の為に黙っておけと伝える。教えることがあっても、それは今じゃない。こんな往来で話すようなことじゃないし。
まだ話足りない素振りを見せる妹を促しながら中に入り、後ろ手でドアをしめる。物騒だからと鍵までしめた。
執事夫婦と兄には生温かい目で出迎えられ、僕の心はとても傷付いた。悪いことはしていないし、やましいことも……していない。この世界に来てのファーストキスは奪われたけれど、やましいことはしていないはずだ。
妹は気にしていないようだけれど、執事夫婦と兄のカミルは初めての外泊が気になるらしい。コウモリ男、ちゃんと手紙届けてくれたんだよね?
「ただいま。あの、連絡したはずなんだけれど」
「うん、来てたよ。トラブルに巻き込まれたので、今日は宿に泊まりますって」
「坊っちゃま、トラブルとは……まさか女性関係では……」
これ、駄目なやつー! もう少しいい感じの説明しておいてくれよ、コウモリ男、許すまじ!
僕は崩れ落ちそうになりながら、妹にした説明を再び口にする。
初めての従魔契約は体に負担がかかるって通説があるので平気なはず。しかも僕がしたのは魔王との契約なので、そんじょそこらの雑魚とは違うのです、と言いたい。言えないけれど。
サティは僕の話に、そうだよ、とでも言うように可愛らしい鳴き声を上げた。




