第27話 事務兼秘書の苦悩
【復興支援村 サンリー】
帝国王都で起きた正唱和事件。
反帝国勢力とされた団体はユミィーリア王女殿下の手によって解決された。
世間ではそのように認識されている。
王女殿下がベルデラの英雄や兵器獣と戦った勇敢な戦士達を率い返り討ちにしたという。
ある意味で間違っていないようであるが、噂というのは湾曲し伝達される物だ。
そして今サンリー村では、その王女殿下が移住してくるというとんでもない事態になっていた。
クレエス
「かしこまりました、そのように手配致します王女殿下」
ユミィーリア
「よ、宜しくお願いし、します!」
私は彼女の事情を詳しく聞いていた。
今回の移住の件は父上である国王陛下からのご褒美として頂いた物という。
詳しくはヴェアリアスの監視と共に貧困に苦しむ村達へ手を差し伸べるのが主な活動内容となっていた。
評議会が一時休止状態も相まって現在では商会組合と共に世界各地をみなで飛び回っている状態だ。
ユミィーリア
「あ、それと! 村にいる間は、その・・・王女殿下はその・・・きき禁止です!」
せっかくだからとヴェアリアスのメンバー全員には自分を呼ぶ時は王女殿下は禁止という規則を取り付けていた。
どうも私にはその必要性を感じなかったので通常通り呼んでしまったが、規則違反をしてしまった、ご立腹にしてしまったか。
クレエス
「大変失礼しましたユミィーリア様、以後気を付けます」
ユミィーリア
「ユミィー・・・え、あ、はい。こちらこそすみません」
何かまだお気に召さないことがあったのか。
首をかしげる。
フェーチス
「ユミィ様、クレエスさんも、お茶入りましたのでよかったらみんなでどうですか?」
ユミィーリア
「ありがとうございますー! 今行くから先に行ってて下さーい」
フェーチス
「はーい」
少女二人の自然な会話。
フェーチス様もあれからかなりユミィーリア様とお話しされて慣れ親しんだと聞く。
一体何が違うのか。
また今度考えてみるとしよう、今は公務優先だ。
クレエス
「では、ユミィーリア様失礼致します」
ユミィーリア
「は、はい! よろしくお願いします!」
部屋を後にし、フェーチス様のお茶のお誘いを断りマイハウスから村へと出る。
復興支援の村 サンリー。
カズキ様達ヴェアリアスがここの開拓に手を貸してからかなりの日が流れた。
当初は復興というだけであったが。
今となってはその規模を3倍近くにまで広がっていた。
それも全て王女殿下もといユミィーリア様の力があってこそだ。
ユミィーリア様の移住を聞き付けた人々の移住申請が殺到していたのだ。
老若男女問わず真人とそれ以外にもと多くの者が移住をしてきたのだ。
今は落ち着きを見せているが殺到時はカズキ様とクー村長、そしてユミィーリア様が首が回らなくなるほど頑張っていたそうだ。
及ばずながらサポートに徹していた、私には人を見極める目に自信がないので申し訳ない気持ちになっていた。
クレエス
「さて、予定確認」
今日のスケジュールの確認を頭で整理する。
まずは警備団体の訓練所の報告受け取りからだ。
早速足を運んだ。
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【復興支援村サンリー 訓練所】
パァアンッッ!!! パァアンッッ!!! パァアンッッ!!!
銃声の音が響き渡る。
訓練兵達が銃を構え遠くの的に目掛けて撃ち込んでいた。
ジュー
「撃ち方やめー!!」
一人の犬人族の声で一同は構えを解いていた。
統率の取れた動きだ。
クレエス
「ジュー隊長、お忙しい所すみません」
ジュー
「おぉ! クレエス殿、申し訳ありませんご足労頂き」
クレエス
「お構いなく、こちらがシュリー様より頂いた参りました資料です」
ジュー
「ありがとうございます! お前ら、休息に移れー!」
「「「「「応っ!」」」」」
隊長の一声でみな一斉に動き出した。
彼はカズキ様よりサンリーの警備団の隊長を任命された犬人族だ。
そして彼等が持つ武器、それはカズキ様とシュリー様が考案開発した「真素銃」という杖に似た形状の鉄で出来た物だ。
正唱和事件の後にカズキ様とシュリー様は自らの技術を駆使し銃を開発、それを扱うように犬人族を訓練していた。
銃の出来は通常の兵士の甲冑を貫通させるほどの威力を有している。
だが、その力はサンリーのみで秘匿することになった。
あまりにも強い力の為に安全に安全を重ねる為に日々訓練を欠かさないようにしているという。
クレエス
「如何ですか真素銃2号の調子は」
ジュー
「えぇー、こいつがあれば敵を撃退するのは容易いですが・・・ただ」
歯切れの悪い回答だ。
ジュー
「個数がどうしても足りませんね、今はみなで使い回して訓練してますが、この資料にもある通り一人一人持たせた方が愛着というか、使命感を掻き立てる素材になると思うんですよ、クレエス殿はどう思われます?」
クレエス
「愛着ですか・・・」
あまりピンと来ない。
確かに自分専用という物には少なからずの力を増す要因の一つという事は冒険者ギルドで働いていた時から冒険者達の会話から察していたが。
どうも自分にはその愛着というのがよくわからない。
クレエス
「わかりました、そのように報告してみたいと思います。 生産台数の増加は元々議題に上がっていたものですのでその際に進言しておきます」
ジュー
「感謝します! よろしくお願いします!」
そして彼は振り返り休憩の団員に休憩を終えさせ訓練を再開した。
今度は身体能力向上の訓練を開始するようだ。
クレエス
「愛着・・・ですか」
一先ず言われた通りに報告しよう、今は自分の疑問は後回しだ。
次の用事は、ユミィーリア様より頂いた用事だ。
目的地はクー村長の家。
すぐに足を運んだ。
【復興支援村サンリー クー村長家】
クレエス
「失礼致します、クー村長」
クー
「あークレエスさん、お待ちしておりましたよ」
村長の家へは何度も足を運んでいる。
彼女の家は代々より服などの生地を作ることで生計を立てている、帝国でも名の知れた家系だ。
現在では村の事で手一杯だったのを孫娘のミュー様が手助けを名乗り出て少し余裕が出てきたそうだ。
クレエス
「こちらがユミィーリア様より預かってきました注文書です、厳選されました物が多く含まれていますので素材等の手配は2枚目の方へ記載して頂ければと思いますが如何でしょうか」
クー
「ふむ・・・どれどれ」
注文書を吟味する。
一字一句見落とさないようにしっかりと見ている。
クー
「うん、承りました。納品期日が少し辛いように思うからまた人手の手配お願いできるかね?」
クレエス
「承りました、では私の方でまた人材の表をまとめたも」
クー
「いやいや大丈夫、クレエスさんが選んでくれた子達なら安心できるからいつでも連れてきておくれ」
クレエス
「ですが・・・」
人選を任せられた。
それは非常に困る、自分の業務に支障を来たすことはないが。
クー
「クレエスさんにならお任せできますので、後はよろしくお願いします」
クレエス
「・・・承知しました、不備がないよう尽力致します」
はいお願いします、とだけ言い村長は奥へ仕事に戻った。
安心・・・できる?
一体何故・・・。
今日はどうも考察の課題が増えていく。
だが、今は足を止めるわけにはいかない、次の場所は、建築開拓中の場所だ。
急いで現場へと向かった。
【復興支援村サンリー 開拓地】
そこは村の端。
大勢の移住者達の家などを建築していた。
そこにはアマゾネスの大柄の女性が大きな丸太を担いでいた。
アニレナ
「おーーーい! 飯の時間だー、きりのいい所でやめろよー」
ドォオン、と巨大な丸太を所定のところに置いて汗を拭っていた。
彼女は先日に新たにサンリーの一員になった一人、第5騎士の方だ。
面識はあまりないが、気作な良い方だと聞き及んでいる。
クレエス
「お疲れ様ですアニレナ様、昼食中に申し訳ありません。 先日議題に上がりました第5騎士団施設の資料をお持ちしました」
アニレナ
「おういつもすまないね」
資料に目を通しながらサンドイッチを食べる。
周りを見回すと同じようにして地べたにみな座り談笑しながら昼食を取っている。
みな新しい移住民達であり、今は自分達の家を建設しているという。
アニレナ様が力仕事なら任せてほしいと名乗りでてからの作業効率は格段に上がった。
元々人をまとめ上げるのが上手い方であるのも相まって、村民からは親方とも言われることがあるようだ。
アニレナ
「んーー、となると内装が大変になるかやっぱ。 よかったらあんた等の意見を参考にしたいな」
クレエス
「私・・・でございますか」
アニレナ
「そう、元々話してたんだがよーせっかく作るなら王都本部なんかより違うもん作ろうって話しになったんだよ」
初耳だ。
彼女達騎士団はただの職場の同僚付き合いとは違うことはわかっていた。
恐らくまた何処かお酒の席などでも話していたのだろうか。
アニレナ
「そんでよーあたし等じゃああんまいいアイディア浮かばなくてさ、だったら他の人の意見を参考にしようって話しが出てきたんだよ、どうだい?」
用件は一先ず把握した。
となると、ヴェアリアスのメンバーのスケジュール調整や確認が必要になる。
クレエス
「かしこまりました、では一度カズキ様達の予定を確認し次第またご報告致しますがよろしいでしょうか」
アニレナ
「あいよー、最悪あんた一人でもいいんだがねクレエスさんよ」
クレエス
「私一人・・・ですか?」
アニレナ
「ん? 何か変な事言ったかいあたし」
変?
一瞬頭の中の整理が追いつかなかった。
クレエス
「いえ、一先ず持ち帰り検討致しますので」
アニレナ
「おう、宜しく頼むよー!」
頼み、目の前の食事を楽しみ出した。
それを見て現場を後にした。
私の参考・・・?
どうして彼女は私の意見などを求めたのだろうか。
また課題が増えた。
だが、今日中に終えなくてはならない事がまだ多い。
考えるのを後にし次の現場へと向かった。
【復興支援村サンリー 見習い研究所】
ここは先日のユミィーリア様が移住される前に出来たところだ。
元老院より大掛かりな申請を受け入れて出来た施設だ。
表向きはナイクネスとサンニングの学者達の合同交流を目的とした研究を主に活動している場であるが。
参加する者の殆どは若く、割合も女性が多い。
その理由はシュリー様にあった。
シュリー様の大きな功績を称え少しでもお手伝いできればと集まったのがこの見習い研究所というところだ。
本来各自の研究を進めて行くはずが、シュリー様の研究支援としての活動がほとんどを締めていた。
自称弟子。
彼女達はそう口ずさみ日々を過ごしているとのことだ。
ネシー
「あちちちちっ!! あっつーー!!」
一人の少女が手を冷やしていた。
彼女は先日の正唱和事件の関係者の一人であり伯爵令嬢。
元々真素研究に興味があったようでシュリー様の弟子入りを志願したが断られた、のだが。
カズキ
『あれ、でもサンリーに見習い研究所昨日だか作ったよね』
カズキ様の提案でネシー様もこちらの一員として日々研究に勤しんでいるとのこと。
その後シュリー様にまた叩かれたとかなんとかはまた別の話だ。
それから彼女は王都から毎日ではないが通い詰めているという。
常駐も考えたが家族との団欒を大切にしたいということらしい。
ネシー
「あちゃーまた失敗かー」
クレエス
「お疲れ様ですネシー様、シュリー様よりお預かりしている物をお持ちしました」
ネシー
「クレエスさん! ありがとうございます!」
研究員の中でも彼女が一番シュリー様と仲が良いとされているようで、シュリー様のお使いなども率先していくような事が多くなり、いつしか彼女がシュリー様の伝言役として迎え入れられた。
彼女には元々才能があったらしく、元々常駐している研究員とも上手くやっているようだ。
ネシー
「うわぁ凄い・・・」
シュリー様から渡された機械を手に取り感動していた。
流石に私には何がどう凄いのかわからない物だ。
クレエス
「皆さんにはこちらの資料に書いてあることをお願いしたいそうです」
ネシー
「あ、ありがとうございます! みんなー!シュリー教授からのー!」
ネシー様の声にみな反応しぞろぞろと集まった。
シュリー様は彼女達達から教授と呼ばれていた、本人はあまり良い顔はしていないように感じたが押し通しているらしい。
何やら各々持ってきた物を見て一人一人喜んだり、称賛したり、呟いていたりと色々な反応を示した。
ネシー
「ありがとうございますクレエスさん! 私達も負けないように頑張ります!」
手を冷やしながらも満面の笑顔で答えた。
クレエス
「シュリー様としてはネシー様が馴染めないか心配されてましたが、この分だと大丈夫そうですね」
ネシー
「はい! ここの方々みんな優しくて素敵な方ばかりですから、クレエスさん達にも負けないくらいです」
クレエス
「私達・・・ですか」
私達・・・?
ヴェアリアスの事を彼女は言っているのだろうか。
ネシー
「いつもみんな楽しそうにしているので、私達もそれを見習おうって決めてるんですよ!」
クレエス
「そう・・・でしたか、ではシュリー様にはそのようにお伝えしておきますので」
ネシー
「はい! よろしくお願いします!」
またもや素敵な笑みで答えた。
そしてネシー様もお届け物を中心に出来た人だかりの中へ身を投げ入れ消えていった。
それを確認し私も研究所を後にした。
クレエス
「私達が・・・楽しんでいる・・・」
実際みな楽しそうに日々を送っているようにも感じる。
事実楽しんでいるのだろう、一人一人が懸命に役割をこなし、まるで家族の団欒のようにみなでご飯を食べる。
クレエスさん・・・達?
自分も含まれていた、彼女はそう言った。
クレエス
「・・・・・・はぁ」
長い年月生きてきたが本当に何十年ぶりにこういった溜息を漏らしただろうか、自然と出てしまった。
クレエス
「次・・・」
またもや課題が増えてしまった。
余計なことを考えることはしないようにしよう。
今自分がやらねばならないことをしっかりとこなさなくては。
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【復興支援村サンリー ヴェアリアスマイハウス】
今日一日の予定業務はほぼ終了だ。
あとは最後にエイジルト上司への定期連絡が今日だったのでそれを終えて終了だ。
エイジルト
「ふむぅ・・・話しには聞いていましたが本当に凄いことになってますねーそちらは」
クレエス
「環境の激変の鎮静はかなり進んでいるように感じます、このまま行けば以前よりお話しをしていました冒険者ギルドの新設も可能かと思われます」
元々サンリーへギルドの設置を予定していた。
だが、開拓が進むのはわかっていたが、ギルド新設の規模の規定数に達するかはまだ不明瞭な部分が多かった為に先延ばしの保留になっていた。
それもユミィーリア様のお力が村の発展の拍車を掛けたのは言うまでもない。
エイジルト
「んーー、本当に必要かね」
急な事を言う。
前回までの話では、ギルドの新設も夢ではないと前向きに考えたいとおっしゃっていたが。
エイジルト
「君はどう思う? クレエス君」
クレエス
「私ですか・・・」
またか。
また自分の意見を求められているのか。
今日一日はどうもこういった質問が多い。
クレエス
「・・・必要、だと思われます。以前お話しした通り冒険者ギルドの新設は本部としても願うべき部分かと思われます」
エイジルト
「ほぉ・・・」
声色が急に変わった。
今日の上司は何やらいつもと調子が変だと見受けられる。
いつも報告では一、二言しか物言わないが、今日はどうも喋る印象だ。
クレエス
「どうか、されましたでしょうか」
エイジルト
「いやぁ? ただクレエス君らしからぬ・・・とほんの少し思っただけだよ」
クレエス
「らしからぬ・・・?」
上司の言っている意味がわからない。
確かに少し疲労が溜まっていたのかもしれない。
ここ最近の業務量は倍以上に膨れ上がったと言っても差支えない。
身体を休める時間も減らしてしまっているのも問題か。
エイジルト
「ふん、まあいい。それよりもクレエス君最近は忙しいとは思うけど一度こっちに戻ってくる日はあるのかい?」
戻る? ベルデラへということか。
用事があればベルデラへは行くが。
クレエス
「おっしゃっている意味がわかりかねます」
エイジルト
「あぁー誤解しないでくれ、私ではないんだ。最近レザリア君が君の心配をしているんでね、毎日のように私に突っかかって来るんだよ」
レザリアが?
そうか、私がこちらに派遣されてから彼女に色々と任せっきりで大変なのか。
エイジルト
「元気にやってるとは言ってるだがね? まぁーそのなんだ、時間が空いた時にでもドトルに顔を出してくれないか、今の君を見たら彼女達も喜ぶと思うから」
今の私?
上司の言うことはわかる、間接的ではあるが部下である私の安否確認なのだろう。
言われてみればサンリーに派遣されてから一度もドトルへ顔を出していない。
エイジルト
「どうかね? その為の休暇申請なら通すつもりでいるが」
休暇。
これも言われて気が付いたがギルドで働くようになってから一度も休暇申請を出したことがない事に気付く。
とは、言っても・・・。
クレエス
「今はまだお答しかねます」
エイジルト
「そうか、ではまた報告を楽しみにしてるよ。あーカズキ君にもよろしく伝えといてくれたまえ」
クレエス
「承りました」
通信を終え、インカムを外す。
ふぅーと一息ついた。
何かモヤモヤとしたこの感じはなんだろうか。
一日中色んな人と触れ合って出来たこの感じ。
元々多くの人とやり取りしていたのはギルドの時から変わらない。
なのに、この気持ちの正体がわからない。
少し困ったな。
クレエス
「少し喋り過ぎましたか」
時計を見ると夕食の時間が過ぎていた。
恐らくみなもうリビングに集まって食事を取っているだろう。
私も報告書の整理をすぐに済ませ、下へと向かった。
ヴェアリアスでは何故かみなで出来るだけ食事を取るという風習が日課となっていた。
このマイハウスが出来た当初からやっていた伝統のような物だった。
決められた訳ではないが、私もその伝統に倣って食事を共にしていたのだった。
部屋を後にし階段を降りる。
フェーチス
「あ! クレエスさんお疲れ様です!」
クレエス
「いえ・・・もしやお待ちしていたのですか?」
ユミィーリア
「もちろんでございますよ、みなで食べるご飯は格別ですから」
レイドラ
「あぁー腹減った~」
ナザ
「俺も~今日は疲れたー」
大型のテーブルには料理が大量に置かれているが。
誰も手を付けていない。
ヴェアリアスのメンバー全員が席に付いていた。
本当に自分を待っていたのだ。
クレエス
「・・・・・・」
つい茫然と立ち止ってしまっていた。
シュリー
「なーに、突っ立ってるのよ。料理冷めちゃうわよ」
クレエス
「あぁ・・・先に召し上がっててもよろしかったのでは」
自分の仕事がいつ終わるかなんてみなには伝えていない。
それこそ一言言ってくれればよかったのでは思ってしまった。
サナミ
「いえ、今日の主役はクレエスさんですから」
主役?
一体サナミ様は何を言っているのだ?
別に誕生日でもなければ特別な日でもない。
サナミ
「はい! それじゃあみんな手を合わせて・・・」
い た だ き ま す !
クレエス
「いただきます・・・」
自分も流されて手を合わせた。
料理に目が行く、よく見たら以前自分が美味しいと言った物が多く並んでいた。
サナミ様の言葉、今日の主役とは一体・・・と考えていたらカズキ様が食事中に立ち上がりみな黙った。
カズキ
「これ・・・渡すの凄く遅れちゃったんですが、クレエスさんにプレゼント」
長い長方形の小箱を差し出された。
カズキ様を見て周りを見渡すとみなこちらに笑みを向けていた。
カズキ
「本当はみんなで王都からのお土産考えてたんだけど、あまり決まらなくて。 それでお留守番といつもみんなの為にありがとうって感謝の気持ちをこめてみんなで考えた物なんだ」
小箱を手に取り開ける。
そこには、紫色の綺麗な簪が一つ。
カズキ
「いつもありがとうございます。これからも一緒によろしくお願いします」
クレエス
「・・・・・・・・」
プレゼント。
一体、他人からのプレゼントなんていつぶりだろうか。
頂いた簪から目が離せないでいた。
ドンンッッ!!!!
カズキ
「ぐえぇ・・・」
吹き飛ばされた。
サナミ
「そのお店選んだの私なの!!!」
フェーチス
「噂を何件か聞いたのは私です!!」
ユミィーリア
「選んだのは私なんですが!!!」
シュリー
「私はただの護衛役だけど」
一斉に詰め寄ってきて少しびっくりしてしてしまった。
彼女達が考えてくれたのか。
一度髪を解き、簪を手に取った。
期待の眼差し達が私一人を見る、こんなのは初めての体験だ。
髪を束ねている時をこんな近くでまじまじと見られることは流石にない。
そして、束ね終え簪を付けた。
サナミ フェーチス ユミィーリア
「「「はあああああーー」」」
シュリー
「へぇ・・・」
みな期待の眼差しから一変してまるで感動したのかのような表情へと変わった。
その顔に一瞬と惑った、それに少し・・・恥ずかしい気持ちにもなった。
フェーチス
「素敵です! クレエスさん!」
サナミ
「うん!うん! 凄い素敵!クレエスさん」
ユミィーリア
「見立て以上です!!クレエスさん」
シュリー
「似合ってるわよクレエス」
お世辞でもなんでもない感想。
流石の自分でも、わかる。
本当に心の底から彼女達は言ってくれている。
鏡がないから今自分がどんな状態なのか、わからない。
いや、確認する必要もない。
今彼女達が言ってくれたのが全てだ。
それ以外に、今は必要ない・・・そう必要なのは・・・。
クレエス
「・・・・・・皆さん、ありがとう」
サナミ フェーチス ユミィーリア シュリー
「「「「う"っ!!!!!!?」」」」
急にみなが赤面して恥じらって顔を隠した。
フェーチス
「あーどうしよう・・・ちょっとドキドキしちゃった」
サナミ
「贈り物のはずが・・・なんだろうこの気持ち」
ユミィーリア
「ふわぁあああ・・・」
シュリー
「ちょ・・・ちょっとびっくりしたわね」
一体どうしたのだろうか。
また何か変なことを言ってしまったのか、ただの感謝を述べただけなのに。
ナザ
「何!? 何があったの!?」
カズキ
「知らん! え!? は!?」
レイドラ
「あーーむ、もぐもぐ・・・」
男性陣が急に立ち上がり事情説明を求めていた。
とは言っても説明も何もしようがない。
ユミィーリア
「駄目でーす、教えれません」
フェーチス
「ですよねー、乙女だけの秘密ですね」
サナミ
「はははっ、今回は残念だったね」
シュリー
「あんた等が生きてる間にまたあればいいけどね」
人をまるで災害か何かみたいな言われようだ。
そしていつも食卓、談笑が入り乱れた。
簪を触る。
食事を取りながら考えた。
今日一日で起きた課題。
愛着。
信頼。
自己。
そして団欒。
全ての課題は解決した、そんな気がした。
何故なら考えるまでもなかった、ただ気が付いただけだったのだから。
そう、ほんの少し・・・気が付いただけなのだから・・・。
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【第2都市ベルデラ 冒険者ギルド ドトル館】
レザリア
「ようこそ冒険者ギルドへ・・・って!! クレエスゥゥウウ!!?!?」
正面玄関から入って第一声はレザリアの物だった。
エイジルト上司の言うように、用事のついでではあるがドトルへ足を運んだ。
そしてレザリアの大声で多くの冒険者達からも目線を貰う。
今日は、ヴェアリアスのみんなにベルデラへ向かう途中にドトルへと顔を出すと報告をしたら女性面子に一度拘束された。
レザリア
「えぇ!? クレエスがお化粧と・・・え!!?」
まだ驚き続けるレザリア。
そう私はみんなから化粧と衣装のセットを用意されこれで行くように勧められた、いや命令された。
いつも通りで何の問題もないと言ったのだが聞き入れてもらえなかった。
「マ、マジか・・・あのクレエスが・・・」
「嘘だろ・・・すげぇ・・・」
「俺サンリー行ってくるわ」
冒険者達の会話は良く聞こえないが、談笑の邪魔をしてしまったようだ。
そんな中レザリアが近況の問いをしている時、上から私を呼ぶ声が聞こえた。
エイジルト
「おやおやおやおやおや! これは驚きです。 そうですかそうですか・・・実に結構結構、ご苦労様ですクレエス君、わざわざ来てくれてありがとうねーうん! では」
それだけを言いに降りてきたのか、ただ私の安否確認が出来て満足したのか。
だが、私の目的はエイジルト上司でもあった。
クレエス
「あの・・・休暇申請・・・お願いしてもいいですか」
それが、私の生まれて初めての・・・休日を取る為の。
一日だった。




