第23話 正唱和団
晩餐会で起きた出来事。
世間一般的には、また何かの裁きが下されたとされ知れ渡った。
だが私達にとっては違った物だ。
第2近衛騎士団が王女殿下、ユミィの騎士の座を私達第5近衛騎士団から奪ったきっかけの出来事だった。
第2騎士達がその事を利用して動いたのか、もしくは意図して作りだしたのか私達にはわからなかった。
そして私達はヴェアリアスのみんなと一緒に今王都で起きている反政府勢力と呼称される事件が今回の件と関わりがあると推測して、究明に取り掛かっていた。
元々事件の情報もほぼ無くお手上げの状態だった私達に、シュリーが出会ったという伯爵令嬢が訪れ私達を導いてくれた。
【王都ナイクネス 市街内】
私達は、先日入手した情報から街に繰り出し情報を収集していた。
サナミ
「そうですか・・・ありがとうございます」
貴族の屋敷に何件も足を運び話しを伺っていた。
私はクリルと一緒の班であり、他にはアニレナとナザ君。
お互いに一日に行く場所を決め連絡を取り合っていた。
クリル
「サナミ様、どうでした?」
サナミ
「うん、ここもそうみたい」
調べれば調べるほど、情報が出てきた。
今訪ねた貴族もある事象が他の貴族達と共通点として出てきたのだ。
最初は手当たり次第だったが、一つの法則性が浮かび上がった。
それは、騎士不適正通知である。
その事象は、その騎士不適正通知を出された貴族達に起きていたのだ。
それはアニレナ達も気付いていた。
クリル
「おう、ちょっと待ってくれ。 サナミ様、今アニレナから連絡があってとりあえずは予定した屋敷に向かうそうですが、私達はどうします?」
サナミ
「そうだな・・・」
聞き込み調査をすればするほど一つの確認しておかなくてはならないことが大きくなっていった。
それを調べるなら今しかない、と思いクリルに伝えた。
クリル
「え!? 自警団本部ですか!? い、いいですけど・・・」
サナミ
「アニレナ達には引き続き調査を進めさせて、私達は一回切り上げて自警団の方に行くって伝えて」
わかりました、と驚きからすぐに真剣な顔へと変わり察してくれた。
流石副団長だ。
先日までユミィの件でずっと落ち込んでいたのが嘘のようだ。
クリルからは挽回するっていう気持ちが凄く伝わる。
それはきっと私達だけじゃない、第5近衛騎士団の子達と。
そしてヴェアリアスのみんな。
今二つが一つの事に懸命になっている。
カズキさんの願いの一つ。
地位も爵位も騎士も冒険者も関係ない。
ただ一つの事に目指していく。
ヴェアリアスはそんな人達と手を繋ぎ、大きな架け橋の柱になりたい。
一人一人の色、多彩な色を大事する為に。
私も、力になりたい。
サナミ
「よし、クリルいくよ!」
クリル
「はい!!」
そして私達も足を動かした。
少しでも前に行く為に。
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【王都ナイクネス 宿屋】
それから数日の時が過ぎて私達も真相へと近付いていた。
サナミ
「それじゃあ、改めて私達が集めた情報をおさらいしたいと思います」
あれから宿屋は完全に私達の本部として機能していた。
店主さんとは古い付き合いで、一切構わないと優しく振舞ってくれ私も含めて非常に感謝していた。
そんな中私は夕暮れ時にみんなを集めた。
第5騎士の子達も一緒に聞いてもらいたかったが、部屋の大きさ上全員が座れる席を用意できなかったが、みんな立ってでも参加できる事を光栄だと言ってくれた。 本当にいい子達だと思う。
そしてもちろんヴェアリアスの全員にも集まってもらっていた。
カズキさんは最近ずっと色々飛び回っていて留守にすることが多かったが今日の会議には参加してくれている。
そうして始まった情報共有会だ。
まず第一に挙げられた物は。
伯爵令嬢さん、妹さんの話しを元に調べた物。
数日多くの人達に聞き込んだ。
そしてわかった事がいくつも浮上した。
それは失踪事件だ。
先日シュリーを訪れた妹さんの言うお兄さん。
その彼と同じような若いご子息が多くいて、その何人かが失踪しているという事だ。
だが、奇妙な事にその失踪した子達は度々王都で見かける目撃情報も多くあったという。
自警団に相談もしている貴族の方々もいるのだが、何処も成果を上げられないとされていた。
そして、先日の令嬢さんのお兄さんと同じく、夜な夜なに家を出て街へと消えていく子達が男女問わずいることが判明した。
頂いた情報の侯爵の屋敷に行く者もいればそれ以外のところでも若い子達が集っているという。
これに関しては自警団も一度動いたことがあるようだが、ただの親睦会として処理されてそれ以降手を出せないでいたとされている。
自警団も何の事件性もないという点から一切手を出せないということで、親元に報告してこの話は終えていた。
サナミ
「さらに・・・この親睦会は日に日に訪れる人達が増えているということがわかりました」
勢力が増している。
そして同時に失踪者も後を絶たないという話だ。
ナザ
「普通そこまでいったら王都全体が動くものだと思うけどな」
クリル
「一枚岩じゃないんだよ王都も、自警団が問題ないって一回判断しちまったんだ。それを覆すにはそれ相応の物が必要なんだよ」
クリルの言う通りなのだ。
彼等の親睦会が人殺しを行っているという証拠が自警団には、王都にはないとされている。
だけど・・・。
シュリー
「私達にはある、あの子の証言」
先日の令嬢さんの勇気。
おかげで私達はここまで動けた。
そしてこれに答えなくてはならない。
ここまで情報も揃い、私達の中ではほぼ確信に迫っていた。
その親睦会こそがこの事件の鍵であり、首謀。
サナミ
「以上が今私達がわかっている情報です、そして今後の調査はその親睦会に絞り動いていくようにします、異論のある人は?」
周りを見渡しても異議を唱える者はいなかった。
みんなやる気に満ちた顔で頷いていた。
ユミィの邸宅を追い出され絶望的になっていた私達に光りが見えてきた。
必ず・・・成し遂げる。
こうして我ら第5騎士団とヴェアリアスの合同情報共有会は終わった。
それから各自解散という形になったが私は今後の第5騎士団の体制等の話の為ヴェアリアスのみんな以外には残ってもらった。
【王都ナイクネス 宿屋 カズキとレイドラとナザの部屋】
カズキ
「んー・・・」
ナザ
「おーいっ・・・大丈夫か更に死に目になってんぞ」
カズキ
「シワが眉間にずっと寄ってるってレイドラにも言われた」
あれからレイドラとずっとあっちこっち飛び回っていた。
今は疲れているのかぐっすり寝ている。
といってもベルデラ、フタヤ、ヴォル、サンリーと行ったり来たりを繰り返しているだけなのだが。
それを数日続けているのに自分の中のもやもやは晴れないでいた。
明日はレイドラを休ませるか。
でもあいつのことだからきょろっとしてそうで逆に嫌がる気もする。
カズキ
「んんーーーーーーー・・・・」
ナザ
「ほら」
ナザから手渡された。
干し肉だ。
カズキ
「お、サンキュ。最近食ってなかったわ」
むしゃむしゃと頬張る。
前の世界で聞いたな、頭が働かない時はこういったものを口に含み口を動かし脳を活性化させるだっけか?
調べてもない入れ知恵だから自信はないが、気持ち的に楽になった気がする。 今度ガムでも作るか。
ナザ
「そういえば明後日だっけかな、王女殿下が参加する式典。なんだっけかな士官学校の創立記念式典だとかなんとか」
カズキ
「へぇーそんなのあるのか」
あまりに興味無い事に空返事をしてしまった。
士官学校の創立記念式典。
あの王女殿下も大変だな、あんな晩餐会があって第2騎士団の件があるのに。
となると、あの第2騎士団も一緒に参加するってことか。
あんな花の無いやつより今下にいる第5騎士の面々の方がまだ目の保養に・・・。
カズキ
「・・・あん?」
士官学校・・・第2騎士団・・・王女殿下・・・。
何だこの違和感・・・。
式典は明後日。
あの晩餐会は・・・一週間前。
カズキ
「ふーん・・・」
バリッ!
干し肉を噛み千切った。
そして半分になった干し肉をさらに口に放り込む。
カズキ
「ちょっと下行ってくる」
ナザ
「え?なんで?」
カズキ
「パンフレット貰いに」
部屋を出てすぐに下へと向かった。
階段を下りた先には騎士の子達をお見送りいつもの第5騎士メンバー。
俺はその一人・・・。
サナミ
「気を付けて帰るんだよー」
ガシッッ!!!!
サナミ
「・・・?」
カズキ
「今からいいですか? 二人きりで」
その人の肩を掴みこちらを向かせ言い放った。
掴まれた少女は顔を赤くして怯えているように思えたが関係ない、今は時間が惜しい。
カズキ
「いいですか」
ニーネ
「・・・や、優しくしてください」
そのままニーネさんを共有会で使った部屋へと連れて行き少しの時間拘束させてもらった。
何故かそれが終わって部屋を出た瞬間、みんなに袋叩きにされた。
何故かだ。
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【王都ナイクネス 宿屋】
第5騎士団とヴェアリアスが宿屋を根城にして数日が経つ。
そんな事はお構いなしと言わんばかりに事件も多く起きていた。
同じような殺人事件だ。
共通した札を首に下げた死体。
みんなが追っている親睦会と呼称した集団の犯行が続いていた。
その度に聞き込み調査を行っている。
だが、やはり第5騎士団の認知度が高いことから街での聞き込みをしている事を知る人は次第に多くなっていった。
今、その代償となってしまう出来事が起きてしまった。
サナミ
「妹さんが!?」
バラエ
「はい! 今目の前で兄と一緒にいる男と何処かへ連れていかれそうになってます!」
シュリー
「・・・っ!」
想定はしていた。
正直いつ動くかと少し怯えていたくらいだ。
勇気を出して私達のところに訪れたことは妹さんにとってリスクのあることだった。
敵の情報を妹さんが流した、そんなことを兄や仲間が知ったらただでは済まないことも。
シュリー
「通信の共有お願い、すぐに出る」
この為に常にいつでも出れるようにしていた。
幸いにもサナミとクリルがいる状態でよかった。
すぐに宿屋を出て向かう。
サナミ
「ちょっと待ってシュリー!」
サナミの静止を聞かずに向かう。
インカム越しにサナミと話す。
自分が先行するから後から付いてきてほしいと。
サナミは渋々了解してくれた。
私の気持ちを察してくれたのだろう。
もちろん無茶だけはしないと伝え、現場へ走る。
【王都ナイクネス 侯爵の屋敷】
真昼間の街。
みな昼食を取っているような時間。
人通りも少ない中、異質な空気を醸し出していた。
警護した騎士とも急に連絡が取れなくなった。
警戒を怠らずに屋敷を様子見る。
すると物影から声が聞こえた。
シュリー
「誰!?」
ライフルを取り出し構える。
だが顔を出したのは見知った顔の人間。
バラエ
「へへへっ・・・申し訳ねぇっす」
私服姿がボロボロのサナミの部下。
倒れ込むのを寸前で支えた。
シュリー
「まさか、あんた・・・」
バラエ
「いやぁ・・・ちょっと頑張ろうかと思ったんっすけど、ハハハッ」
自分の身体もわかっていないような笑み。
誰が見たってわかる、彼女を守ろうとして戦ったのだろう。
自分は戦いが不得意だと言っていた癖に。
シュリー
「ふっ・・・よく頑張ったわね、後は私に任せて」
その言葉を聞けて安心したのか、バラエは気を失った。
優しく抱え、壁に座らせた。
シュリー
(術技?・・・それにしても)
座るバラエの様子を伺う。
尾行の為の私服がボロボロだ、だが様子が普通と違う。
服が火でやられたような跡、水で浴びせられたように濡れているなど、不審な点が多かった。
相手はそれほどの手慣れということはわかる。
『お父様に伝えておけ、思い通りにはならないってな』
『彼等が一人だけでやったのかなって』
カズキの言葉が脳裏に浮かんだ。
やはり確証があったのだろう、証拠なんてものではないカズキの勘が。
シュリー
「・・・っ」
屋敷を見る。
一体奴らは何者なんだ・・・。
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【王都ナイクネス 侯爵の屋敷内】
「おらぁ!!」
「痛っ!」
投げ飛ばされて手を擦り剥いてしまった。
だがそんなことを考えている余裕はなかった。
大きな屋敷に連れ込まれた瞬間大きな広間の中央へ連れ込まれた。
そして投げられた場所は広間のど真ん中。
辺りを見渡すとまるでまるで微動だにしない人間が自分と兄を取り囲んでいた。
「御苦労、我が同志よ」
「はっ!この度の失態、誠に申し訳ございません!」
兄が跪き頭を地面に叩きつけ謝罪した。
震えた声の謝罪。
今自分の目の前に座っている人が男性がリーダーなのか。
「えぇ、何も問題はありませんよ同志。 我々は人ではありません、そう帝国の意思なのですから」
男の右手を上げた。
その瞬間、数名の人間がこちらへと歩みよる。
「まっ、待って下さい!! お話しと違います!! 私は!!」
兄の必死な命乞いもむなしく取り押さえられた。
自分はその光景にただ何もできずに震えるしかできないでいた。
「同志よ、何を慌てている? 何も恐れる必要はない、今後も君は我らの同志だ」
男は兄の前まで歩み見下ろす。
まるで兄の言葉を楽しんでいるように。
目が違いすぎる。
自分なんかでもわかる、普通の人間がする目じゃない。
「同志もたくさんやられたじゃないですか、それが今度は自分の番になった。 それだけのお話しですよ?」
「お願いします! 私は・・・!私はぁあああ!!」
命乞いをするたびに男の表情が変わっていく。
笑っている。
こんな事をして。
「何でもします! これからも尽くします!!だから!!」
まるで聞こえないかのように男はバケツのような形をした物を受け取っていた。
あれは機械なのか。
鉄で出来ているとされている物、話しにしか聞いたことのない者だが機械仕掛けの何かが男の手にある。
そしてそれを兄へと被せた。
「お、お兄様に何をしているんですか!!!」
初めて声が出せた。
自分の大声が耳に届いたのか、男はこちらをみて不気味な笑みを浮かべた。
「いいだろう、ご覧になりなさい」
男の指示で取り押さえている人達が兄を自分に見えるように動かした。
顔全体に覆いかぶさったそれはあまりに不気味だった。
一番不気味なのが、あれを被ってからの兄が一言も喋らなくなったことだ。
あんなにも泣きじゃくりながらも懇願していたのがピタリと止まっていた。
「この機械は素晴らしいのですよ、私達に賛同する有志が手掛けた物でしてね。簡単に言うと我々の力と一つになる物です」
協力者、有志。
この人が一体何を言っているのかはわからない。
「私も専門家ではありませんので、全てを理解しているわけではない。ただこれはとても貴重な物なのですよ。 おや、もう終わりましたか」
軽い足取りで再び兄へ近付き今度は、機械の被り物を引き剥がした。
「っ!!!?」
その瞬間言葉が出なかった。
現れた兄の顔は目は白く涙を垂れ流し、口は大きく開き泡状の物に満たされ鼻から一緒に液体を垂れ流している、あまりに酷い姿だった。
殺された・・・たった数秒で、あっさりと。
「・・・どうしてこんなことを」
もう涙を流す事しかできなかった。
だが、男は益々頬が上がり喜んでした。
「違う、違うんだよ。最初に言ったでしょう、これは一つになる。 そう儀式のような物さ、お兄さんは生きている」
「な・・・何を言ってるんですか、兄は・・・」
目の前にいる一言もしゃべらないこの兄が生きている?
誰かこの人の言っていることを説明してほしい。
こんな状態が。
「この機械はね、人に廻る生命力を根こそぎ吸い取る能力がある、だがその生命力はしっかり保存されます」
生命力。
それを吸い取ったというならそれは死んでいるも同然。
「そう、その保存された生命力は、我々の糧となりそして力へと変えてくれる。 我々は弱い、弱いからこそ手を繋ぎ力を集わせ、強敵に立ち向かうのでよ。 だからその生命力は我々の武器! この力は我々を勝利へと導く希望なのです!」
糧? 力?
全く意味がわからない。
ただ一つだけわかったことがある。
この人達は兄を、その生命力という物を吸い取り殺した。
自分達に必要な武器の為に・・・もっと人を殺す為に。
「酷い・・・こんなの酷過ぎる」
「酷い? 何が酷いんでしょうか?」
男がこちらに近寄ってきた。
だけど逃げようにも腰が抜けて足に力が入らない。
「酷いのは・・・我々ではない。 酷いのは帝国だ! 君にもわかるだろう!? 君のお兄さんが! こうなってしまったのも!帝国のせいなんだよ!」
「お兄様が・・・?」
兄がこうなったのは帝国のせい・・・。
騎士になれなかったのも。
引き篭もるようになってしまったのも。
夜中に徘徊したのも。
こんな人達と関わったのも。
あの優しい笑顔が消えたのも。
兄から素敵な夢を奪ったのも。
自分から、兄を奪っていったのも・・・帝国のせい。
「そうなのだよ・・・、君のお兄さんは帝国に殺された!辱められ!指を刺され!居場所を取られ!全てを奪った!!」
帝国のせい・・・。
「帝国のせいなんだよ!こうなってしまったのは全部!誰でもない帝国が彼をここまで追い遣った!」
違う・・・。
「帝国の力が!無慈悲が!残虐が!非道が!悪が!」
違う!
「お兄さんの道を!可能性を!希望を!夢を!」
『ありがとう・・・おかげでたくさんわかったわ。本当にありがとう』
「違うっ!!!!!」
そうだ、違う。
「お兄様は、そんなことを思って夢を・・・夢を追っていたんじゃない・・・」
男の声が止まった。
「お兄様は、ただ自分が少しでも帝国の為になれればって思って」
震える身体を振り絞り訴える。
どんなに言われようと貶されても。
「お兄様の・・・夢を・・・お兄様の夢だけは、踏み躙るのだけは」
事実だ。
あの笑顔と、語っていた想いは、紛れもない本物だ。
「私が許しませんっ!!!!」
そうだ。
私がシュリーさん達に会いに行ったのは兄を止めてほしいからじゃない。
これ以上、兄が求めた夢を汚さない為だ。
私が愛した兄が求めた夢は本物だと、誰にでも誇れる物だと。
誰よりも一番近くで感じたこの気持ちを、守りたかったからだ。
兄の夢を・・・私も一緒に夢見るようになったから。
こんな人達に汚されるてはいけない、絶対にさせない。
させちゃいけないんだ!
「そうですか・・・なら」
男が近寄って来る。
まだ逃げようにも足が言うことを聞いてくれない。
それでも近付く男を見た。
まだ涙が流れている目で。
だけど、違う。
恐れない、今自分に出来る精一杯の抵抗を示す。
身体言うことを聞かなくても、力が無くても、この気持ちだけは折ってはいけない。
兄が私にくれた物の為に。
「では・・・我々の礎となって頂きます」
あの機械が近付く・・・。
それでも、私は絶対に絶望なんてしない!
パァアアァアアアアンッ!!!!!
大きな音がした瞬間、男の手が機械と共に弾け飛んだ。
「ぐあぁああああ!!! 手があぁあああ!!!」
悲鳴だ。
男の悲鳴が室内に響いた。
その瞬間出入り口が吹き飛び、扉が周りの人間の何人かを巻き込んだ。
期待を膨らませて・・・出入り口へ振り向いた。
土煙りの中からは自分が今一番に会いたい人が。
赤と黒の服を着た一人の少女が杖を片手に現れた。
シュリー
「ネシー・・・」
ネシー
「シュリーさんっ!!!!」
状況把握。
妹さんのネシーは動けない?
恐らく腰を抜かせているのか。
そして・・・一つの死体を発見した。
シュリー
「・・・っ!!」
ネシーとその死体をこちらに引き寄せる。
グラビティ・ムーヴ。
重力場で彼女と死体をこちら側まで引き寄せた。
ネシー
「シュリーさん・・・私・・・」
シュリー
「ううん、遅くなって・・・本当にごめん、危ないからじっとしてるのよ?」
二人を部屋の隅へと非難させる。
遅かった。
自分の詰めの甘さを呪う、想定出来たことなのに。
「これはこれは! 黒紅の天才が何用ですかこのような所に」
意気揚揚と喋る。
手を吹き飛ばしたつもりだが、痛みだけ取ったというところかしら。
シュリー
「あんたが、ここのリーダーかしら? 私の友人に随分な事をしてくれたみたいね」
「何を言うのですか、これはただの親睦ですよ? それでちょっとした手違いがあっただけです」
手違い。
それで人が一人死んでいることに何も感じないということね。
思った通り、歯止めの効かない、いや歯止めが壊れてしまってる。
シュリー
「もうネタは上がってるのよ、連続殺人の犯人があんた達子供の集団だってね」
「子供の集団・・・?」
シュリー
「えぇ、それとも何か素敵な名前でもあるのかしら? お子様集団さん」
片手でライフルを男へ向ける。
男は肩を震わせ笑っていた、私の得意分野か。
「ふはははははっははははははっは!!! お子様!!!? 違う!!!」
猛り狂ってる。
やはりお子様か、図星を付かれてすぐに熱くなるまさに典型だ。
「いいでしょう、教えて差し上げますよ! 我々は 正唱和団 !!
力無き者達で集い、正義を唱える者達です!」
パァアアァアアアアンッ!!!!!
銃声が響いたと、同時に一人倒れた。
シュリー
「そう、興味も無かったけど名称に困ってたの、今後使わせてもらうわ。ここで壊滅するかも知れないけれど」
「フフフフフッ我々は一人ではない、多くの同志がいる。そして今後も増え続ける! 我々正唱和団を止めることは出来ない!!!」
シュリー
「あら凄いわね、まるでゴキブリのようね。 けど目の前のゴキブリは駆除できそうで何よりだわ」
私の言葉に男が怯んだ。
だからどうしたという話しだ、ここにはネシーを助けにきた。
そのついでに掃除をする、ただそれだけの話しなのだ。
「まさか・・・ふふふっこの人数を相手にすると言っているのですか?」
パァアアァアアアアンッ!!!!!
シュリー
「早速二人目・・・あぁー扉にぶつかって倒れてる人達も入れるともっとだったわねごめんなさい、で? 何人いるのかしら?」
物騒な整いようのない顔が10人。
私とこの子の敵じゃないわね。
ただ気を付けることとしては、騎士っ子やったあの技か。
「くぅうう!!! やれお前達!!! ぶっ殺せ!!!」
まるでリーダーの言葉を待ち望んでいたかのように飛びかかってきた。
シュリー
「バレット グラビティウェーブ」
カシャンッ!
術技を唱えると同時にボルトアクション。
カズキが言うにはこのライフルにはボルトアクションという装填機構が搭載されているという。
詳しく聞こうにも「詳しくない」と言う、馬鹿みたいな話だ。
だが言う通りにやってみると案外面白く一つの術技をほぼ何度も打ち込むことが出来るものだった。
バレット、そして術技を唱えボルトアクションをすると唱えた術技の弾が真素のある限り連射できるようになる。
シュリー
「っ!」
一番最初に近付く人間に打ち込んだ。
弾丸が当たった瞬間重力の波が全身を襲い、勢いよく飛んでいった。
まず一人。
「何だ・・・今の・・・」
「機械・・・なのか・・・」
驚いていた。
機械? そんな物ならとっくの昔に私が発明している。
これはそういった物では、ない。
少なくても彼等の頭じゃ理解できないものだ。
シュリー
「足、止まってるわよ」
更に3発撃ちこむ。
屈強な体つきの男達が次々と吹き飛び気絶していく。
その光景はまさにただの暴力だ。
「くぅ!! ファイアショットォ!!」
「アクアショットォ!!」
術技、しかも6大属性。
これが正体か。
シュリー
「グラビティムーヴ!」
重力場を作り上空で全て避ける。
どうやら上に逃げる相手はあまり経験されていない様子で。
「うおぉおおおお!!!」
剣を持った男が突撃してきた。
ライフルを持ち変え応戦する。
相手の一撃一撃を弾く。
こんな時は小さい体が役に立つ。
「くぅ! ブレイヴスラァアッシュ!!」
今度は高等術技?
これは弾けない。
男の術技がシュリーと共に地面を切り裂いた。
ネシー
「ぁあ・・・シュリーさん!!!」
ネシーの声が響いた。
土煙りが晴れる。
シュリー
「大丈夫よ、ネシー」
「なっ!?」
術技を使った男の頭の上にシュリーは立っていた。
大振りな術技。
ただ使えば当たる物じゃない。
男の頭にライフルを当て付け引き金を引く。
パァアアァアアアアンッ!!!!!
男はその場で倒れ込む、それと同時にシュリーは地に降りた。
頭を潰すのは靴が汚れるので踏まないでおいた。
シュリー
「あら・・・その手に持ってる剣は飾りかしら、言っておくけど私は剣技を使われたら負けるわよ? 見ての通り遠距離の人間ですもの」
まるでさっきの近接戦を剣技ではないと謳う。
それもそうだ、私の身近には剣撃の化け物が多すぎる。
どうやら私の言葉に怖気づいたのか、前に出て来なくなった。
それもそうか、こんな臆病な奴らが来るはずもない。
力の使い方も知らない、ただ一人の令嬢にこんな大人数で取り囲んで喜んでいるような連中だ。
虫唾が走る。
シュリー
「バレット グラビトンバニッシュ」
カシャンッ!
新たな弾丸を装填する。
シュリー
「もういいわあんた等、少しは期待したけど。 お子様は寝る時間よ」
殺意を込め、銃口を向ける。
「ひいぃいいい!!!」
「た、助けてくれ!!」
「ど、どうしてこんなことを!!」
命乞いか。
カズキならどう言うかしら・・・そうね。
シュリー
「ゴキブリの命乞いなんか・・・うんざりなのよ」
同時に引き金を数回引いた。
弾丸を食らった者の周囲が強力な重力場を発生させた。
残りの人間全てが重力に耐えきれずにそのまま地面へと叩きつけられ倒れた。
一人も起き上がらない。
呆気ない最後だ。
シュリー
「・・・それじゃ」
リーダーへと銃口を向ける。
「ん、ああ・・・やめやめ!」
パァアアァアアアアンッ!!!!!
「ぐああぁああぁああ!!!」
膝を撃っただけで大げさな悲鳴だ。
だけど気絶しないだけ褒めてやりたい。
そして眉間に銃口を突き付ける。
シュリー
「ゴキブリにも言葉はしゃべれるみたいだから聞くけど、あんた達が使ったその術技と技術、どこから手に入れたの」
「し、知らない・・・!」
パァアアァアアアアンッ!!!!!
「ひぃぃいい! ち、違っ! 本当に!」
見苦しいとはまさにこの事か。
いつぞやのカズキを思い出す。
こうやって武器を突き付けて哀れな目を向けて良い分を聞く。
「私はただ・・・! 本部に渡されただけ!! あれがどんな物かなんて知らない!!」
本部ねぇ。
どうせその本部とかいうのは知らないんでしょうけど。
渡されたから使いました、用途はわからないけど使ったら凄かった。
だから自分の物として振る舞い、どんなことがあっても自分のせいじゃない。
シュリー
「はぁ・・・」
銃口をさらに近付ける。
これを殺してしまっても、大丈夫だろう。
そんな気持ちが湧きあがってきた。
そうした方がきっと・・・。
引き金に力が入る。
「たた、助けてぇえええええええ!!!」
悲鳴が室内に響いた瞬間、ライフルの銃口が下へと下げられる。
サナミ
「シュリー・・・」
サナミだ。
首を横に振った。
自分が罰を下す必要はない。
まるでそう言っている。
男に目を向けると、もう気絶していた。
それを見て一気に冷めてしまったのか、心の底から興味を失せてしまった。
ネシー
「シュリーさん・・・」
自分の名前を呼ぶ声。
振り向くとネシーが立ち上がって恐る恐る近寄る。
シュリー
「ネシー・・・ごめんなさい・・・お兄さんを」
目を合わせられなかった、背けてしまった。
もっと早く駆けつけていれば、ネシーのお兄さんを助けることは出来たはずなのに。
ネシー
「いえ!」
抱きつかれた。
自分よりも背が高い彼女はしゃがみ腰に手を回す。
ネシーの震える体が伝えわってくる。
私が来る間に一体何があったのかはわからない。
怖い目にあった。
慕っていた兄が殺され、自分も同じようになると思う恐怖。
それと常に戦い続けたこの子はきっと強い子だ。
ネシー
「シュリーさんは、約束を守ってくれました。 兄を・・・お兄様を止めてくれてありがとう」
止めた・・・。
ネシーがそう言う。
震えながらも抱き付く力が強くなる。
ネシー
「シュリーさんが・・・私の・・・私の中の、大事なお兄様を止めてくれたんです」
ネシーの大事な、兄。
そうか・・・止めてあげる事は出来ていたのか・・・私が・・・。
私なんかが・・・。
シュリー
(強い子・・・本当に・・・)
抱き付くネシーを両手で包む、不器用な抱擁。
けれど、ネシーの震えは止まった。
だが、逆に彼女は涙を流してしまった。
大声で泣いた、さっきまで溜め込んでいた物を一気に爆発させるように。
私は・・・ただそんな彼女に優しく抱いてあげることしか、出来なかった。
ナザ
「へへへ・・・なんかお姉ちゃんって感じだな」
カズキ
「あぁ、姉妹・・・年の差は離れてるがな」
俺とナザの救援なんて必要がなかった。
シュリーが一人で片付けたのだろう。
ネシーさんが誘拐されすぐにシュリーは飛んでいったようだ。
俺も王都でエイジルトと会っていたが、その時急に通信が入り報告を受け駆けつけた。
第5騎士は自警団に駆け込み事態の説明と応援要請を出してから現場へと急行しそして今に至る。
見る限りでは、死亡者は一人。
それがお兄さんか・・・。
そんな事態を憂うシュリー。
そしてネシーさんは、シュリーへ感謝した。
自分を救ったことに対してだけでない、兄を救った。
大事な兄を、兄の夢を汚されるのを止めてくれた。
愛した兄の夢、その夢に恋い焦がれた夢を救ってくれた。
ナザ
「・・・あの子凄いな」
カズキ
「そうだな・・・見習わなきゃな俺も」
そうだ、もう迷っている場合じゃない、臆病になっている場合でもない。
これ以上積み重ねてきた平穏、これから作っていく平穏達の為にも俺も行動を起こさなくちゃな。
ナザ
「お? もう行くのか?」
カズキ
「うん、彼女に勇気・・・もらったからな」
もう下手な遠慮はいらない。
そして確実にやる。
成功させるのではない、失敗させない為じゃない。
俺の全身全霊をかけるんだ。
結果は後に付いてくる、その後に考えればいい。
考えなしと言われようと、やり遂げること。
彼女のような振り絞る勇気と決意、そこに力なんて必要ない。
今の俺には彼女に劣るだろう・・・だが。
カズキ
「・・・力を貸してくれミツバ」
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これからも、輝く為にみんなと・・・。




