第13話 開発発展街 ヴォル
【ドライズ荒野 道中】
カズキ
「学会?」
シュリー
「そう、定期的にある学者同士の研究発表会ってところ。それがこの先の開発発展街 ヴォル で行われるの」
開発発展街 ヴォル。
規模こそ小さいものの、シュリーのような学者達が挙って出来た街。
多くの学者達がそこに集まりお互いの知識と経験を生かし世界に役立つ物、人類の進化に貢献をしているとのことだ。
だがシュリー曰く、ある程度の地位についてしまうと堕落し当初に活気した感情は無くなるという。
地位を手に入れた者は王国へ行き自堕落へ。
そしてこの街は常に若い新参者か一旗揚げそこなった落ちぶれしかいないという、いい意味にでも悪い意味でもと付け加えた。
カズキ
「難儀だな、真の発展、進化ってのは遠いものと」
シュリー
「私の知る限り発展や進化なんて所詮は結果、そして結果なんて誰もがわかる物じゃない、未来予知よそれは」
たしかにその通りだな。
結果は誰もわからないもの・・・か。
シュリー
「私達学者なんて最初の志はみんな似たり寄ったりでさず素敵な物みたいに感じるけど、実際は違うわ。ただの私利私欲、承認欲求、地位名声、そんなものよ」
それらが合わさり、進化の歯車は止まってしまう。
どれだけ凄い発見と発明をしたところで、それが世界に行き渡るのは相当に難しく、断念しそこで全てが終わりなかったことにもなる。
無くなってしまった後からの再スタートは本当に難しい。
まだ終わっていないと足掻く者、全て終わったと落ち者、次だと躍起になり空回りする者など。
本当の再スタートは本当に難しい。
カズキ
「なるほど、だから探究。最初から結果は求めてません、ということか」
これら全てはを払拭するには、根本的な物。
それは結果を求めず、全ては自分の為、初めから私利私欲の為に行動することで払拭する。
シュリー
「そんなこともないわ、私の最終目的は世界の全知。全てを知り尽くすことだもの」
これはまた大きくでた。
だが、それがいいのかも知れない。
目標はでかく大きく、全ては自分の大きな野望の為か・・・。
一つ一つに意味を与え、その意味が糧になる。
その為にも噛み締めて、溢さずに、一歩一歩正確に。
そうゆう生き方・・・悪くないな。
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カズキ
「ミツバ? なんだこの術技・・・?」
レイドラ
「マイロード、どうかされましたか?」
レイドラが頭上から降りてきた。
昨日はぐっすり寝たのかすこぶる調子が良く自分から飛行偵察をしたいとお願いされた。
断る理由もない為お願いしたが、絶対に無理だけはしないと十分に言い聞かせている。
カズキ
「ミツバだよ、また術技が」
レイドラ
「ぉお! 今度はどんな術技ですか?」
ウキウキとまるで自分の事のように喜び楽しむ。
純粋無垢な子からしたら新しい物に目がないのは当然か。
シュリー
「騒ぐのはいいけど、また街に入れなくなっても知らないわよ」
遠くからシュリーが呼びかけた。
確かにそれだけはもう勘弁だ
術技の件はまた後にしてシュリーの後を追った。
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【ナイクネス帝国 リオンエイド邸】
エイジルト
「以上が現状のサンニング軍の動きであります」
頭を下げながら報告をする。
報告相手はこの屋敷の当主、ノーディー・リオンエイド。
ノーディー
「あぁ、感謝するエイジルト。引き続き警戒をお願いしたい」
エイジルト
「かしこまりました、それで少し小耳に挟んだお話しがあるのですがよろしいでしょうか」
発言の許可を求める。
ノーディーはすぐに了承しエイジルトの言葉に耳を傾ける。
エイジルト
「本国の大襲撃、今回の東の神の眼、それに続き西でも不穏な動きが観測されました」
西の国、太陽神イフリートを信仰する国家。
武将国 ジャパニア。
ノーディー
「ジャパニアだと? ついこの間戦闘をしたばかりだぞ、また攻めてくるとでも言うのか」
ジャパニアとナイクネスは大昔からの犬猿の仲であり、軍同士の衝突は頻繁に起きている。
兵力もほぼ互角であり、物量のナイクネスに比べジャパニアは質量で戦う軍隊。
兵士の一人一人が帝国の近衛兵に匹敵すると言われているほどだ。
エイジルト
「まだ不確かな情報ではありますが・・・」
エイジルトが珍しく言葉を詰まらせた。
常に不気味な空気を醸し出すエイジルトが躊躇した理由。
エイジルト
「共食いです・・・ジャパニア同士での共食いが起きていると」
ノーディー
「なんだと・・・」
先日の大襲撃、サンニングの神の眼、そして共食い。
問題が起きすぎだ。
ノーディー
「一体リアタズマに・・・何が起きているんだ・・・」
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【王都ナイクネス城 王女の間】
サナミ
「以上が・・・今回のベルデラにて起きた大襲撃の全容です」
???
「え、あ、はい! 御勤め御苦労様ですサーちゃああ!!サナミ団長」
サナミ
「いえ、ユミィーリア殿下、我々は殿下を守護する者であり剣です、お気になさらずに」
ユミィーリア・エールス・ナイクネス
ナイクネス国王の子供の一人。
一番の末っこであり、第5近衛騎士団の長であり守護対象。
他の近衛騎士と比べて人数も少なく小規模なのは、姫ユミィーリアの存在だ。
姫のお守り、お目付け役、形だけの騎士団、鳥籠の中のお人形さん。
ありとあらゆる陰口を言われ続けている。
今回のベルデラを救った騎士団の栄光も上の者達に吸い潰される。
ユミィーリア
「えーーっと!!こたびの遠征御苦労だた! しっかりとエインキを、エイーキ・・・あー・・・っと」
サナミ
「フフフッ・・・英気を養う、ですか?」
つい笑ってしまった。
出来るだけ厳格な振る舞いをする殿下に付き合うようにしているが、一向に上達しない。
ユミィーリア
「あぁあ!!サーちゃん笑った!!むぅぅーー!!」
サナミ
「フフフッ、ごめんってユミィ」
ユミィとは幼馴染。
国王と将軍のお父様が昔からの戦友であり子供の頃からよく遊んでいた。
最近では大人しくなったが、内気なくせに好奇心旺盛で昔はしょっちゅう外を出歩き大人達を困らせ、一緒に怒られていた。
まだ騎士団も無い時から私はこの子を守ってあげなきゃという気持ちを持っていた。
それからは学び強くなり、ユミィの騎士団の団長の地位を得ることが出来た。
ユミィーリア
「でも、本当によかったよ。ベルデラの街が復興し始めて」
サナミ
「うん、これもユミィが無理を聞いてくれたおかげ。ありがとうね」
大襲撃があった時、真っ先にユミィは騎士団を向かわせた。
後に聞いた話では、騎士団も軍の一部の為越権行為として注意を受けてしまったようだ。
その為、街を救った手柄も全て後続に取られてしまった。
だが、そのユミィの行動があったからこそ騎士団は動き、人々を守ることができた。
みなは知らないとは思うが、ベルデラを救ったのはユミィーリア殿下だと。
本当だったら声を大にして私は言いたい。
サナミ
「これで当分は落ち着いてくれればいいけど」
ユミィーリア
「そうだねぇー、サンニングの事聞いた?」
近いうちに戦闘がある。
詳しくは聞けないでいたがまた一悶着あるようだ。
ユミィーリア
「なんでもサンニング軍の切り札があるみたいなんだけど、それを今うちの特殊工作員が対応してるんだってー」
サナミ
「へぇー、ユミィが安心してるってことはそんなに凄いんだ」
いつもならすぐにでも私達に出動要請を出して、何とかするように無理を言うけど。
ここまで安心しきった顔も珍しい。
ユミィーリア
「あれ?特殊工作員ってサーちゃんの知り合いじゃないの? 確かベルデラで一緒に戦ったていう」
サナミ
「えぇ? そんな人いたか・・・あっ・・・」
一人いた。
しかも思い出すシーンがシーンで顔を赤くしてしまった。
ユミィーリア
「えぇ!? 何何!? どうしたの!!? ねぇ!!」
やっぱり今でも好奇心旺盛は変わらないみたいだ。
ずんずんと近寄ってきて、キラキラとした瞳で事情を聞こうとする。
サナミ
「ちょちょちょっ!! いいの!私のことはいいの!!。そ、それよりその本当なの? その切り札に対応してるって」
残念がったユミィはしょんぼりしながら、うんと返事した。
カズキさん。
十中八九そうだろう、彼が一人で旅をしているのは知っている。
だがそんなことに巻き込まれているなんて知らなかった。
今も何処かで戦っている?
彼は強い、力もある。
優しく、時には厳しさも心得ているが、それゆえに彼の心は精細過ぎて脆い。
強くあり続ける強さ、そう彼は言った。
だがそれは、永遠と戦うということでもある。
目の前に現れる敵と、そして自分自身と。
一人で戦うとは、助けがないということ。
彼は強い、敵に負けることはなくても自分自身には負けてしまうことなんてある。
あの日の夜のように・・・。
ユミィーリア
「・・・サーちゃん?」
サナミ
「・・・・・・殿下、よろしかったら詳しい事情をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
自分に何が出来るかわからない、それでも・・・。
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【開発発展街 ヴォル】
シュリーのおかげもあり、無事に開発発展街のヴォルに入ることができた。
話しでは聞いていたが想像以上だった。
シュリーは学者の巣窟みたいな事を言っていたが全くその逆だった。
電灯が色鮮やかでまるで・・・。
カズキ
「歌舞伎町だ!」
シュリー
「は?」
レイドラ
「ん?」
すまん、そんな反応しないでくれ俺が悪かった。
ついつい元の世界の風景を思い出してしまってつい。
シュリー
「とりあえず、行き付けの宿屋があるからそこで今後の話しを・・・」
???
「おや・・・これはこれはシュベンザー博士」
カズキ
「・・・?」
背後から男が近付いてきた。
そのケツを追っかけるように屈強な体つきの大男二人。
良い雰囲気ではなさそうだな。
シュリー
「あら? 誰かと思えばヌーターのお坊ちゃんじゃない、随分と様変わりしたように見えるけど、孫にも衣装とはよく言ったものだわ」
開口一番に挑発。
やっぱり良い雰囲気ではないようだ。
シュリーの言葉に連れの二人は反応するが、ヌーターという男は静止させた。
ヌーター
「その物言い、元気そうで何よりですよ博士。本日ここへは何用で?」
シュリー
「あなたの許可が必要なのかしら?」
ヌーター
「滅相もない、ただ。 国王からの名誉ある研究を逃げ出した臆病な学者吸血鬼が、なにゆえこの街に起こしになられたのか? 非常に気になりましてね」
なるほど、因縁浅からぬ相手というところか。
男の一方的な片思いにも見えるが、ここは傍観が望ましいな。
シュリー
「あらごめんなさい、何の才も取り柄の無い、ただの成り上がりお坊ちゃんに手柄を譲ってあげたの。そのこともわからなかったようだから、今度からは書面を書いていくようにするわ」
やはり一方的なやつっぽいな。
見て聞いただけでも、器の大きさが違い過ぎる。
ヌーター
「才も・・・取り柄も・・・!! まぁいいでしょう、どうせあなたも明日の学会に参加するのでしょう? だったらその言葉を後悔させてあげます。私の作り出した神の眼に用いた研究成果でね」
カズキ
「・・・っ」
こいつ今・・・。
シュリー
「そう、期待しないで待ってるわ」
シュリーは元々気が付いていたのか、ポカーフェイスを決め込んでいる。
だが確証は得たのだろう、このヌーターという男が自分の研究の後釜を担ったと。
ヌーター
「ちなみに博士は、どういった研究テーマを発表されるのですか?よろしかったらお教え願えませんか?」
まるで興味がないのにも関わらず方便を垂れる。
この学者は絶対的な自信があるのだろう、それもそうか。
神の眼の研究、つまりはサンニング王国の命運を託された研究。
馬鹿でも自信をつけるだろう。
だが俺も少し気になる。
シュリーは一体どんな研究テーマを発表するのだろう。
俺達は出会ってから特別どこかに行ったわけでもない、つまりは出会う前から何かしらを見つけていたのか?
シュリー
「そうね・・・教えてあげるわ、私の研究テーマ」
カズキ
「・・・ごくりっ」
静寂が訪れた。
息を飲んでしまう程の沈黙だ。
シュリー
「それは・・・」
シュリー
「まだ何もないわ」
両手をパーにしてキョトンとした顔。
まるで何もないけど何か?と言わす態度。
それには流石に俺も驚いていた。
ヌーター
「フフフ・・・アハァハハハハハハ!!! まさか!ここまで落ちてしまわれたか」
ここぞとばかりに大声で笑い飛ばした。
連れも一緒に笑っていた。
ヌーター
「ハハハハハ、まさか・・・由緒正しき歴史あるヴォルの学会に出す研究テーマを今から考え、作り出すとでもいうのですかあなたは!!!?」
シュリー
「えぇそのつもりよ?」
一切の曇りの無い顔付きで答えた。
ヌーター
「馬鹿げてる! ふざけてる! 冒涜にもほどがある! 確かにあなたは優秀な学者だ、だが何も決めていない状態で十数時間で一体何が出来る!」
学会が何時から行われるかは知らないが、一日もない。
今から実験、そして成果を上げた物を作るなんて。
シュリー
「フッ・・・出来るわよ私には。 あなたなんかには出来ないでしょうがね?」
挑発の笑顔。
最高の笑顔だった。
ヌーター
「はっ!!! 学会に泥が付かないように祈ることにするよ!!」
捨て台詞と共にヌーターは逃げるようにして街の中へと消えていった。
器が知れている、奴が神の眼の重要人物だと忘れてしまうほどに。
シュリー
「さてと、時間が惜しいから早くいくわよ」
大型トランクを片手に歩み出す。
一切臆さないその姿勢に少し関心した。
カズキ
「ただの嫌味垂らしじゃないってことだnんごっ!!!」
また石が。
シュリー
「本気で次は助けないから覚悟しておくように」
カズキ
「・・・ったく、悪かったよ」
自分の中でも彼女が一体どんな研究テーマを発表するか非常に気になる。
俺が課せられた任務も大事、だが俺にはそれよりも彼女の探究に心ひかれていた。
-クリアリング・テリトリーVer2取得-
ミツバの興味もそっちってことか。
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【開発発展街ヴォル 宿屋】
宿に到着してすぐにシュリーは作業にかかった。
部屋は二人でワンルームを借りることになったが広さが普通の宿屋とは段違いだった。
もちろん値段もそれ相応の値段だった。
シュリーの話ではこれくらいのスペースが学者には都合が良く窮屈なく作業に集中できると言う。
カズキ
「何か手伝えることあるか?」
シュリー
「そうね、作業の邪魔だけはしないでくれればいい・・・けど」
レイドラ
「・・・?」
レイドラと目線が合ってた。
そして目を逸らした。
やはりレイドラが関係していて必要なのだろう。
気持の葛藤があったのだろう、神の眼での失態。
ただ目の前の物にすがってはいけないという反省。
同じ過ちを犯さない為の教訓・・・か。
カズキ
「いいぞ・・・俺は」
シュリー
「え?」
カズキ
「もちろん、レイドラが良ければだがなどうだ?」
レイドラ
「よくわかりませんが、マイロードに従います!」
何もわかってないのに嬉しそうにしやがって。
でも本能的にはわかっているのかもしれないな。
レイドラもシュリーの手助けができればという気持ちなのだろう。
シュリー
「・・・ありがとう、レイドラ。じゃあお願いしようかしら」
レイドラは一度こちらを見た。
俺は首を縦に振りレイドラの気持ちに応えた。
シュリーは、いや二人は楽しそうにして作業を始めたのだった。
そんな二人の邪魔をしてはいけないと思い、部屋を後にした。
【開発発展街ヴォル 宿屋外】
外はもう暗くなっていた。
だが街の街灯で明るく賑やかだ。
ゆっくり楽しみたかったかもしれない。
神の眼なんて物騒な件がなければ楽しめた街だったかもしれない。
カズキ
「・・・そうか、今度みんなで来れないか」
ある程度の目途が立ったらみんなで旅行みたいに。
ナザとフェーチスはなんとかなるかもしれないけど、騎士団は無理そうか流石に。
けど、その内叶うだろう。
本当はあの人と二人きりがいいが、それを考えるのは今は・・・やめておこう。
カズキ
「あっそうだ・・・」
さっき覚えた術技の確認をしておこう。
術技の能力はいたってシンプルだった。
様々なある程度の材料を用意し術技を使いそれを別の一つの物へと変化させるもの。
料理などに近いと感じた。
色々な物を使い大きな物へと作り変える。
とは言った物のどうしたものか、考えていたらフタヤの村で貰った木の実の事を思い出した。
村長が言うにはフタヤでしか取れない貴重な木の実だそうだ。
かじると眠気が吹き飛ぶと言うらしい。
それをせっかくだから飲み物に出来ないか俺も実験をすることにした。
カズキ
「クリエイト・リンク・・・」
術技が発動し手に持つ木の実が黒い液体に変わり宙に浮かんでいる。
空かさずコップにそれを注ぐように入れた。
まさかの湯気も一緒に出てきた、それにこの香り・・・。
注ぎ終わり恐る恐るではあるが早速飲んでみた。
カズキ
「あ・・・コーヒーだ・・・」
馬鹿みたいに飲み続けていた、好きな飲み物。
正確には好きになった飲み物だ。
しかも味が自分好みの苦味と味わいだった。
カズキ
「・・・うまっ」
光り賑やかな街をコーヒー片手に眺める。
カズキ
「これがお酒なら格好付くのに・・・なんてな」
そんな言葉を一体何回呟いたことだろう。
コンビニでコーヒーを買い、近くのベンチから街を眺める。
何故そんなことをしていたのか、理由はもうわからない。
けど、ふとした時にいつもやっていた。
何もない夜空を見るのではなく。
光り輝く街と行き交う人々、ただそれを遠くから眺める。
まるで自分の位置を確認しているように。
自分はここにいると・・・。
カズキ
「うん・・・悪くない・・・」
今の自分が・・・位置が・・・まだ悪くないと思えた・・・。
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【開発発展街ヴォル 宿屋内】
あれから部屋に戻るとシュリーは黙々と作業を進めていた。
覗いてみたが一体何をやっているのか皆目見当も付かないようなものだった。
レイドラは特別な事をしているわけではなく、ただ同じ場所にずっといるように指示を受けたようだ。
あまりに暇だと少し愚痴るレイドラを治めていたのは俺の役目。
それからレイドラは眠りについたが、シュリーは変わらずと作業を進める。
そんな中俺はシュリーの本を拝借し呼んでいた。
内容は世界に生息している草や木の実の植物関係の本だ。
それ以外にも動物、鉱石、モンスターと多くある本を読みシュリーを見守っていた。
念の為にあのヌーターとか言う不穏なやつもいるのでその警戒の為にも起きている。
カズキ
「・・・?」
ふと、シュリーの方を見る。
行き詰ったか、それとも眠気が来てしまったのか。
いくら吸血鬼で超人的な体と能力を手にしても、行き詰まる時は行き詰まり、眠気も訪れるということか。
仕方ない・・・。
シュリー
「・・・・・・」
カズキ
「お疲れ様・・・ほら」
片手のマグカップを手渡す。
熱さに少し驚いた様子が少し微笑ましかった。
シュリー
「苦っ・・・」
カズキ
「やっぱり? 紅茶の方がよかったか?」
シュリー
「いいわよ、びっくりしただけ。不思議な飲み物ね、苦味が奥深くって眠気が取れて気持ちが晴れやかになる気分だわ」
絶賛頂き光栄だ。
この世界にコーヒーは存在しないようなだな。
カズキ
「進捗は?」
シュリー
「お陰様で目処は付いたわ、後は形を整えて発表用に調整するだけ」
結晶石を手に取り見せてくれた。
見た目だけでは一切どんな物かわからない。
だがシュリーの満そうな顔を見ればそれがどれだけ凄い物なのかわかる気がする。
シュリー
「何よ・・・私の顔じゃなくてこっち見なさいよ」
カズキ
「照れたの?」
シェリー
「ぶっ飛ばすわよ」
どうどう、と治める。
だが事実何がどう凄いのかわからない。
カズキ
「せっかくだし、明日の発表まで聞かない見ないでおくよ。楽しみにしてる」
その発表がわからなかったら確実にまた石ぶつけられるとは思うが、その時はその時だ。
カズキ
「一先ず、おめでとうシュリー」
シュリー
「まだ完全に終わったわけじゃないけど、受け取っておくわ」
まんざらでもない顔だ。
祝われてうれしくない人間なんていない。
祝いか・・・。
カズキ
「なんか欲しい物とかないか? 難しい物は無理だけど飯とか雑貨とか・・・」
シュリー
「そうねぇ・・・だったら・・・」
立ち上がり近付いてきた。
顔は凄く何か嫌なことを企んでいるような顔。
俺は金縛りにでもあったのか、その場で動けないでいた。
そしてシュリーは俺の左手を自分の頬に当てた。
シュリー
「思ったより大きい手ね・・・それじゃあ・・・」
口を軽く開き人差し指を舐めまわし始めた。
一体何が起きているのか思考が停止しそうになった時。
カズキ
「痛っ・・・!」
シュリー
「ぅん・・・!?」
もしかして・・・血?
そうだ、忘れていたがシュリーは吸血鬼。
血を吸う生き物だった。
文献でも吸血鬼の項目は一応みた。
血を吸わないと生きていけないわけではない、その長い命と卓越した能力に比べて、太陽に弱く日を浴び過ぎると皮膚が焼けてしまうほどの脆弱な生き物だと記載されていた。
血を吸うことは喜びの一種とだけ記載されていた。
シュリー
「んっ・・・あむぅじゅる・・・むぅう・・・」
カズキ
「長く・・・ないか・・・その、そろそろ」
目が合った。
まるでこの程度でだらしないと訴える目で俺を見る。
一体何がだらしないと言うんだ一体。
シュリー
「えぇ・・・今日の前祝いはこのくらいしておいてあげる。あんまり美味しくなかったしね」
カズキ
「そうですか、それはすみませんねぇ」
意地汚い顔で言う。
血の味なんてわかるのかよ、吸血鬼特有の味覚か?
どちらにせよ、もうこいつに血を吸わせるのはもう勘弁だ。
それからは、先に寝るように言われたので先に寝た。
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【開発発展街ヴォル 宿屋】
カーテンから朝日が差し込む。
眠い、もう一度眠りたい。
むしろ二度寝してもいい気がしてきた・・・。
カズキ
「んっ・・・なん・・・っ!!?」
俺の左指は何者かの口に犯されている。
しかも現在進行形で侵食されている。
一体こいつは何をしているんだ。
布団を剥ごうと上げた瞬間。
赤と黒。
カズキ
「んんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!」
どうしてそんな姿で寝ているんだろうか。
しかも俺のベッドで。
確かもう一つ隣にあるよな・・・?
どうしてわざわざこちらのベッドに入ってくる必要性が・・・。
『あんま美味しくなかったしね・・・』
味を占めたとはまさにこの事なのか。
まったく、とんだ吸血鬼博士だな。
ゆっくりと、左手を動かし人差し指の救済に尽力する。
シュリー
「あむぅ・・・ちゅぅう・・・っん・・・」
カズキ
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!」
落ち着くんだ俺。
色んな意味で落ち着け俺ぇ! 大丈夫だ戦いは始まったばかりだ。
ここは慎重に慎重を重ねて・・・。
レイドラ
「おはようございます!マイロード!」
カズキ
「おわぁっ!!レイドラ!!おはよう!」
驚きと同時に左手は救済された。
シュリー
「んん・・・ん?・・・んーーーー」
起きてない。
それどころか手を動かしさっきまで口に加えていたものを探しているかのようだ。
レイドラ
「シュリーは・・・?」
カズキ
「そっとしておこう」
こうして俺の開発発展街ヴォルでの最初の朝を生気の無いベタベタのフヤケタ人差し指と共に迎えたのだった。
【開発発展街ヴォル 宿屋食堂】
俺とマントをしたレイドラは朝食にする為食堂へと向かった。
ここもバイキングスタイルのようだ。
学者達はすぐに残すからか、食べ残しはしないようにと張り紙が貼られている。
自分もとりあえず少なめに取ることにし、レイドラの欲しい物を聞きながら料理を取っていく。
そして他の学者達とは少し離れた空席へ向った。
やはりレイドラに服を着させたのは正解だったかも知れない。
行き交う学者達は最初こそ興味を引いていたが、肩の上に乗ってる何か程度にしか思われないでいた。
もしこれが浮遊していたりしてたら変な誤解を招いたかもしれない。
まだ試行錯誤は必要だが今後はこのスタイルで行くことにしよう。
そんなことを考えながら朝食を取っていた。
先ほどからニュースのような物が聞こえていた。
ラジオか何かか、またそう言った結晶石を使った物が何処かにあるのだろう。
そのニュースを聞きながら朝を過ごしていたが。
「本日今朝方、我らサンニング王国はナイクネス帝国に向け明日進軍を開始すると発表これに対し・・・」
カズキ
「なっ・・・!?」
サンニングが進軍。
まさかこんなにも早く、するとは思ってもいなかった。
確かに一刻も争う事態ではあったが明日だと!?。
レイドラ
「マイロード・・・」
カズキ
「あぁ・・・もういいか?」
レイドラ
「あむあむあむあむあむごくり、大丈夫ですマイロード」
レイドラに謝りながら食堂を後にした。
すぐに部屋へ戻り通信結晶を片手に部屋を出る。
シュリー
「ん・・・ふわぁあ・・・ん?」
【開発発展街ヴォル 宿屋外】
通信相手はクレエスさんだった。
背後の声などが聞こえる、かなり慌ただしい。
クレエス
「カズキさんも、情報を耳にしたということは本当なのですね」
カズキ
「あぁ、ついさっきラジ・・・情報発信結晶石からの情報だ、全国的に流れていることを考えると間違いないと思う」
クレエスさんの情報は今朝方にナイクネス帝国にサンニング王国の使者が現れナイクネスが不当に占拠している領土へと解放の為進軍するという物だ。
不当な占拠。
理由なんてなんだっていいんだ、ただ進軍する口実。
ただ自分たちの力、神の眼を見せびらかしたいだけだ。
クレエス
「ギルドの対応としましては基本的な戦闘に関わることはできませんので、領土戦上の村などへ避難勧告と誘導を主に動くのが方針です」
大国同士の戦争にはギルドが関与することはない。
それでもやれることはある、ということか。
カズキ
「これから兵器の破壊に着手する、もしかしたら連絡が取りずらい状態になる・・・いやちょっと待ってすぐ掛け直すからそのままでいてくれ」
通信結晶石を手に持つ。
カズキ
「クリエイト・リンク」
この術技は物体を別な物に帰る能力。
だがあれから色々と調べた結果、わかったことが一つある。
それは・・・。
カズキ
「出来た・・・完璧だ」
手に持っていた通信結晶が耳に取り付けるインカムへと姿を変えた。
これがクリエイトリンクVerXの力。
物質を俺がイメージした物へと変化させる物だ。
しかもそれはこの世界に存在しない物、つまりは元の世界の物でも変化することを可能な物だ。
先日のコーヒーでは無意識に苦い飲み物でコーヒーをイメージし変化させた。
主に役割が同じか同等の物であれば俺の思う物へ変化させることが出来る。
早速インカムを付け再度連絡を取る。
カズキ
「おまたせしました、聞こえますか?」
エイジルト
「うむ、カズキ君私だ」
クレエスさんからエイジルトに変わった。
なら直接話せる。
カズキ
「エイジルト、これから俺は神の眼への接触を行うつもりだが、場所はわかるか?」
エイジルト
「えぇ、情報としては北上に位置します、サンリーという犬人族が住む村があります」
-マッピングVer2上昇-
ミツバのおかげでかなりマップが見やすくなった。
指でスクロールしていくと確かにサンリー村が確認できた。
だが俺が今いるところからだと距離が離れすぎている。
今から向かわないと間に合わないか・・・。
エイジルト
「カズキ君も知っての通り明日進軍ということですが、何か止める手立て、算段がおありで?」
止める手立て、算段。
正直な話し、そんな物は考えていなかった。
それこそ神の眼というのがどういった物なのかもまだ完全に把握し切れていない。
今現状分かっていることはその動力として使われているのが先代虚空竜の右目。
つまりレイドラの力だ。
出来れば破壊せず取り返したいところではあるが、情報が不明瞭な物をどうしろと。
カズキ
(シュリー・・・そうだ・・・彼女がいる)
彼女なら神の眼の事を知っているはずだ。
前任者ではあるが、俺なんかよりも詳しいのは間違いない。
そう、彼女の力を借りれば・・・。
カズキ
「破壊します・・・」
エイジルト
「そうですか・・・では引き続き頼みますよ」
通信が終わった。
どうして彼女の名前を出さなかったのか・・・。
それは簡単だ。
彼女は償いだと言った。
復讐ではない。
こんな事態になる前に協力して手を打ちたかった。
だがもう戦いが始まってしまった。
会戦。
いち学者である彼女を巻き込むわけにはいかない。
それに今日は学会だ。
もしかしたら彼女の人生を左右する大事な瞬間なのかもしれない。
妨げてはいけない、彼女の探究を。
ここで別れよう、そして俺とレイドラだけでなんとか出来るところまでやろうもしかしたら・・・。
シュリー
「随分な扱いを受けた物ね」
カズキ
「シュリー・・・っ!?」
シュリーが宿から出てきた。
手には通信結晶?もしかして聞いていたのか?
彼女なら通信防除なんてたやすいか。
シュリーはツカツカとこちらに近づいてくる。
シュリー
「グラビティ・ウェーブ」
カズキ
「ぐっぅ!!?」
急に頭上が重く。
上半身が曲がり倒れないようにするので精一杯だ。
そんな状態を気にも止めずシュリーは俺の耳を引っ張り顔を近付け一言だけ呟いた。
シュリー
「私を信じて・・・」
そして力強く離した。
同時に重く圧し掛かっていた重力はなくなった。
カズキ
「・・・・・・」
引っ張られた耳を抑えながら宿へと帰るシュリーの後姿を見届ける。
まるでそれはこれから戦いに行くかのような佇まいだった。
この状況も想定していた。
無くはない・・・のか。
カズキ
「わかった・・・なミツバ」
-フルブレイク・ブラスターVer2取得-




