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世界を歩く少女 えぬ  作者: tomo
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渦の世界1

 水のさざめく音が聞こえる。川の流れではないし、海の波の音でもない。水の奏でる音ではあるがあまり聴き馴染みのない、それが耳の奥で離れない。取り去ることはできないと認めた瞬間、えぬは目覚めた。


 

 瞼は思いのほか軽く上がった。何度も反復した動きだからだろう。眼球を右から左に、左から右に、心地よいBPMで動くメトロノームのように動かす。灰色の雲が立ち込めている。霧が深い。そして、海か湖かは定かではないが、一面水に囲まれている。手を動かしてみると、土の感触が僅かに暖かかった。


 

えぬは視線を更に自分の周りのに移してみた。ごく普通の一軒家の庭ほどの面積の孤島にえぬはいた。周りは水、霧、灰色。


 

 この世界はまさかこの孤島だけかと僅かに焦ったが、背後に小さな橋があることに気づいた。人一人分がギリギリ倒れるくらいの橋。もうすでに腹をくくっているえぬは、2ミリほどの怯えをすぐに忘れて橋の上を歩き始めた。一歩。手すりのない橋は軋む。二歩。一歩目は何かすぐ出るんだけど、二歩目って難しいんだよな。そんなことをえぬはふと思い出した。



 唄をうたう人になりたいとカラオケで練習をした。録音機能が付いている機種を選び、自分の声を聞いて練習しようと考えた。気持ちよく歌い終えた後に、間延びさせる採点演出を我慢してから聴いた自分の声は、毎日聴いていた自分の声とは全く違うものだった。もう少し高いかなと思っていた声は体に響く低い声で、抜群のリズム感だと自負していた感覚は、妙なためのある自己満足の歌い方でしかなかった。自分はこの世界にいる人間ではないとえぬは感じて、カラオケはもうやめにした。



 三歩。四歩。五歩。どうだ。見たか。こんなに進めるようになったんだぞ。もう自分で進めるんだぞ。えぬは言った。誰に言ったのかは自分でもよくわからなかったが、とりあえず言った。



 橋を渡り終え、ススキがなびく陸地に降り立った。庭ほどの孤島は10mほど先にある。今まではあまり気にしていなかったためか、それとも、あえて目に入れないようにしていたのかはわからないが、ある特異なものが目に入った。海か湖だと思われるそれの、ところどころにある、渦である。

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