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【連載版】「もう会うこともあるまい」と手紙で私を捨てた元婚約者様へ。あなたが食べたそのお菓子、毒よりおそろしい「真実」が入っていました  作者: 佐倉美羽
CASE3:或る奇術の真実〈バーナム通り殺人事件〉

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拝啓 11月6日 ローレンス=ラ=オフィリア卿 へ

 ご丁寧な報告をありがとうございます。そして、ベアトリーゼ様の「弾丸受け」の余興、文字面からでもその場が凍りつくような熱量が伝わってまいりました。なんとも、オフィリア家らしい華やかで命がけのティータイムですね。


 しかし、ローレンス様。その「美しさ」に心酔している場合ではありませんよ。

 いただいた報告を整理し、現状を俯瞰しますと、事態はむしろ法王庁という巨大な迷宮に、より深く足を踏み入れたように見受けられます。


 率直に申し上げて、ベアトリーゼ様の主張はギデオンさんが指摘したとおり詭弁です。客観的な事実の確認を主観的な印象の問題にすり替えたにすぎません。バーナム通りの目撃証言と“弾丸受け”で見せたトリックに何ら論理的接続点はありませんよ。さらに申し上げれば真実と事実は違います。弾丸受けの奇術になぞらえて言えば、真実は“弾丸は込められていなかった”ですが、“弾丸は込められていた”という言葉は無価値な嘘ではありません。そう見えたことは紛れもない事実であり、価値のある証言です。事実の価値を判断する尺度が玉か石かだけでは見える真実も見えなくなってしまう、と私は考えます。長々話しましたが要は、“それはそれ これはこれ”、ではないでしょうか。


 ただ、あの場はもはや“奇術師ベアトリーゼ”の独壇場になっていたので、即座に反論することは絶望的な難易度だったでしょう。命の危険の瞬間をまざまざと見せつけらえて冷静でいられる人なんてそういませんし、どうあがいても印象の話に戻されてしまう。すべての反論が彼女の奇跡をくさす野暮な言いがかりに聞こえてしまい、そうなってしまっては“奇術師ベアトリーゼ”は無敵です。私もこうして安全圏から紅茶片手に俯瞰しているから偉そうなことを申し上げられるだけで、その場にいたならば皆さんと同じように雰囲気にのまれ、身を凍り付かせていたと容易に想像できます。


 しかし、どうしても気になることは、あれほど挑発的に否定する意味はあったのか、ということです。彼女はなぜあれほど派手なパフォーマンスをして見せたのでしょう。まぁ、彼女がショービジネスのスタァだったからという点は考慮すべきですが、それを加味してもあまりに度が過ぎている。ベアトリーゼ様はいったい何を否定したかったのでしょうか。


 たしか法王庁の主張は“21時50分にベアトリーゼ夫人はバーナム通りに居た”ですよね。

 それに対するベアトリーゼ様の反論は“21時50分、自分は家に居た”です。ならば、己の無実を証明するために最初に講ずるべき手段は“家に居た客観的証拠を提示する”ではないでしょうか。その方が簡単ですし後ろめたいことが無ければ確実です。でも、ベアトリーゼ様は法王庁が主張する3名の証言の曖昧性を指摘し、“自分はバーナム通りに居なかった”ということを証明しようとした。相手の主張に懐疑を差し込むことは確かに重要ですが、最初にすることかなと、私はここに違和感を持ってしまいます。まぁ、これは彼女がそういう論客だからの一言で済んでしまいますが、“隠したい”という意図がうっすら見えると指摘しておきましょう。


 それにしても、キーラさんにギデオンさん。法王庁の組織力はやはり手強いですね。私も最近、法王庁の審問官や捜査官と関わることが多くなりましたが、今回の二人は特に優秀な捜査官です。それに、事情聴取の段階で真実の誓約を結ばせるとは……。すみません。これは自惚れかもしれませんが、私に責任の一端があるかもしれません。最近ちょっと困ったゴシップが出回っていまして、法王庁も今回の事件は面子をかけて捜査に挑んでいるのかな、なんて。


 ただ、捜査員達の主張には明確な弱点がありますね。彼らはバーナム通りの目撃談を妄信に近い形で信用しすぎている。真実の誓約を結ばせたうえでの証言だからでしょうが、彼らは暗闇の中で都合の良い光を灯台だと思い込んでいるのかもしれません。


 そしてその光とはすなわち、“21時50分”。どうして3名とも同じ時間をピタリと指摘したのでしょう。3名とも手持ちの懐中時計を見たとしてもやはり±5分程度はずれるのではないかな、と。そもそも人が撃たれて苦しんでいる最中に、集まって来た人が“よっこらせ。さぁて、彼が撃たれたのは21時50分で間違いなし、と。おうい!大丈夫か!”なんて面白行動を全員がした、なんて考えられますかね。もしそれが真実なら、その3名はあのベアトリーゼ様の“弾丸受け”に立ち会っても至極冷静に“それはそれ!これはこれ!”と反論できたことでしょう。つまり、私は真実の誓約によって証言された“21時50分”という部分に何か致命的な見落としがあるのではないかと邪推してしまいます。ここはやはり、バーナム通りへ一度見学に行ってみるのがよろしいかと。


 お話出来ることは以上です。何か参考になることがあれば幸いです。

 では、また。


 敬具

 ライラ=ロ=ノクタリカ より


 追伸

 ちょうど手紙用の重しを切らしていたので助かります。

 あと、今はコースターも切らしています。

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