拝啓 11月4日 ローレンス=ラ=オフィリア卿 へ
向寒の候、貴家にあってはいよいよご隆盛のこととお喜び申し上げます。
ご相談内容につきまして先だってお答えしますと、現段階で申し上げられることは何もありません。
“わからない”が答えです。
かように突き放す答えになってしまい恐縮です。ですが、法王庁も愚か者集団ではありません。少々頭が固い点はありますが、ご存じの通り彼らは、法と信仰と、何よりも証拠を重視する組織です。
“バーナム通りに居たのは間違いなくベアトリーゼである”
法王庁がそう確信をもって動いている以上、何らかの根拠があって捜査していると考えるべきでしょう。そして、ベアトリーゼ様の無実を証明するには、その根拠に致命傷となる懐疑を差し込む必要があります。では、その根拠とは何か。
“わからない”
だからこそ、今の段階で助言をすることはできない、という回答に相成る次第でございます。
運命の21時50分。ベアトリーゼ様はバーナム通りとオフィリア邸のどちらにも存在した。この不可能な結果を繋げる方法が必ずあります。ベアトリーゼ様は殺人には何ら関与していない。それを証明するには、見落とした、あるいは隠された前提を探りに行く必要がありますし、その道すがら、逆にベアトリーゼ様の黒を証明してしまう可能性だってあります。そのお覚悟がローレンス様にございますか?私に頼むということはそういうことです。
有るとおっしゃるのであれば、まずは法王庁の捜査を受け入れて、逆に情報を聞き出すことが良いでしょう。すなわち、“なぜ法王庁はベアトリーゼ様がバーナム通りに居たと思うのか”。
その情報を検証することで、同じ時間に存在したベアトリーゼ様のどちらかが虚構なのか、あるいは、どちらも真実なのか。まずはそれを確定してしまいりましょう。
ちなみに、奇術師ベアトリーゼのショーは私も拝見したことがあります。まさに非日常の体験、夢と幻の世界の具現者だと感動したものです。
ですが、奇術には必ずトリックがあります。我々は奇術を見て因果がぷつりと断絶したような現象を目の当たりにして、心を動かされますが、不思議と種を明かされるとがっかりするものです。騙されたと怒り出す人もいるでしょう。自分から騙されにショーへと足を運んでいるのに、です。
優れた奇術の種が拍子抜けするほど単純であるように、今回のトラブルもきっと複雑そうに見えるだけで、舞台袖から見れば仕掛けが丸見えになっているのではないかと想像します。
では、また。
敬具
ライラ=ロ=ノクタリカ より
追伸
ちょうど栞を切らしていたので助かります。




