拝啓 10月26日 ライラ先生へ 2/2
25日。その日は雲一つない快晴で、気持ちのよい一日になるはずだったのに、わたくしの胸の中はとてもそわそわしました。店もお休みだったので、わたくしは地下に続く階段の前に椅子を置いて、怪盗ルブランが来るのをずっと待っていました。でも、何時まで経っても来る気配がありません。
昼食をとった後も、なんだか気もそぞろで落ちきませんでした。わたくしが椅子の上でモジモジしていたらマールさんがやってきて。
「ふふっ。そんなに気になるなら、ちゃんとあるか見にいきませんか?」
「……そうね!そうするわ!」
わたくしは気になって気になって仕方がなかったので、いろいろ準備したけど紅いサファイアは25日が過ぎるまでずっと手元に置いておくことにしました。
「お母さん、鍵は誰にも渡してないよね?」
「ええ。ロジャーでも勝手に開けられない鍵箱に入れていたわ。ずっとここにあったわよ」
「ありがとう!」
鍵は誰にも触られていません。わたくしはルイくんを誘って、マール警備を先頭にまた階段を下りていきます。今度は全員コートを着ているので安心です。そうして、一行は地下保管庫の扉の前に降り立ちます。わたくしはマールさんの影から顔をのぞかせて丁番を確認しました。黒い紙が昨日のままになっていました。
「では、開けますね」
扉の隙間が広がり、黒い紙が枯れ葉のように床へと落ちます。重たい音と一緒に開けられた保管庫は真っ暗です。相変わらず寒いですが、心づもりをしていたのでいくらかマシです。ルイくんは猫のようにスルスルと中に入って行きました。そして。
「たしか、ここだったよな」
マールさんがランタンの灯りを照らすと、ルイくんがキャビネットに手をついてわたくしを待っていました。間違いなく、わたくしが紅いサファイアを入れたキャビネットです。
「うん。そこ」
「じゃ、アンナちゃん……じゃなかった。オーナー!よろしくお願いします!」
ルイくんがかっこつけたポーズでコンコンと木壁をノックします。わたくしは駆け寄って、手を伸ばしてキャビネットを開けました。木が軽くぶつかる音が保管室に響きます。
「……ん!?」ルイくんの驚いた声。
わたくしは目を凝らして、中を見てみます。でも、そこには――
「あ、あああー!?」
そこにあるはずの紅いサファイアが、どこにもありません。ない、どこにもない。手を入れて四隅を触っても冷たい木の感触だけ。確かに入れた紅いサファイアが無くなっていたんです!
「そ、そんなはずありません!別のキャビネットじゃないんですか!?」
後ろでランタンを照らしていたマールさんが大声で叫びます。そして、すぐ横のキャビネットや天上に近い場所を次々と照らしていきました。わたくしたちは手当たり次第にキャビネットを開けて探しましたが、どこにもありません。
「灯りが足りません!ルイ君!ランタンを人数分持ってきて!アンナさんもロジャーさんを呼んで来てください!」
「お、おう!アンナちゃん!行こう!」
「うん……!」
わたくしはルイくんと一緒に階段を駆け上がりました。
「お兄ちゃん、たいへん!紅いサファイアがなくなっちゃった!早く来て!」
「なんだって……?わかった。すぐに行く!」
コートを掴んだお兄ちゃんは階段を猛スピードで降りていきます。階下の保管庫からマールさんの悲痛な「ない……!ない……!」という声が聞こえてきました。
「マール警備!状況は!?」
ランタンで中を照らすとマールさんが部屋の隅で床に跪いて、壺をみんなひっくり返して中を見ていました。
「ロジャー捜査官……!紅いサファイアが、盗まれました!」
それから、みんなで地下保管庫を探しましたが、とうとう紅いサファイアはどこにも見つかりませんでした。わたくしは、怪盗ルブランに敗北してしまったんです。
先生、わたくしったらもう何が何だかわかりません。どうやって鍵を持ち出して開けたのかも、どうやって紙のトラップをかい潜ったのかも、どうやってわたくしに気が付かれずに地下保管庫に入ったのかも、いつ盗み出したのかもさっぱりです。
どうか知恵をお貸しください。お返事待っています。
敬具
アンナ(劇団マールの主役) より




