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【連載版】「もう会うこともあるまい」と手紙で私を捨てた元婚約者様へ。あなたが食べたそのお菓子、毒よりおそろしい「真実」が入っていました  作者: 佐倉美羽
幕間:或る兄妹の日常〈紅いサファイアの謎〉

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拝啓 10月26日 ライラ先生へ 1/2

 サファイアのような高く澄みきった空に、心も晴れ晴れとするこの頃、ライラ先生には笑顔が広がる毎日をお過ごしのことと存じます。

 アンナ・パーカー、今日も先生にお手紙をお書きします。


 突然ですが、先生に問題です!鍵のかかった地下室から、宝石が盗まれました!いったいどうやったでしょうか?(冗談ですよ!防犯対策はしっかりしています)


 ごめんなさい。びっくりさせてしまいましたよね。実は家事手伝いのマールさんから問題を出されてしまって、先生からヒントをいただきたいんです。


 発端となったのは時がさかのぼって23日になるんですが、その日は初雪が降って、ずいぶん冷える日でした。暇を持て余したわたくしの口に悪魔が宿ったのか、つい家事手伝いのマールさんにわがままを言ってしまったんです。何か面白いことはないかしらって。そうしたらマールさんは「あらあら」っと困った顔になったんですけど、何か思いついたようにウインクをして、「アンナさん、(わたくし)にお任せになって?」って。


 わたくしは何だろうと思って、胸を躍らせながら足をプラプラしていたら、しばらくするとマールさんはこんなものを持ってきました。


 ◇


【よこくじょう】

 きたる10月25日, でんせつのあかいサファイアをもらいうけにさんじょうする。

 かいとう ルブランより


 ◇


「まぁ!これは予告状ね!」

「はい。なんと怪盗ルブランなる人物からこちらの紅いサファイアが狙われているそうです」


 マールさんはエプロンドレスのポケットから赤い宝石のイミテーションを取り出しました。


「アンナさんはこちらの一品を怪盗ルブランの魔の手から守らないといけません。やってみますか?」

「面白そうね。やるわ!」

「ふふ、そう来なくては。ロジャーさんとルイ君、それとジェーンお母様にも協力してもらいましょう」

「わーい。やったー!」


 そう言うわけで、わたくしはマールさんから手渡された紅いサファイアを守る大役をおおせつかったのです。ちなみに余談ですが、サファイアとルビーは鉱物としては一緒で、違いは色だけなので、紅いサファイアというのはつまりルビーのことなんです!でも、なんだか紅いサファイアっていうと特別な宝石みたいでいいなって思いました。


 それでは改めまして、簡単に劇団マールの役者たちを紹介しますね。

 アンナ:宝石店のオーナー

 マール:警備担当

 ルイ:宝石店の店員

 ロジャー:法王庁の捜査官

 ジェーン:鍵の責任者

 ???:怪盗ルブラン


 24日、通報を受けたロジャー捜査官がやってきました。


「それで、紅いサファイアはどのように守るおつもりか?」


 威厳たっぷりにそう言いました。実のところお兄ちゃんはけっこう演技が上手です。


「オーナー!もう捜査官殿に渡してしまいましょうよ!それがいいっすよ」


 店員のルイくんがそう言いますが、警備のマールさんが反対しました。


「ルブランが変装しているかもしれませんよ。信じていいのでしょうか」

「君、ちょっと失礼じゃないかね」

「まぁ!ごめんあそばせ、捜査官殿」


 わたくしは悩みました。でも、25日に来る怪盗ルブランから赤いサファイアを守り通せばいいのですから、手元にずっと置いておくのがいいと思いました。


「やっぱり、わたくしはお店で守る方がいいと思うわ」

「でも、どこに置くんすか?」とルイ君。


 マール警備が「地下保管庫なんてどうでしょうか。あそこは入口も一つしかありませんし、鍵もかけられます。この店で一番厳重ですよ」と提案します。


「たしかにそうね。そうするわ!」


 お兄ちゃんが頷きました。「決まりだ。なら、さっそく地下保管庫に行こう」


 そうして、紅いサファイアを守る場所が決まりました。

 マール警備を先頭に4人は階段をヒタヒタ降りていきます。灯りはマール警備が持っているランタンだけ。普段はわたくしもほとんど入らない場所です。


「こちらですわ。足元に気を付けてくださいね。アンナさん、ロジャーさん」

「うん」

「ええ、ありがとうございます。マールさん」

「オレは?」

「ルイ君は大丈夫だと信じていますから」


 地下保管庫の中は一寸先も見えないほど真っ暗です。ランタンの灯りが照らす壁は一面がキャビネットでした。さらに奥には鉄製の扉が城塞の門みたいに構えていました。


 地下保管庫は二つの部屋で出来ていまして、この鉄扉の奥には商品が置いてあります。そして、今いる手前の部屋には注文書や帳簿と言った書類、それと置き場に困った壺、両手で持てるサイズのモノが見えるだけでも5~6個くらい入口の隅の方に寄せ集められています。テーブルもあって、そこには紙束が無造作に積まれていたりもします。よく見ると床には溝が格子状に張り巡らされています。つまずかないように注意です。気になる物はこれくらいで、以外と殺風景です。書類が多いのでランタンは最低限しか持ち込みません。流石に商品の保管庫は使えないので、紅いサファイアは手前の部屋に置くことにしました。


 しかし、それ以上に――

「さっむ!!」


 地下室はあり得ないくらい寒かったのです。


「こ、これは想定外ですわ……」とマール警備も独り言ちます。

「昨日の雪のせいかもしれん……。アンナ、どこに隠すんだ?」

 捜査官のお兄ちゃんも腕をこすり合わせながら聞いてきました。

 マールさんが壁のキャビネットを照らしていきます。


「じゃ、じゃあここにするわ」


 とにかく早く出たかったので、わたくしは適当なキャビネットを開けて、中に入れました。全員でしっかりキャビネットの中に紅いサファイアが入っていることを確認して、場所も覚えます。


「オッケイ!じゃあ戻ろうぜ!フゥー!」とルイ君が一目散に階段を駆け上がっていきました。

 わたくし達も戻ろうと階段に足を掛けたその時です。


「きゃっ」


 マール警備の小さな悲鳴とともにバサリと紙の束が落ちた音がしました。


「あら、(わたくし)ったら、ごめんなさい。お二人は先に行っててくださいまし」

「そうだな。風邪をひいてはいけない。アンナ、ここは任せよう」


 振り返って見ると扉が開けられた保管室は底の見えない穴のように暗く、ランタンの火が闇を頼りなく照らしています。微かに見える床には筒状に丸めた紙が散らばっている。わたくしは手伝おうと思いましたが、たいした散らばりでもなかったので手伝ってもそう変わらないだろうと思いました。なので、わたくしはお言葉に甘えて、お兄ちゃんと保管庫を出て行くことにしました。

 階段を上がるとすぐに階下から鍵を掛ける音が聞こえて、マール警備が「さむさむ」っと呟きながら駆け上がってきました。


「これで安心ね!」とわたくしは腰に手を当てて言います。

「いや、待て」


 捜査官のお兄ちゃんが厳しい目線でマール警備を睨みつけます。


「マール警備、持ち物を改めさせてもらおう」

「あら、捜査官殿。さっき疑ったことを根に持っていらっしゃるの?」

「アンナ、マールさんが紅いサファイアを隠し持っていないかチェックしてくれ」

「えっ。あ!わ、わかったわ!」


 そこで、気が付きました。もしかしたら、さっきの一瞬で紅いサファイアを持ち出したのかもしれません。でも――


「ロジャー捜査官ったら!(わたくし)がそんなことをするわけないですわ」


 全部のポケットを見せてもらってもどこにもありません。本当に持っていないようです。


「むぅ、そうか。わかった」


 お兄ちゃんは眉間に皺を寄せて頷きました。

 間を置かずにルイくんが両手を頭に組んで「鍵は?ちゃんと掛けたか?」って。


「もう、みんな(わたくし)を疑うのね。ちゃんと掛けましたわよ」


 別に鍵を掛けた音に変な違和感はなかったので、これも多分間違いないです。


「じゃあこれで、本当に本当に安心ね!」

「ええ。そうですわ。ではアンナさん。鍵をジェーン様に渡して来てくださいまし」


 と、マールさんは鍵をわたくしに手渡しました。


「うん!」


 そうしてお母さんに鍵を渡して、わたくし以外誰にも渡さないで、ってお願いしました。これが発端の話です。


 実は、後でこっそり鍵がかかっているかを確認しに行ったんですが、しっかりと掛かっていました。本当は扉の前に座ってずっと監視していたかったんですが、寒いですし、眠らないわけにはいかないので、わたくしは扉の丁番にちょうど見えないように黒い紙を挟むことにしました。これで、誰かが扉を開けたらすぐにわかります。


 完璧な金庫が出来た、これで絶対無敵だ。そう思いました。


 そして、予告があった25日当日。地下保管庫の鍵は絶対に持ち出されていなかったし、トラップの黒い紙もそのままでした。

 だというのに。






















 ――紅いサファイアは、まんまと怪盗ルブランに盗まれてしまっていたんです。

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