拝啓 5月22日 アンナ・パーカー 様へ
アンナさん。ライラです。お元気ですかと言いたいところですが、きっと今もこの世の終わりのように塞ぎ込んでおられるのだろうなと心配しております。
お食事は取られているでしょうか。水は飲まれているでしょうか。ちゃんと眠れているでしょうか。日の光は浴びていらっしゃるでしょうか。心配の言葉が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて、どうにもまとまりません。
なので、灰色の狼はどうして消えてしまったのか。私なりに考えてみました。きっとそれがアンナさんの一番知りたいことだと思いまのすで、お話します。
アンナさん。結論から申し上げましょう。灰色の狼は、あなたを裏切ったのではありません。彼は、あまりに過酷な運命に翻弄された高潔な男だったのです。
“血の聖夜事件”を覚えていらっしゃいますか。法王庁にいる友達に聞いた話なのですが、あれは大貴族が家政ごと片棒を担がせた組織的な犯罪でした。主に狙われたのが女性。税の取り立てや娼館からの水揚げ、村からの拉致と様々な誘拐手口がありましたし、末期には貴族の女性もその毒牙に掛かっています。そして、そのやり口が“夜会や仮面舞踏会に乗じて近づく”というものでした。
灰狼のお手紙によると彼は『とある屋敷で使用人をしている』そうですね。そして、ご主人には逆らえないとも。アンナさん。落ち着いて聞いてください。灰色の狼は、アンナさんを貴族に差し出すために近づいた可能性があります。アンナさんは強く否定されるでしょうが、そういう見方も出来てしまうのもまた事実。
ですが、ここからが最も大切な部分です。おそらく灰色の狼はアンナさんと交流する中で本気であなたを愛してしまった。貴族から逃れて、あなたと結婚して平穏な家庭を持つことを願ってしまったんです。その愛情は、手紙から読み取れますよね。でも、もしあのまま行けば、最愛のアンナさんを危険にさらしてしまう。彼はアンナさんを守るために、あえて一方的に別れを告げて、ご主人には失敗したと報告し、闇の中に消えて行ったのだと考えられます。
灰色の狼は「何があっても、僕を信じて欲しい」と言いましたね。あれは、自分が死ぬかもしれない、あるいは二度と表舞台に出られないことを悟った男の、悲痛な別れの言葉だったのです。
灰色の狼は今も世界のどこかで、あなたの幸せだけを祈っているでしょう。しかし、彼が戻ることは、彼の死を意味します。彼を愛しているなら、どうか彼のことは忘れ、アンナさん自身の人生を歩むこと。それこそが、彼が命をかけて守りたかったものなのですから。
最後に、アンナさん。
私はこのように考えましたが、世の中には、すべてを言葉にしないほうがいいこともあります。でも、それでもなお、知ろうとすることはできます。ブルーゾイサイトは、見る角度で色を変えます。あなたが見た“あの人”が、どんな色だったのか。それは、あなた自身が決めていいことです。
それでは、アンナさんが一刻も早く元気になって、また私と文通してくれる日が戻ることを心から願っています。ではまた。
敬具
あなたの師匠 ライラより




