拝啓 5月18日 ライラ=ロ=ノクタリカ 殿へ 3/3
そんなある日、かつてルイの客だった男が店に立ち寄りました。丸まると太った豚のような貴族の男です。そこで、不運なことが起きてしまった。その男が、アンナを見初めてしまった。あろうことかアンナを屋敷に呼び入れて、娼婦扱いしようとしたのです。目の前が真っ赤になり、許せないと心の底から思いました。ルイもその男がどういう男なのかよく知っていたので、何度も僕に謝罪しました。しかし、これは僕が撒いた種でもある。だからこそ、僕たちは協力してアンナを守ろうとしたのです。
そして、その男から仮面舞踏会の招待状が届きました。カモフラージュのために家族全員分をよこしましたが、目的は明らかです。僕は焦りました。いえ、怖かったのかもしれません。娼館で聞いた話が、アンナの姿になって脳裏によぎりました。義母もアンナを連れて行かないといけない立場であり、苦心したと思います。しかし、義母は娼館でのことを知らない。想像の鮮明さに欠けていた。僕は強く反対しましたが、結局アンナを止めることはできませんでした。
事務所に戻って無心で仕事をしてみましたが、まったく集中が出来ない。どうしても心配でならなかった。だからルイに頼んだんです。彼は二つ返事で応じてくれました。本当は自分が行きたかったのですが、あいつなら僕より上手くアンナを守ってくれる。そう思い、急遽考え付いたのが今回の計画です。それからのことはご存知かと思います。
アンナの恋文には驚きました。もっと子供っぽいモノになると思っていましたが、ライラ様が教えていたと聞いて納得しました。流石です。でも、そのアンナの熱量が、僕を挫いてしまった。アンナは本気になりすぎてしまった。ありもしない灰色の狼の影を追いかけてしまった。これはダメだと思い僕は、いえ、灰色の狼はアンナに別れを切り出したんです。彼女を傷つけることになっても、“希望”に溢れる毎日を送って欲しい。本心です。まさか、この言葉で足元を掬われるとは思っていませんでしたが。
これが、僕が話せることのすべてです。そして、虫が良すぎるとは承知で、ライラ様にお願いがございます。どうか灰色の狼の真相について、彼女に秘密にしていてはいただけないでしょうか。僕が言えたことではありませんが、真実はアンナを傷つけるだけです。僕はどれほど誹りを受けても構いません。どうか、お願いいたします。
敬具
ロジャー・パーカーより
※手書きで書かれている。




