拝啓 十二月二十一日 アンジール=フォン=ロメロ様ヘ
お元気ですか。ライラ=ロ=ノクタリカでございます。覚えておいでですか。
風のうわさで体調を崩されたと聞きました。奥方のロザリアーナ様に遠慮して筆を執るのも憚っておりましたが、改めて考えてみれば、私は冷血女ではないですし、神に誓って、あなた様とはなんのやましい関係でもないですので、こうして手紙をしたためた次第です。
実は事情があってまた帝都に移り住んでおります。と、いうのもフェルネスト家のご子息と良縁があり、正式に結婚いたしました。彼は私の描いた絵をいたく気に入ってくださり、ミアに連れ添われる形でわざわざノクタリカの地に会いに来てくださったという馴れ初めです。大木のようにどっしりと構えた穏やかな方で、私ものんびりと過ごすことが出来ております。ミアにお姉ちゃんと呼ばれるのは全く慣れないですが、上手くやっております。
先般の集まりでロザリアーナ様をチラリと垣間見る機会がありました。鮮血のようなドレスに身を包んでなお、衣装に負けない愛らしさを携えた子猫のような女性でしたね。特に深い意味はありませんが、なるほど。たしかにそうだな、と一人で納得しておりました。歌唱も見事なものでした。たいへん個性的なお声で、聴いていて思わず考えさせられる、そんな体験が出来ました。畏れ多くて声をかけることはできませんでしたが、あなた様が惚れ込んでしまうのも腕を組んで大きく頷くしかありません。うむうむ。
ところで、これは私の個人的な体験談に基づく戯言なのですが、嫁ぐということは、兎角緊張してしまうもの。肩肘がガチガチと固まってしまい、上手くやらねばとさらに気が張ってしまい、休むこともままならない。こんな調子では体調を崩すのも無理からぬことであろう、と邪推してしまいます。あなた様が高い志をお持ちだということは存じておりますが、たまにはグータラと過ごしてみるのもいいのかもしれません。
とまあ、本質をちくりと突いてしまったこと、お許しください。
そのお詫びとして、精が付くものを同封します。なにが入っているのかはお楽しみに。
敬具
ライラ=ロ=ノクタリカより
追伸
昨今、ロメロ家はさらに勢いづいておりますね。これもあなた様の政治的ご判断のたまものでしょうか。
一日も早くご回復されますようお祈り申し上げます。
拝復 十二月二十四日 ライラ=ロ=ノクタリカ殿
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ご厚情、確かに受け取った。
体調は回復傾向にある。
同封の品については、すでに使用済み。
貴女の“配慮”に感謝する。
アンジール=フォン=ロメロ




