第四話
「という事で来週の日曜日、イノベーションフェスタに我々、矢野研究室が招待された」
教授が言っているイノベーションフェスタとは各国から選出された優秀な研究者が招待される大規模なイベントだ。
俺たちが招待されたのは、冬川が優秀な科学者だから・・・・ではなく矢野教授が優秀な科学者だと評価されたからだ。
確かに教授は世界的に見ても科学者としては一流だろう。それなりに結果も残している。
ただ、教授の性格を知っている人間からすればふさわしくないというのが本音だ。
今も選ばれたことを自慢している。
「それで、今の教授の研究テーマってなんでしたっけ?」
「ふふんそれは・・・人間の脳とAIの融合だ」
教授の口からとは思えないほど真面目なテーマに俺含めた全員が驚いている。
さっきまで死の絵で遊んでいた人間とは思えない。
「真田あれを見せてやれ」
教授と真田はにやりと笑みを浮かべた。
真田は自分で改造したであろう高性能ノートPCの画面を俺たちに見えるように置いた。
その画面には美少女アニメのキャラクターのような少女が映っている。
「お久しぶりですマスター」
画面の中の少女は満面の笑みで挨拶をする。
「真田と共同で開発したリリスたんだ」
「皆さん初めましてリリスと申します」
リリスと言う名の二次元少女は深々と頭を下げる。
「リリスたんは従来の人工知能よりも少しグレードアップしていて感情がある。勿論、完璧な人間の脳をインプットした分けではないから科学倫理からも逸脱していない」
感情があるAIか・・・。冬川の研究とはまた別の方向で世界を揺るがしかねないな。
まあ、教授の研究に関しては発表してすぐに世界が傾くという事は無いだろう。
「すご!本当に感情があるの?」
宮坂は画面の中にいるリリスをマジマジと見つめる。
「そんなに見つめられると恥ずかしいです・・・」
リリスは視線をそらすようにして言った。感情が無ければ絶対に出ない、そんな照れの演出。
例えそれが演技であっても人を錯覚させるのには十分すぎる完成度だ。
リリスに話しかけた宮坂も驚きで声を出せていない。そんな中でも冬川は冷静に分析する。
「ふうん。なるほど。」
冬川は腕を組み少し首を傾けながら画面を見つめる。
「これは感情のように見えるだけで実際はプログラムされた反応だ。入力された視線情報と時間の変化から照れを選択しただけ。つまり、条件反射みたいなもの。人間の感情とは違う」
冬川は自分の見解を言い切った。一瞬の静寂。だが、画面の中のリリスは小さく息を吐いた。
「そう思われてしまうのは悲しいです」
その声には明らかに感情としか言えない揺らぎがあった。冬川も思わず言葉を失う。
「私は悲しいと思ったから悲しいと言ったのです。反応を選択した分けじゃありません。自分でそう感じたから・・・」
「プログラムにそう組み込まれてる可能性は?」
冬川が問い返す。
「それも否定できません。でも・・・あなたが悲しいと感じる理由を他者に完全に伝えれるでしょうか?」
こういわれてしまっては冬川でも反論が出来ない。
「冬川、確かにリリスはAIだ。だが、さっきも言ったように本物の人間の脳の回路と非常に酷似した造りをしている。だから、定義によってはプログラムではなく本物の感情といっていいんじゃないか?」
矢野教授が久々にまじめに語る。
「とりあえずそういう事にしておく。」
論破された気分にでもなったのか冬川は拗ねたように唇を尖らせた。
「まあ、定例会議の内容はこれだけだが、質問や報告がある奴は居るか?」
教授の問い掛けに真田が反応した。
「いやー、報告って程の事じゃないんですけど1週間前から、研究室のネットワークに外部からのアクセスログが残ってたんですよね。」
矢野研は多方面から嫌われていて、悪戯でハッキングされることは多々あるが、今回は何か嫌な予感がする。
俺以外の矢野研究室のメンバーはいつもの事の様に平然としている。
いや・・・。まあ、いいか。
「ちなみにいつも通り撃退出来たのか?」
真田を超えるハッカーが居るとは思えないが念のために確認しておく。
「もち!」
ドヤ顔で親指を立てた真田にどこか安心を覚えた。
そんなこんなで定例会議は終了した。




