第三話
「ちなみに俺が言ったようにデータはあのUSBだけに保存しているか?」
「勿論」
あのUSBとは同研究室に所属している真田忠彦が開発した物だ。開くのにパスワードはもちろん本人認証や専用ソフトに専用ハードが無ければならない。セキュリティ最強のUSBだ。
「皆乙ー」
その噂の男が今まさに研究室の扉を開けて現れた。
少し小太りな体系にぼさぼさの寝ぐせ、某美少女アニメのパーカーを着ている。
恐らく洗ってない。
この情報だけで分かると思うが真田忠彦はモテない。口癖は「三次元の女は見る目が無い」である。
「遅いぞ真田。何やってたんだ?」
今日は定例会議があり真田忠彦は1時間ほど遅刻した。
「すみません教授。少し時間があったので、日本警察のサーバーに遊びに行ってたら夢中になっちゃって遅れました」
「遊びに行ってたって、そんなに簡単には入れる場所じゃないだろ」
あまりにも信じがたい発言に矢野教授は怪訝そうに眉をひそめる。
「いやー、マジでセキュリティーがザル過ぎて逆に心配になるレベルですよ。後で報告しときますわ。匿名で。」
会話を聞いていた冬川が顔をしかめながら一言。
「ほんとに通報されないのが謎だな。と言うか、お前の存在自体が犯罪だろ」
もはや暴言の域。だが、真田忠彦にはむしろご褒美だ。
頬を赤らめ心臓の鼓動がバクバクしてるのが見ただけで分かる。
「夢羽ちゃん、もう一回お願いします」
ハアハアと気持ち悪い呼吸をしている。
そんな真田忠彦を見た冬川の目はまるでゴミを見ているかのようだ。
「キモ」
反射的にこぼれたその一言。ただ、この発言も真田忠彦のご褒美となってしまった。
そんな騒ぎの最中、再び研究室の扉が開いた。
「お待たせしました・・・・・探してきました」
優しく微笑みながら入ってきたのは矢野研究室のメンバーである朝霧澪。おしとやかな口調と落ち着いた態度で、禁忌ラボ唯一の常識人と呼ばれている。
「いやー助かったよ、朝霧君。それで、どこにいたんだあいつ?」
教授の問いに朝霧は困ったように笑いながら答える。
「キャンパス内の池で魚に話しかけていました・・・」
「おい・・・」
教授は額を抑えながら呆れている。
次の瞬間、後ろからひょこっと顔を出したのはその張本人である宮坂蓮。金髪にピアス、目立つ服装。まさにノリだけで人生を生きているような人種だ。勿論見た目どおりで勉強は苦手なようで、なぜ神城工科大学に入学出来たのか自分でも分かっていないようだ。
「いやー、魚って宇宙から来てると思うんだよね。見た目が完全に地球の生物じゃないしさ」
宮坂連の謎理論で研究室の空気が一瞬止まった。
沈黙を破ったのはもちろん冬川夢羽だった。顔も上げずにパソコンのキーボードを叩きながらボソッと呟く。
「まず、宇宙空間は真空。水が存在しない。魚はエラ呼吸。終了。」
「えっ、でも・・・何かこう、特殊な宇宙魚とかさ?」
「じゃあ次に温度。宇宙は基本マイナス270℃。即冷凍されるだろう。次に放射線。地球の磁場がなければ生物はすぐに被曝して死ぬ。」
「・・・・・」
「つまり、水も空気も遮蔽もない環境で、魚が生存することは不可能だ」
冬川は静かに、だが確実に宮坂の精神を刺しに来ていた。
あまりにも悲惨な状況が続いたため俺は話題を変えることにする。
「教授、全員揃ったことですし定例会議始めましょう」
矢野研究室のメンバーは教授含めた全5名。
・教授(矢野勇人)・学部4年(如月暁)・学部4年(冬川夢羽)・学部4年(真田忠彦)・学部3年(朝霧澪)・学部3年(宮坂蓮)
ちなみに院生は居ない。理由は単純明快。教授が変人だからだ。
研究室の雰囲気に耐えられず卒業と同時に他大学へ院進するか就職するかのどちらかだ。
全員がいつもの場所に座ったのを確認し矢野教授司会の元、定例会議が始まった。




