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第二話

冬川が永久機関を開発して約1年の時が経過した。

「おい、(あかつき)これを見てみろ」

そう声を掛けてきたのは俺と冬川が所属する神城工科大学・矢野研究室の教授である矢野勇人だ。

矢野研究室は変人の巣窟として知られていて、周囲からは禁忌ラボと呼ばれている。頭のおかしい連中が集まっているから禁忌ラボ——ネーミングセンスは悪くない。

だがそのおかげで、俺たちは大学内で完全に浮いていた。

「何ですか教授。俺、研究で忙しいんですけど」

実際は暇だが教授の相手をするのは面倒なため適当に言い訳をする。

「まあまあ、そう言わずに。これを10秒間じっと見てくれ」

そう言った教授はPCのモニターに映った奇妙な絵を俺に見せてきた。

仕方なく指示に従ってその絵を見る。歪んだ幾何学模様に脳がざわつくような色彩。その中央には目、鼻、口のない恐らく人間?が描かれている。そんな感想を抱いていると教授は画面を消して、再び表示。

「あと2回な」

まったく意味の分からない行動。これをあと2回繰り返す?訳のわからない事象に俺の背中に冷や汗が流れた。

「・・・で、何がしたかったんですか?」

指示通り奇妙な絵を3回見たが何も起こらなかった。頭痛を感じたり、吐き気がしたりという事もなく本当に何もない。

「くっ、やはり実験は失敗か」

悔しそうに嘆く矢野教授の発言と今までの行動で俺はこの実験の目的を推察することが出来た。

「まさかとは思いますがあれ、最近流行っている3回見ると死ぬってやつじゃないですよね?」

「うむ。あの死の絵だ。信憑性を確かめたかったのだがどうやらお前は運がいいらしい」

『俺で試すなよ!』と言いたいところだがわざわざ口にはしない。

「冬川、これを見てくれ」

教授は対照実験をやるつもりなのか冬川にも声を掛けた。

「無理」

俺達の一連の会話を聞いていた冬川は即座に断った。

「サンプルが暁だけだと信憑性に欠ける。だから協力してくれ」

断られても食い下がらない矢野教授に冬川は溜息を吐き論理的に説明する。

「そもそもその実験には価値が無い。少し調べてみたがどうやらその絵は海外のホラー系イラストコンテストで準優勝したものだ。Pixivにも投稿されてるし二次創作も大量にある。つまり、この絵を見た人は数万人ほどいるが、死者はゼロ。信憑性は0.000・・・おっと、具体的な計算をしても意味ないな。とにかくゼロだ」

少し棘のある言い方だったがこれで矢野教授も懲りただろう。

ところが矢野教授の心は砕けていないようで反論しようとする。

「で、でも・・・」

その瞬間冬川は矢野教授に向き直る。無言の圧。矢野教授はその目に浮かぶ『反論するなら論破の準備は出来ている』という意思を読み取ったのか、口を半開きにしたまま硬直した。

「べ、別にいいよ。ただのジョークだし」

唇を尖らせながら実質的な敗北宣言をする矢野教授。

そして、研究室には静寂が訪れた。

この地獄の様な雰囲気を打破すべく俺は冬川に話題を振った。

「それで、あの永久機関の進捗はどんな感じだ?」

1年前に冬川が完成させた永久機関。研究の都合上、矢野研究室のメンバーには共有されているが、外部の人間には一切知らせていない。

理由はいくつもある。だが一言でいえば、永久機関は危険な発明だからだ。まず1つ、エネルギー資源の価値が暴落する。

石油や天然ガス、原子力など従来のエネルギー産業に依存している国々や企業がパニックになる。

2つ、軍事バランスの崩壊。無限のエネルギーがあれば新兵器の開発や兵器の持続稼働が容易になる。

これは永久機関を所有する国が紛れもなく「地球最強の国家」になることを意味する。これらの事により各国が永久機関の技術を独占しようとするだろう。

最悪戦争へと発展する可能性だってある。だからこそ俺は助手という立場から冬川に交渉した。「今はまだ早すぎる」と。

冬川もまたその危険性を理解していたため研究の進展と同時に、永久機関の存在を外部に伏せることに合意してくれた。

「そうだな・・・順調とは言い難いが、それでも一年前と比べればかなり効率を上げることに成功した」

冬川は実際の測定値を俺に見せてきた。1年前の出力が約0.5Wに対して今は2kW。スマホ一台の充電を約10秒程度で出来る数値だ。

これで順調ではないというには謙遜が過ぎる。世界を変えるには十分すぎるエネルギー効率だ。

この装置を数台作るだけでも国が変わると言っても過言ではない。


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