Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #004
※2026/05/21 #01〜04まで改訂をしました
※2026/06/08改稿しました
※2026/09/07完結後なのに 改定しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #04
壁を杖代わりに入り口まで忍んで歩く。壁と足が滑ってなんども足を持っていかれそうになる。杖を手に入れるまで歩きは不安定だ…ギブスには慣れない。杖なく歩くと頻繁に転倒する。その転倒した音を聞きつけて、バケモノどもが寄ってくる。
松葉杖はすぐそばにある。そこのカーテンから隣を覗いて見ればすぐにわかる。
病人の頭の上、理不尽にも最初の杖はそこに置かれている…まるで対峙せよ、とでもいうように。それがこういったホラーゲームの信条、信念、常識。せっかく作った怖い仕掛けをスルーしていくなんてことを許さない。
最初の病室から出るには、どうしても一回は死ななければならない。死に戻り、そして次への道が開かれる。
カーテンを開ける、無造作に、空けなくてはならない…開けないという選択肢はない。
汚い茶色に変色した包帯で上半身を巻かれた隣人。天井から滴る鮮血がその異常なまでの痩躯を真紅に染め、長い髪の毛を伝う。顔半分を覆うように巻かれた包帯には、天上からのものとははっきりと異なる色の血が滲み、なのに顔の下半分、口回りには包帯がない。まるで、その口で噛みつけ、とでもいっているように。その首は真横へと折れ、肩の上に乗り、曲がり折れた箇所からは、首の頸骨が突起物となって、皮膚を押し上げているが、決して皮膚を破って突き出ることはない。
隣人は、おぼつかない手先で、震える指先で食べ物を口へと運ぶ。飢えがどんなに食べても潤わないというように一心不乱に。首が折れていたら喰ったものが喉を通らないと思うんだが…まあいい。包帯は上半身だけにしかなく、へっこんで細くなった脇腹から下の身体はどこもむき出しのまま、足を棒のようにベッドの上でこちらへと延ばす。乾いた黄色い色の皮に浮かぶのは、人の内部に硬く存在する骨の象だけ。喰ったものが内臓へと運ばれていくような気配はその身体のどこにもなく、そんな哀れな病人が喰いつき、噛みつき、血の滴るステーキを人間が上手そうに食べるように、同じように何度も口の中で咀嚼して飲み込む。
血だらけで震える全身、なのに腹部から下の部位は全部、露出していて、なぜか包み込むように押し止める包帯がない。骨組みだけになった錆びたベッド、色の悪いクッションマットの上にただ虚ろに気怠く坐した隣の入院患者の腹は、無残に縦に開かれるように切り裂かれている。手厚い看護と手当をされたような痕跡さえない。
その病人が自身の腹から出た自分の内臓を自分で喰っている。
隣人ははじめ、こちらにはまったく関心を払わない、喰い続けるだけ。引き出した腸が、自身の内部にまだ残っている横隔膜や腹筋の断面に引っかかりながら、邪魔されながら、引きずり出され その腸に纏わりつく自分自身の血液で、胸元から喉元までの自分の身体を赤く染めあげていく。延々と、喰いちぎる。そんな風に体液が滴り落ちる演出だけがあって、上半身に巻かれた包帯は一瞬だけ赤く染まるが、そのすぐ後には、何事もなかったように元のくすんだ、使い回しているとでもいうような色へと戻る。隣人は弾力ある自身の腸へと食らいつき咀嚼し続ける。
…という映像が再生される。ここは変わってないようだな…視点はオレから始まり、病人の全身を上からのカメラワークで舐めるように、足から顔へとパーンしていき、最期には入院患者がオレに気がついて視線を向ける、というような視点のように、カーテン横に立つオレを映す…中肉中背で呆然と立つ、愚かな犠牲者を。ムービーの間はやっぱり動けない、直立不動のまま何をしても体は動かず、スキップもできない…1回目のイベントは飛ばすことができないのがこのゲームの仕様、必ず最後までその悲惨な景色に付き合わされる。
とはいえ…人の内臓の長さは人種や個人差、男女の差もあるが…どんなに長くても精々、15mぐらいしかない、食物中心で生育してきた人種でなら30mぐらいにまでなる、といわれているが…こんなにいつまでも長く食い続けられるものではない…のだが、隣人は無闇に喰う、食い散らかす。
一度開けたここのカーテンは閉められない。実際には…このカーテンを開けるとそんなご丁寧に喰うシーンのイベントが発生し、隣人が…顔を向け、こちらを標的とし認識したとでもいうように動き出す。ムービーが終わり、画面が切り替わると同時に、隣人はいつの間にかベッドの横に立っていて…ベッドを降りたというような演出はない、こちらへと歩き始める。なのにだ、そのまま見ていると、後ろから襲われて死に、逃げ出すと…追ってきた隣人に襲われて死ぬ。
どちらにしても喰われるだけ…ああ、逃げ遅れたか。
ドアに向かおうとしなかったからか 別に逃げなくてもいいからだが…あまりのリアルさに心が動いた? そんなことはない…手順として、逃げようとして、振り返るのが遅かった、ただそれだけ。
後ろから手をかけられて振り向き返される…無造作に力強く。女性なのに…良くいわれる、力を抑え、身体が壊れないように、というリミッターが外れているというような感じに、画面が勝手に振り向く。振り向いた先、そこにはいつの間にか、どこからか現れた、焼け焦げ真っ黒になったナース服のバケモノが、血走った目でオレを掴んでいる。なんであなたは隣の病人を覗きこんでいるんですか! プライバシーってものを解ってないんですか! とでもいうように大きく口を開けて、白い歯を見せて、生暖かい息が顔に降りかかり、内臓が腐った人間が口から吐き出すあの匂いがした。
ドアも、ベッドも、なにも動いても開いてもいない。そんな音も気配も、前兆さえもなかった。それなのにどこからか、今そこに置かれたとでもいうようにナースが現れ、オレを襲う。その服はかなり古風なもので、どこも短く、開いていて、扇情的である意味、エロい。
やはり同じ…それさえも感動する暇もなく、
襲われる、噛みつかれる、抵抗も何もできずに組塞がれる、噛みつかれる、引きずり倒されて、噛み千切られる。床へと寝転んだオレの顔を、わざと自分へと向けるように握る、いつの間にか多くなる手。隣人がベッドから降り、近寄って来ていて、一緒にオレの身体へと噛みつく、食い千切る、食い破る。
「ぐぅあああああっ」
生きたまま喰われる、その痛み、そんな貴重な体験を味わう、激痛に叫ぶ、肩口、腹部、腿、あらゆるところへと無造作に、ランダムに噛みつかれ、肌を裂かれる、肉を喰いちぎられる、噛みつかれたところから生暖かい液体が漏れ出していく感触。引き裂かれた腹部に、手を突っ込まれ、内臓を引きずり出される。真っ黒に焼け焦げた美女と、首の折れた歯だけおをむき出しにする美女に、もみくちゃにされる…美女かどうかはわからないが、片方はナース、それだけでも責められることに意義はある。生きたまま、腸を食われていくが。我先にと、痙攣しながら歓喜を体全体で表現するふたり。意識がある状態で味わうことのできない経験を味わう。
+PredingDead




