Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #193
※2026/07/29一部表現を改訂しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #193
傘が役に立たない土砂降りの雨の中を歩く、という重い足取りと引きずり方で、赤い大輪の花を咲かせたジュディを彼らはマイケルの横に並べた…ジュディの身体の傷はどこも塞がっていない。床に残った赤い線は乾燥に強い植物の茎のように太く、落ち着いた先での花の大きさにも影響を与えた…出血が止まっていない、死んでからずいぶんと経っているはずなのに。ジュディから溢れ出た血溜まりは、青年たちが刻んだ疎らに並ぶ足跡のすべてを従えて、ある広さにまで膨れたが熟しすぎた実のように、端からきれいに失われていった…縁の床に口が開いていると錯覚してしまうほど早く。植え替えて新しい所で咲かせた花は、以前のものよりやや小ぶりで、元の大きさにまで育たない。
ジュディの出血が止まっていない…ジュディの腹部からは泉の底から水が湧き出すように鮮血が、申し訳なさそうにそれでも自身の存在を主張する…地下アイドルでセンターを張れない女性のように、盛り上がるように流れ出ていた。倒れた時の状況から見て…ほぼ即死、外傷性ショック、出血多量、傷口は下だった…死亡後、出血あり…体内の半分から多くて4分の3。体表の血液が初期凝固…出すべき体液はもうないはず…顔に死斑、色の悪いスカートから見える脚にも同じような紫と赤の斑な瘢痕…だが、ジュディの身体からは未だ、失ったはずの体液と同じ量以上の出血が続き、ジュディを運んだ青年や兄、ほかの男性陣の手や体を汚した。横たわったマイケルさえも…? 彼女の影響下にあるはずのマイケルの身体にはジュディの血液は一切つかず、服も体も血に染まっていくことはなかった。ただ流れ消える。
………。
………奇妙な…偶然の一致…待合室、柱に吊られた妄信者たち…胞子が現れて、床に落ちた後はなくなったが…彼らもからからに干乾びミイラになるほど体液を失っていたのに、出血は止まっていなかった……。
亡霊? たちはその汚れを気にすることなく、ふたりを、まるで生前に来世で再会することを約束して死に向かった、ロミオとジュリエットのように揃えると、神妙な顔して周りを取り囲んだ…やめてくれ、勝手に想像したことで盛り上がらないでくれ。ジュディの体を運ぶことを手伝ったものたちの汚れは落とそうとしても簡単には剥がれず…手のひらについた血を自慢げに弟に開いて見せた兄が、また│当て所ない鬼ごっこをしはじめた…周囲を大人たちを障害物に見立てて走り回る。兄弟は、母親に叱られて嗜まれても平気な顔をして知らんぷりを決め込んだくせして、ナースに鼻の頭にしわを寄せるような顔をされたのを見ただけで、その競争を取りやめて、真剣な顔で母親からハンカチを貰って、汚れをふき取ろうと悪戦苦闘した…周りに集った男性陣もが慌てたように腰やすそで、汚れをふき取ろうと慌てふためく。その姿は…どう見てもいまにも、いただきます、といってふたりの身体に襲い掛かり、食い散らかすようなものどもには見えなかった。見えていなかった。
そういう仕様? ゲーム的な? なにが関わっているのか…わからない。見当もつかないとはこのことだな……。
見えていない。
彼らにはオレが見えていなかった…気がつかない、気づけない。まるでオレがそこに存在していないというように…ピーターやジュディと同じに無視をした。彼らは生きている設定? ゲームとしては? ではオレのこの状態はどういう状態なんだ? 疑問だけが残される。
マイケルの身体を合わせるように、と指示した黒人のおっさんの前に無意味に立って視界を邪魔した、脚を取りに付いていった兄の頭を撫でた、だが誰もオレには気づかずに、塩対応された…無視されるのには慣れているが、こう全員から省かれるとは…それはいい。霊体? 状態のオレに気づいたのは少女のみ…あの娘は別として、彼らの今までの行動は、突然現れ、状況に左右されず、いつの間にか消えていなくなり、また前兆もなく現れる、病院に巣食う襲い狂うバケモノどもと同じ、Ghost…Spirit? どちらか…日本的には幸御霊と荒御霊…通常、御はつかないが。どちらも死んだ後、魂がそういった状態となって人々に吉凶をもたらす、という、霊魂の存在を前提とした、根底的な事象理解に根ざしている…生きている人々が勝手にそう想像してそう繋げた、特定の出来事の裏側にそんな存在があるという、総意として。
1階に来てすぐ、マイケルの身体に弟がぶつかって抱きついた、何人かがオレの事に気がついて嫌な顔をした…無視したものもいる、彼らは確かにオレが見えていた…マイケルの身体であった時には。この時の彼らは実体のある亡霊? ゾンビというのは大抵、身体を持つ…なら今のこの状態のオレはなにになる? 完全な思念体? だが…ここがわからない、いまのオレは、マイケルの時と同じように、彼らに触ることができた…普通に。壁もジュディもマイケルの身体にも触れない…通り抜ける、扉もいまはムリ。なのに、彼らの体に触った感触がオレにはある…触って撫でて、髪の毛をぐしゃぐしゃにして、柔らかい部位が弾むような反発で楽しませてくれても…不可抗力。なのに、彼らの誰もが、誰にも触られていないと無視を決め込み、オレにぶつかった反動で転んだり…オレへのアクションはある、衝撃もあるが痛くもない、オレが邪魔で前へ進めなくなっても、違和感も持たず、何ともないと疑問さえ持たず、反応も対応もしない、反応的なリアクションがない…悪戯しても楽しくない。独りで誰にも知られずに人形遊びをしている子供に近しい、情緒性を成長させるためのお遊戯でしかない。
自分だけが楽しむ時間? 自分だけの快楽で満足する? そんなものはすぐに飽きる、こういったものは相手の反応を楽しむのが…まあいい。
死に戻り…意識が飛ぶまでの短い、長い間のタイムラグ…この状態はなんだ? 副作用? 確かにフラグを立てイベントをクリアし、情報とアイテムを持ち出して、次の活路を見出す…ゲームの仕様、信念、真骨頂…主人公の死に様を見せて、いまのオレには主人公の死ぬ痛みも合わせて叩き付けて。だが…今のこれは情報が手に入りすぎている。まるで…真実にこれ以上近づく気がお前にあるか? と問われているように……。




