Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #02 改
※2016/05/06本文中のいくつかの表現を改訂しました どこを書き直したのかは…後半の?ベッド周りです
※2026/05/07再改定しました
※2026/05/09いくつかの表現を修正しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #02
「うっ…」
ベッドから起き上がろうとして 全身の痛みに呻く いくつかの箇所は昔、背負わされたような塊で固められている感覚 右手もだ…右腕?
違和感 正面からトラック 右からバックした自動車 左足はなににこんなにされた? 後ろへか? 左へか…それなら左腕で受け身をする 右腕がこんなになる理由が思いつかない 覚えもない
左腕は動く 大丈夫なのは左手、右足…それと右目 左目はなにか布のようなものが頭に巻かれ塞がれていて、瞼が開けられない
顔を上げる 上半身だけは起こせた くすんだ色のカーテン 錆びて骨組みだけになったベッド 飛沫が飛んで色が変わったような黒い痕が残る壁と天井 窓…凄惨さを選り集めた周囲……
…ここは? 光景に見覚えがある だが…ふいに右目の端 隣との間を仕切るカーテンが揺れた
? なにが聞こえる?
閉じられた隣 奥から 中から なにかを喰う咀嚼音 粘っこいものを口へと運び それをよおく噛んで飲み込んでいく…どうやら隣の入院患者は食事中 健康指向らしい それと同期するようにカーテンが動く
それが…その咀嚼音がASMRで聞こえた
カーテンの向こう 中から聞こえているはずなのに 咀嚼音はすぐ後ろ 真横で 頭の上で、身体の下から 中から 響いてくる
頭を振っても 向きを変えても 痛む両手を使って耳を塞いでも…変わらない 聞こえる 消えない どうやって聞こえている? その向こうにいるのが美少女であるならいいのだが……
それも望み薄 聞こえ来るほかの音
遠くから…悲鳴 非難する声 助けを求める声 叫び声 呻き声 咆哮 罵倒 嘲笑 そして…連続してオレへと語りかける声
これは……
ベッドから降りようとして 右足がオレの意思とは関係なく、そこに残った 足の先がなにかに引っかかり バランスを崩して地面へと落下する 激痛に呻く 頭は打たなかったが、咄嗟に床に打ち付けてクッションとした、左腕が酷く痛む 何かが光って塵となって消えた…見たことがある ダメージエフェクト?
それに…カーテンの向こう 咀嚼の主が気がついて、喰うのを止めた こちらを伺っている気配に息を呑む 静かに 音を立てないように 気配を消してそこで…滑る冷たい床の上で待つ
錆びて骨組みだけになった心もとないベッド それさえも盾にして息を潜める
心音だけが響く これは…オレの鼓動? それさえも…周囲から聞こえるASMR いや、振動がASMRで伝わる 新しい技術?
ただ静かに、鎮まれと待った
やがて何事もなかったかのように隣の病人はまた何かを咀嚼しはじめた
安堵する 小さく息を吐く 途端に蘇る、忘れていた痛み
「!………ッ」
声にならない声さえも黙らせて、痛みを耐える やがて波が引いて行くように失われていく痛み ただ指先だけが震える ベッドを支えに立ち上がり、その端まで向かう 床に溜まった液体に足を持っていかれないように気を配りながら…カーテンの端から室内を覗き込んだ
反対側 奥の壁に扉 その前にベッド すぐ隣は厳重にカーテンが引かれ、中が見えない
ベッドが3つ置かれた病室…オレが寝かされていたのは一番窓際 どこにでもある病室の配置 ただ…見覚えがある 入院したことのある病院のものではない…これは……
一番向こう…入口近くのベッド付近にはカーテンはなく、そこから…錆び付いて赤黒い何かが置かれた骨組みだけのベッドが、室内に飛び出して、出入り口を塞いでいる
すぐ隣はカーテンがどこも閉じられ、中から聞こえる咀嚼音と踊るように、喜ぶように不自然に、一緒に揺れる
オレが寝かされていたベッドだけ…何もない 服も…事故に合う前に着ていたものではなく どこか古風な…パジャマ スマホ、鞄、靴もない
窓を見る…漆黒という言い方がしっくり来る外 いや、窓ガラスがまるでマットブラックに塗りつぶされているかのような、鈍重な闇 外がまったく見えない 室内の光もオレさえも反射せず 表面に滴り落ちる液体だけが、命を宿している血管のように浮き出て、脈打つ
手のひらでその雫を受け止める 償いの血と贖いの臭い 粘り気のある液体は、オレの手を赤く染めるが、くすんだ色のパジャマの袖についたそれは、一時的に赤黒く服を染めるだけで、すぐに元の淡い色合いの入院服へと戻って行く
………
それに…笑いがこみあげてくる 笑い出しそうな自分が怖い
ここから出るには…どうにかあのベッドを退かさないといけない
だけどそれをすると…隣の咀嚼音の主が出てきて、オレは喰われる 為す術なく襲われて 死ぬ
そうなる
だめだ、どうしてもここで大声で笑い出したい
なぜなら……
ここはオレが遊んでいたホラーゲームの開始位置にそっくりだからだ




