Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #02
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #02
「うっ」
ベッドから起き上がろうとして、左足の痛みに呻く
ギブスで固められている 右手もだ
大丈夫なのは左手、右足 それと右目だけ 左目は包帯で塞がれている
その目の端でカーテンがゆれる
閉じられ仕切られたその隣の奥から、咀嚼音が聞こえる
クチャクチャクチャクチャ……
ゲームのようなASMR
中から聞こえているはずなのに、まるですぐ後ろで何かを喰っているような共鳴
頭を振っても、それは変わらない これは……
ベッドを降りようとして、どこかが引っかかり、どう、と地面へと落下する 激痛に呻く 幸い頭は打たなかったが酷く左肩が痛い
カーテンの向こうの咀嚼の主がその音に気がついて、止まり、こちらを伺っている気配に気づく
息を呑む 静かに 音を立てないように 気配を消して待つ
錆びて骨組みだけになって、心もとないそれを盾にして息を潜める
心臓の音だけが響く
やがて、何事もなかったように、隣の病人はまた、何かを咀嚼し始めた
安堵する 小さく息を吐く ほっ その瞬間痛みが全身を打つ
声を上げないようにそれをこらえてベッドを支えに立ち上がる その端まで向かう 滑る足を気にしつつ室内を
そっ
と覗き込む
扉がひとつ こことは反対側 ベッドが3つ オレが寝かされていたのは一番奥 窓際
一番向こうのカーテンは閉じられていない 錆び付いて赤黒い何かが垂れ下がったベッドが、室内に飛び出して、出入り口を塞いでいる
すぐ隣のベッドのカーテンはどこも閉じられ、咀嚼音に合うように不自然に揺れる
このベッドの周りには何もない 服も…着ていたものではなくなっている スマホ、鞄、靴さえない
漆黒という言い方がしっくり来る外…いや、窓は真っ暗に塗りつぶされているかのようにまったく外が見えず、反射さえもしない その表面に滴り落ちる血液がまるで血管のように浮き出て、脈打つ
手をかざす 手のひらに赤い液体が溜まる くすんだ色をしていた包帯が赤黒く染まっていく
笑い出しそうで 自分が怖い
ここから出るには…どうにかあのベッドをどかさないといけない
だけど…それをすると……隣の咀嚼音の主が出てきて、俺は喰われる
そうなる
だめだ、どうしてもここで大声で笑い出したい
なぜなら……
ここは俺が遊んでいたゲームの開始位置にそっくりだからだ




