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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #190

※2026/07/23一部の表現を改訂しました


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #190



待っても…何も起こらない。いや、起こることは起きた、ただオレが望むような現象を引き当てない。



徐々にゆっくりと、舞台の上で主役だけを浮かび上がらせるように、廊下の明かりが乏しくなっていく。ジュディとマイケル、ふたりの死体を取り囲むように、淡い色の柔らかい明かりがスポットライトのように残り、それより外の領域が、明かりの中からは闇を確認できないように、深い色へと落ちていった。哀れな死体を後世のよい教訓とするように、という神の啓示。光がふたりだけを守るように包み込むと、漆黒に似た黒紫の向こうからはまた、叫び、呻き、雄叫びに絶望を歌う悲鳴が聞こえはじめる。ひそやかにささやくように唱えられる数多のASMR。巨大なものが壁の向こうを闊歩し、不規則に響く揺れが壁を軋ませ、歪み波打つ床が、すぐこの下にさらなる好奇心を掻き立てるものがある、と教えるかのごとく退屈な冒険心を、異性へと向ける欲情のようにくすぐる…ああいったことは浴場がいるからな。身体のない今のオレには感じられないはずの接触感覚で伝わる異質。壁の表面の錆が、粉となって剥がれ床へと散って、塵積もることもなく消えて行った。


………。


…死に戻りが起こらない…手持ち無沙汰になって、新しい住居に引き取られ、周囲を探索(確認)する猫のように嗅ぎまわる…好奇心と退屈とを秤に賭けて。エレベーターホールの方へ、都合よく滑って行った銃を見つけようと挑んだが…こちらの都合なんかやはり知らないというように、どこにもそんなものは転がって無かった…ちっ、武器()を手に入れる、いい機会だと踏んでいたんだが…想定(アテ)が外れる、まあいつものこと。そう簡単にことが上手くいく訳がない。


正面玄関…薄闇に包まれた先、そこにはいつの間にか立ち塞がった人の壁が成立していた…人が腕を組んで横に並ぶ、なんていう可愛らしいものなんかでは決してなく。エントランスホールのほとんどを、西棟へと抜ける廊下を、受付へと並んでいた人々で作ったのであろう人の壁が、完膚なきまでに往来するルートを塞いでいた…正面玄関から逃れるルートも。やはり退屈は人を殺す…待つのに飽きて融合した、予約なく病院に殺到した人々が作る、天井まで届く立派なブロック()は、東棟を塞ぐ(ブロック)と役割と余ったものを使ったという点では全く一緒で、ただ、そこに用いた数が違う。


肌色に似たクリーム色の表面にある、いくつもの傷口から鮮血と黄色い膿を垂らした人の壁からは、沸騰した鉄と煤と、膿んだ体液が混じり合った、どう例えたらいいのか、わからない腐れた臭いがした。苦悶と快楽を交互に受けている、という声と表情を浮かべる顔が壁一面に不規則に並び、救済の手が届かない暗く堕ちたこの世界を、あらぬ声で、あえぐ声で、心の底から絞り出すような口調と呪詛で恨む。ところどころから、飛び出した誰かの足と手が、自分だけはなんとしてでも助かろうと、何もない空虚を…見えないはずのオレにさえも、縋りつこうと掴みかかり、あるいは、自身のミスを見咎められるのを嫌う女性のように、近寄ろうとするものを蹴り飛ばそうとする…マイケル(生身)では移動するのが厄介(面倒)なトラップ。人の壁は受付の前を完全に塞ぎ、エレベーターホールから西棟廊下へと簡単に行ける通路を、薬剤室をわざわざ通って回り込まなければいけないようにしていた…西棟、階段前のスペースがこいつらで塞がれていたら、地下への移動手段も失う。慌てて確かめる…ことはできなかった。人の壁は、薬剤室へ入るための少しの隙間さえも、人の手と足と恨むような顔で覆い…俺たちもなんとかしてくれ、でないとここは通さない、とでもいうように、無意味に蠢き哭いた。よくこんなところをジュディは通って来たな? プレートの効果か…そんなものがあるのなら初めから使えばよかったのに…必要のない死亡はオレだけでいい。


エレベーターホールはなんの被害もなく、無事、だが…エレベーターは沈黙したまま、動く気配さえない。ボタンも押せない…この体(霊体?) では無理。中にも入れない…上か下か、どちらかに逃げれたのに…その後どうする? という愚問は見なかったことにする。エレベーターは動作する…そんな儚い希望に縋る、でないと屋上へと辿りつけないしな。西棟へと移動する手段が閉じた。回り込むルートを…考えても簡単に答えは出ない、そもそも…こんな壁なんて出なかった。また手探りで…修正をして行く、そんな感覚に笑う。



チョコレートを割るような音を立てて、右腕のギブスの端が欠片となって落ちた。欠片は床に白い破片となって無意味に残り、消えていかなかった…足で踏んだら痛そうだ、という状況にそぐわない愉快な感想が頭をよぎる。依然としてマイケルの腕にはナイフが刺さる…出血はない、ひびが入ったギブスも半分も無事…意外に耐久力がある。唯一の収穫…この長いイベントの。それ以外は異様にしょぼい(・・・・)成果…仲間ともども全滅、死亡エンド、その報酬なら、これぐらいが妥当かもしれないが……。ジュディを生かしてクリアする手段があったのかどうか…考えても良い案は思い浮かばない、わからない……。



時間だけが無闇に過ぎていく…時間をカウントする手段はここにはなく、自分が行う感覚も不確かな心臓の鼓動に頼らないといけないほど鈍い、目に見えないものに周りを支配され、無期が確定した囚人が受ける足枷のように重く、降り積もる。起こらない死に戻り…屍体が腐るぞ? どうやって死に戻るのか、知らないことが(あだ)になっちまったな……。


※また ぐだぐだの状況説明回です……

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