Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #187
※2026/07/16いくつか表現が足りなかったので修正しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #187
…いや、んなことはどうでもいい。今まで、マイケルの身体の生命活動が終了した後でも動いたということはなかった…遭遇したことはない。その前、動くかどうか知る前にたいてい、画面が落ちた…意識が飛んだ。今のマイケルの行動にオレの意思は介在していない…銃をなんとかしろ、ピーターをどうにかしろ、助ける、そんな意識さえしていない…表層に上がってこない無意識でそう思ったのならしかたねえが……。マイケルの身体は悠然と起き上がり、足音も気配もなく近寄って、ピーターの銃を持つ腕を抑え込んだ、攻撃を阻んだ。死んでから一定時間の後、そう行動するようにと、あらかじめ決められていたような勝手な行動…イベント? 死んだ後でもイベントが発生したのなら、マイケルは勝手に動く? 確かめようがねえな…時間は伸びたがどこでどのようにどんな条件で、こんな特殊なイベントが起こるのかがわからない…作為的に起こせない。そして、それに符号するようにしこりとして残るもう一つの悩み。
とっくに時間が過ぎている、依然として起こる気配がない…死に戻り。フラグを立て、強制的に揺り戻し、やり直しを行わせる、奇跡という名の過酷…それが起こらない。
…イベント中、それに入ることも、そこから出ることも不可能…幽体? 状態でもそうなのか? そういう前提で動くことにしよう……。
無機質にピーターへと向けたマイケルの瞳には一切の感情がなかった。顔にも生気がない…襤褸となって動かなかった屍体のまま。身体中、パジャマの表、顔、手にも血液が瘡になったくすみが浮き、動くたびに粉になって落ちる。死んだと思っていた人物に急に横から邪魔され、目線を合わせられ、指先を潰されたピーターがのけぞって、か細い悲鳴を上げ……、
「ひぃいあっ」
「ぅくっ……」
引き金を引いた…当該プレイヤーの所持品。やや下を向いた銃口から放たれる白煙と凶報。銃弾を受けた女性が小さい苦悶の声を上げて、九の字に折れ曲がり、密漁された動物のように地面へと倒れた。少女ではない、母親でもない…ジュディがそこに横たわった。小さい短い息を何度も吸ったジュディは、また、
「クワシマ」
と囁き…吐息に似た儚い息を止めた。
マイケルの身体が動いたのに気づいたのは、ジュディの方が早かった…蹲っていたはずなのに。マイケルがピーターへと手を伸ばして捕まえようとした直前…不覚にもオレがマイケルに気づいたのは、オレをマイケルが素通りして行ったこの時、ジュディは起き上がっていて、意を決したように悠然とナイフを持ち直した…そんなことはしなくていい。オレの考えなどお構いなしに、ジュディはオレを通り抜けて、ピーターと対峙する位置へと向かった…少女とピーターの間に、そこで留まった…ピーターを憐れむように睨み付けて。引き笑いに似た悲鳴、銃声…連続して数発。前かがみに倒れ込むジュディの腹部のトレーナーに斑点のような輪が広がり、抑えきれなくなった布から染みだすように血が滴り、オレの腕を通り抜けて、身体が床へと倒れ込んだ。手から零れ落ちたナイフが先に床へと当たり光の泡となって砕け、その身体を明るく照らした。床へと転がった、まだ艶の残る顔は以前のままで、だが力なく横たわったその身体は、もうすでに抜け殻になっていた。
………。
それにさえ気がつかずにピーターは自身の押し潰される指の痛みに非難の声を上げて騒ぎ立てた。組みつかれたマイケルの腕を解こうと、残った腕を差し向ける。だが、掴みかかろうとした腕のその先がないことに気がつくと、狂乱したように、マイケルの身体へと、子供がわがままを聞き入れてくれない親へと反抗するように、何度も無茶苦茶に叩きつけた。
…どうしてこう…キムといいジュディといい、甘ちゃんなんだ…自分だけは助かる、何ともない…とか思っているのか? アホくさい……。
ピーターの腕の力は、ふたつに分かれた状態でも弱いらしい…なんども腕をぶつけられながらも痛くともなんともない、という風に立つマイケルは、指先を握りつぶそうと、さらに力を込めた。
…自分の身の安全を第一に考えろ、そしてそれができてから他人の身を憂え。自分自身のこともできない奴は、何をやっても上手くいかない、できない…不変の幻想は持つべきではない。そんなものどこにもないし、存在しない。まして神さえ死ぬ世界では……。
…まあいい…手術室できちんと待ってろよ? 今度は出るなよ? 聞きたいことが山ほどあるんだからな……。
「ぐわああああっ」
マイケルに手首を押さえられ、曲がらない方向へと折られたピーターが、野獣に追い立てられるバッファローに似た悲鳴を上げ、体をくねらせた。自由になる右手でなんとかマイケルの身体を遠退かせようと押す、が、いまのマイケルの方が力も体幹も良いらしく、その身体は微動だにしない。何より、掴めない…二つに分裂した腕の先はハンマーのような平ら、握れずにマイケルの体表を滑って行く。なんどもハーケンを打ち付けるようにマイケルの身体を殴ったピーターは、痛みと思い通りにいかない状況に、目を血走らせ憤ったように叫び声を上げ…頭を三つに割った。自らの意思で? それはわからない…だがどこかで見たような変態をはじめた…ここには変態しかいないのか? 正気を疑う。
ピーターの頭が、耳の後ろで前後に開き、後頭部がつむじから縦に首まで真ん中できれいにふたつに分かれた…新たな口が、どこかで聞いたのと同じ、赤子のような産声を上げた。マイケルの身体が一瞬だけ、ビクついたように反応し、動きが止まった…行動不能? 開いた頭の中、そこには毎度の見慣れた小さい鋭い歯。キムとも、薬剤室で会った入院患者とも違う割れ方…どちらかというと今、すぐそこで待ち続けていた狂信者の搗ち割り方に、その頭の開き方は似ていた。
硬い音を立て、床に拳銃がぶつかった。手首なんてどうでもいい、とでもいうように折れ曲がった先のまま、ピーターは左腕をマイケルから無理矢理、引きはがした。相手より、より力を込めるために脚を動かして位置を直すと…床を固いものが転がって行った音、ピーターは猛然と反撃に出た…左腕さえも二分割して。殴りかかる直前、ふたつに、生木を割るように裂けた腕が、マイケルの頬を切り裂き、首に鋭い切り口を作って、ハンマーの先のようなもうひとつの腕が、身体の内部の骨を痛めつけるような澱む音を立てた。
「ふごおおおぉおぉおぉおぉおっ」
もはや声にならない声で叫んだピーターは、4本になった武器で、マイケルを叩き壊そうと腕を振るう…危機的状況に陥った主人公が自らに隠された能力を一気に開花させ、敵を葬り去るように。ピーターの力が上がっている…デフォだな、その無分別な攻撃にマイケルの身体がよろめいた…もともと、満身創痍、右手の指先も直ってなければ片目も潰れたまま…いつ潰れた? 右手のギブスで顔を隠すように身を守るマイケルは…いや待ってくれ、そんなことをしたら……。
ギブスの肘近くに打撃が飛んだ…かろうじて残っていた薄い壁が剥がれ崩れた…このタイミングでかよ…同時に、マイケルの身体が半分に切断された…上半身がその重みでもって床へと斃れこんだ。それに巻き込まれたピーターの腕が床へと、棒のように落ち…どこか遠くで鐘の鳴る音が聞こえた……。
※主人公の視点の向かっている方向と マイケルが立ち上がる表現がおかしかったので 修正しました クワシマはそっちを向いてません あんな風に立ち上がるとカッコいい とか思って書き加えた分が 丸々 余分でした すいませ




