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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #186


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #186



ちっ…やはりだめか……。


覗き魔の?(この) 身体(状態)にはいくつかの欠陥がある…歯がゆい。触ることも教えることも、邪魔するということさえできない…見てるだけ。何もできなくとも、満足しなければいけない…特定の苦難と同じ境遇を味わわされる…これも死に戻りのペナルティか……。無条件に世界を行き来でき、他人に知られたくないことを握れる…それはある意味、有利に事を進ませる手札にはなるが、一部は足枷ともなる…知らなければ何でもないことまで無理に詰め込まれるということに等しい。人は自身の痛みより、他者の痛みを過大に感じることがある…特に親しくなったものに対しては。損失は大きく響き、報酬は手に入れるごとに低く感じるようになる…発達するために、進化するために。


いくつかの拷問は、相手の自尊心を砕き、後悔と懺悔をそこに染みこませるために行う…相手の善意に付けこむように。目の前で子供を甚振(いたぶ)り、痛みと助けてもらえない絶望を泣き叫ばせ続ければ、大抵の親は屈服する…特に安寧に浸りつくしている国の住人は。そうでない国の住人にもその被害は及ぶ…だからこの状況が成立する。



「うっ、ぐっ…うううううぅ……」



頭を抱え震えながら小さく子供のように丸まったジュディへと、ピーターは誇らしげに銃を向けた…権力と地位と肩書を持つものが思いもかけない幸運に恵まれて、情動を表に出すような顔をして。つま足でジュディの足を思いっきり蹴ったピーターは、勢いに任せ引き金を引こうと銃口をジュディに向けたが、そこで思い出したように背筋を伸ばして、目を見開いて少女たちの方を慌てて盗み見た。以前と同じ姿勢…関心なく動かない母娘(おやこ)をそこに見止めると、小さく短い息を何度か吐き、ゆっくり刺激しないように、そこで蹲る女性の身体の反対側へと回り込んだ…その小さ…くもねえな、身体を中心にして。


…やめろ、そんなことはしなくていい…だが、この状態のオレの言葉はジュディには届かない……。


寝転がった、それほど役に立ちそうにない身体さえも盾に用いる慎重さで、微調整しつつ納得する位置で窺ったピーターは、目線はあくまで目の前の悪魔に添えたまま、恐る恐る(ひざまず)いた。頭を垂れて救済を求める…のではなく、手先だけでジュディの身体を仰向けにさせると、(まさぐ)るようにその胸からプレートを剥ぎ取った…一応、男としての教義を忘れてないように……。ぎこちなく胸ポケットに無造作にプレートを乗っけると、注意深く、騒ぎ立てないように後退り、第一診察室と第二診察室の間の壁にもたれかかって安堵したように深く長い息をついた。身体から緊張が抜け出ていくように張りつめていた肩が下がった。



「手こずらせるなよ、ジュディ…ジュディ・マイヤー。今がどんな状況かわかっているのか? お前…すぐそこにバケモノがいるんだぞ? ふたりで言い争いや些細なもめ事を起こしている場合じゃないんだ…わかるだろう? 願いを叶えたいのならその無理なわがままを抑えろ。目の前の現実をきちんと理解しろ…でなければ永遠に姉さんには会えないぞ?」



独り言のように、間違った生徒を更生させるべく諭す先達者のやり方でピーターは語る。真摯に話せば相手が感じとって、目覚めるように分かってくれる…彼の言い分に対する反論が難癖に聞こえるぐらいの熱意でもって。だが、ピーターが語る夢物語(理論)にはどこか破綻している、言葉の上に乗らずに、落とされて含まれていない箇所がありありと見て取れた…目に見えないはずの音声であるのに……。


…辱めを受けた後の女性のように、ジュディは体を丸め直す…その動きに紛れ込ませるように、相手に気づかれないように、頭の上へと手を伸ばした…暴漢から少しでも逃れるようなふりをして。ジュディが倒れた頭の上、そこには待合室の黒に紛れるように鈍く光るナイフが刺さっていた…オレが()っ刺して、弟の残滓がこもった武器が……。



納得と説得の違いが分かっていない輩がよく行う論理のすげ替えに、自身が話した素晴らしい提案に、満足したように口の端を持ち上げたピーターは、ジュディに向けていた銃口を少女へと切り替えた。やや遠い距離に自信がなかったのか…壁から離れ、1、2歩だけ近づいて。ピーターの背中、壁に寄りかかっていた部分の白衣が錆色に変化していた…その錆は白を嫌っているかのように、じわじわと、気がつかない背中側を侵食して行く…もう一つの変化と共に。


…刀身部分すべてが埋まっていたナイフは、女性の力でも容易に抜けた…側にあったガラスの灰皿か尖って握りやすそうな石を取るぐらい簡単に。あっけなく手に入った手段に驚いたように柄の握りをジュディは確かめると、自分の身体の中に沈めるようにナイフを大事に抱え込んだ…目に意思を乗せて。



「動くなよ…左で撃つ練習なんてしてないからな。その何度も生き返る身体がどうなっているのか調べないといけないしな…どこで復活するのかも突き止めなければならないらしいし…ああ面倒だ。なぜ俺がこんな腐ったところにまで来てまた、人殺しなんて…殺人鬼の真似事なんて、くだらないことをしなければ…!」



共に行動したことも、話した回数もそれほど多くはない…サンプルが少ない。会ったのも、ここに来てから…それ以前のことは何も知らない。知らなくてもいいからだが…それはオレの想定が間違っていた、という、いい訳にはならない。オレはいくつものことを勘違いしていた…ジュディの行動も言動も存在の受け取り方も…ただそれだけ。ショックを受けることはない。新しくなったのなら、それ相応に設定し直すだけ、何も難しいことではない…いつも通り、直すだけ……。


…そうやって何度、自分の心を守ってきたか…もう忘れたな……。



ピーターが少女へと銃を向け、慎重に照準を合わせた…その手をオレが…マイケルが握って押さえ込んだ…オレがいないのに……。こいつ、動くぞ?


※アイキャンフラーイ を止めた為か 主人公が暴走気味になっておりますが 気にしないでください

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