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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #185


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #185



いや、クワシマではない…些細な囁きと(ささ)やかな蔑み…ジュディの口の動きは「く」からはじまる数文字、「くやしい」か「くたばれ」。いまここにほんの少しの願望も、希望も入り込む余地はない。オレが死んだところでなんの痛みもない…誰も感じてはいけない。少しの間、一緒に行動しただけ…まだ、友達にもなっていなかったわ…そんな言い分(クーリングオフ)成立する(できる)期間。出会ってすぐに仲良くなった…子供のころの逸話にいつまでも(すが)っていられるほど、大人の時間は短くない。



一通り、状況を把握したらしいジュディは、そこで不貞腐れているのに未だ、強がって尊大な振る舞いをするピーターに、



「なにか…大変だったみたいだけど…何があったの? これ? あんたが殺したの?」



侮蔑と軽蔑を組み込んだような渋い声と(まなじり)で疑問を投げかけた。明確な答えを期待する、そんなニュアンスは彼女の口調には含まれてない。



「はぁあああ…どうだかな…はあはあ…合図が来て、装置を回収しに…はあ、来たらこうなっていた…ふうふーふう…俺のほうが聞きたいぐらいだ、なにがどうなって…こんなことになったのか…わからない。監視者(あいつら)も居ない…被害者は俺のほうだ。腕をこんなにされたんだぞ? はあはあ…酷いとは思わないのか? お前…人をこんな風に傷つけて…喰おうとする奴らに…ここにいるのはバケモノだらけだ。殺さないと殺される。人を襲う奴を何匹、殺そうが…はあ…罪には問われない。襲われる前に…うっ」



返ってきた言葉は真っ当、異論をはさむ余地もない。だが、話しの中に紛れ込むなにかに我慢できなくなったジュディは、苛立つように前に出て、そいつの眉間に銃口を向けた。大抵の正論というものには、話しをするやつの、自分は正しいことをいっている、という優越感と自負感が入り込む。そのいらない情動が、せっかくの良い例えを台無しにする…本人が気がついていないとしても。周囲を納得させられないプレゼンを行う典型のような目をしてジュディを見上げる男はまた、泣きそうでそれなのに口の端を持ち上げて歯を見せるという、感情を読ませない顔をして、浅い呼吸を何度も繰り返した。意思の籠った目でピーターを睨み付けたジュディから、今にも銃弾が放たれる…という気迫が、ピーターを、浮気を咎められる男性に仕立て上げたが、ジュディは指先を小さく震わせただけで、その引き金を引くことはなかった。気持ちを落ち着けるように止めていた息を吐く。



「黙りなさい、このクズ…気が散るから。もうあんたの話しはいい…聞きたくない…それより答えて。姉さんはどこにいるの? あんた…姉さんがここに閉じ込められてるっていったわよね? ここに…この腐った病院にいるって…だから来たのに…どこにもいないじゃない。あれは嘘? どういうことなの? ヘラヘラ笑ってないでまじめに答えて……」



そんな、水底から聞こえるようなジュディの言葉に、ピーターの顔に張り付いていた表情が崩れた。憐れむような、煽るような口元から、



「ふはははは、ハハハハハハ…まだ会ってないのか? ずいぶんと嫌われたものだな? 実の姉妹なのに…会いたくないんだろう…はあはあはあ…姉の方はな! ははは…会ってどうするっていうんだ? さらに恨みを晴らすのか? その銃で? それとも…ははは、姉さん、会いたかった! ははは…いま、その苦しみから助けてあげる! とかする気だったのか? はぁはぁはぁ…互いに抱きしめ合って…喜び合って…そんなこと…はぁはぁはぁ…する気もないんだろう? お前…はぁはぁはぁ…逃げ回ってるのさ…自分を殺した実の妹か…!」


「うるさいっ、黙れ! こっ! …え? なんで?」



ジュディへの無分別な言葉の槍が放たれた。表情から血の気を引かせたジュディが、手にした優位性を誇示する道具の引き金を引いた…躊躇いなく。なにかがちょうど隙間にはまり込む音…その音が聞こえてから一瞬遅れて、ピーターが頭の上で腕を重ねるようにして縮こまった。軽い回転する音、続く、同じようにどこかに嵌りこむ小さな音。なんどかそんな規則的なリズムが黒いリボルバーから上がり、ジュディはなんども、男に向かって引き金を引いた。


一発の銃声もそこからは響かなかった。



「? ……!」



自身の身に何も起きなかったことに気づいた男が、驚いたように顔を上げた。過呼吸のような息遣いはもうしていない。自分の顔の前に銃を持ってきて、なんども引き金を引くジュディを見上げて…ふたりして同じような顔をする。撃鉄が動き、同芯が音を立てて空回りした銃からは何の音も衝撃も起こらなかった。


他のプレイヤーのアイテムは使えない…ジュディは知らなかった、ただそれだけのこと。



「このっ!」


「きゃあっ……」



一瞬だけ早く、そのことに気づいたピーターが咄嗟に立ち上がり、近づきすぎてすぐに手が届く位置にいる女性に、先のない腕で殴りかかった…肩まで二つにきれいに割れた状態で。切り落とされたはずの腕の先が、生育がそこで止まったとでもいうように肉で塞がり治っていた、骨の形に盛り上がって。骨の真ん中できれいに二等分にされた腕を痛がる様子もなく、女性の顔に叩きつけた暴漢は、圧し掛かるように覆い被さり、何度も腕を振るい、女性から、身を守る唯一の道具を奪って、その先端を無慈悲に女性へと向けた。銃を持った方の腕は二分割されていない…制御できている? いやな感覚が沸き上がる…幽体?(この) 身体でも身体的反応が起きるとは初めて知った……。


ずっと蹲っていた…立ち上がることができないのだとばかり思っていたが…このゲーム、ダメージを回復させるには、動かないこと。そして、蹲っているか、しゃがんでいるとその回復量は多くなる…知っていたのか? 偶然なのかはわからない……。


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