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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #184

※後書きに些少のネタバレがあります 作品自体には影響しないとは思いますが お気を付けください


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #184



血で汚れた白衣の裾で、自らの手首を抑え込んだピーターは、理解できない少女が追撃して来なかったことに安心したように、歯がゆく泣き笑うというまた難しい顔をして、身体に緊張を漲らせ、何度も胃の内容物を戻しそうな嗚咽を漏らしながら、身体全体で浅い息を繰り返した。バレないように少しずつ、でも確実に後退る。床に転々と残ったピーターの鮮血が滲んで、白い蒸気を放って蒸発していく。霊体?(この) の状態だと匂いがわからない…唯一の欠点。相手の真意を見抜こうと射貫くような熱い視線を少女へと送っていたピーターは、相手がそっけなく自分に興味なさそうにしていることに気がつくと、四つん這いになって押し潰そうとする手から逃げる虫のように遠ざかった。虚勢で、誰に向かっていっているのかわからない話し方で、悪態と失態と、救済と罵倒とを交互に口にする。



「痛い痛い痛い痛い…くそう、どうして俺がこんな目に合わなければいけない? お前のせいだ、みんなして邪魔しやがって…どうして分かってくれない? 痛い痛い…人類のシンギュラリティのために…新しい未来のため努力している俺に対して…この仕打ちはなんだ? わからない…理解できないお前たちが悪いんだ! そうだ…そうだ! 頭の悪いお前たちが全部悪い、それなのに俺だけを悪者に仕立てやがって…死ぬ死ぬ死ぬ…はああ…大丈夫だ、平気だ…これぐらいでは死なない、すぐに直る、そうだ、これぐらいの傷ならすぐに治る、何ともない…大丈夫、大丈夫だ…こんな気持ち悪いところで死ぬなんて反吐が出る…御免だ…すぐに戻ってきてぶっ殺してやる…待ってろよ? ああくそー痛い、痛い…死にそうだ…何とかしなければ…ああくそっ、死ぬ死ぬ死ぬ…なんでこんな事に…なんで誰も助けに来ない? あんなに良くしてやったのに…これが治ったら全員探し出して消してやる…死ぬ…痛い、血が止まらない…死ぬのは嫌だ…誰でもいい、神様でもなんでも…いますぐ俺を助けてくれ……」


「そう…ならここで死んだ方がいいんじゃない?」


「ああ!? 何言っている? 俺が死んだら誰が……、お前……」



廊下の奥…暗闇に閉ざされ、もう見えない病院正面玄関ホールの向こうからそんな…女性の声がした。ゆっくりと姿を見せた女性は、進む先の足元にあった銃に気づくと、ピーターが拾う前に無造作にそれを奪い、確かめるようにシリンダー部分を優しく(なま)めかしく指先で撫でてから、銃口をそこで蹲って微動だにしない男性へと合わせた。唖然とした、この女性の考えがわからないという表情で硬直したピーターは、だが本当に助けが来た、という甘っちょろい考えを乗せた重苦しい声で、女性へと詰問するように口を開いた。


ブラウンの天パー、そばかす、白人、丸い眼鏡、こんなゲームにはそぐわないキャラのだぼだぼしたトレーナー…よく無事だったな? どうして手術室(安地)から出てこようだなんて思ったのか…そうか、出られて当然か……。



「…ジュディ…ジュディ・マイヤー…お前どこに行っていた? いままでどこにいた? いや、ちょうどいい…それでその母娘(おやこ)を撃て…その銃なら充分にアイツらを殺せる、それで俺を助けろ、今すぐに…おい、なんで俺の方に銃口を向ける? バケモノはあっちだ、間違えるんじゃない……」



…ジュディが、今まで見たこともない冷静で冷徹でまじめな顔で、ピーターに向けて銃を構えた。真一文字に結んだ口と目線だけで、ピーターを威嚇する。ジュディのトレーナーの胸、緑のラインが入ったネームプレート…どこかのナースたちと同じものが付いていた。だがプレートには、グラデーションして消えていく緑のラインがあるだけで、ほかの所には何もなく白く、名前も下にあるはずの楔型文字も見当たらなかった…マイヤーという苗字も。


マイヤー…その名前には憶えがある…だがあれはゲームの中での設定(もの)…それがなぜプレイヤーであるジュディが名乗っている?



「そう? わたしにはあんたの方が血に塗れた殺人鬼に見えるけど?」



返り血を盛大に浴びて血塗れ、という出で立ちのピーターは、どう見ても被害者には思えない…片腕を失くしてはいても。依然として人形のように佇む少女は、反対に白いまま、きれいなまま、傷ひとつ負わず、汚れても返り血を浴びてもいない…異常なほどに。どこかに自分の感情を置き忘れてきた、という静謐な瞳で、もう動かない、何かを守ろうと身をかがめる母親を見下(みおろ)している少女は、ピーターにも、ジュディが現れたことにも気がついていない様子で、ただ静かに、母親の傍でなにかが到達するのを待つように留まっている。



「何を言っている…そんなことよ! ………」



ピーターが言い返そうとした言葉を、銃の先を軽く動かしただけで遮ったジュディは顎と目線で、ピーターを元居た、待合室の前、少女と蹲った母親の脇まで下がらせた。ふたりの位置へと近づくにつれ、ピーターは目に見えて緊張していき、鼻と口で浅い呼吸を何度も繰り返しはじめた…過呼吸に近い吸い込み方。その姿を憐れむように、目を細めて口をつぐんだジュディは、ふい、という軽い感じに少女たちに目をやると、緊張したように唾を飲み込み、それから、廊下の奥、診察室の前あたりで寝転がってぼろくず同然になったオレの身体へと目線を送った。


眉間に皺を小さく作ったジュディは、


「クワシマ……」


小さい声でそういった。



※ここで出てくるキャラは法則があります もし キムがああなっていなかったのなら キムとほかので エマリアなら また違うキャラです 殴って逃げたオッサンは…再登場は当分先です

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