Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #180
※2026/07/07改訂しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #180
そういった意味じゃねぇんだが…深い階層、そこには宝物が眠る。誰も到達していない階、深くなれば深くなるほど、見返りは大きい…不覚にならなければもっといい……。
「!っ」
急に沸き起こった悪寒、慌てて廊下へと飛び退いた…境界はなかった。人の塔を中心に、暗く黒い円ができ、待合室だったものが、空気の抜けてく風船のように萎んだ。ブラックホールはこう見えます、という不均衡、背後の壁や天井が球形に縮み、人の塔の足元に奈落ができた。黒より暗い黒の闇…あまりいい兆候じゃねえな、これは……。列車が急制動をかけるような悲鳴を上げ、振動も何もなく、U字に、鋭いVに床が落ちこんでいった。壊れてもいない床のコンクリートが独特の埃と滓の臭いを残し、空中に浮かぶ図形を浮かび上がらせ、今までそこに床があったことを信じさせた。
歪んだ空間、人の塔は歪んでない…直立した姿のまま威厳を保つように中心に位置する。コンペイトウをエフェクトにし、画像処理で乗算したような立体的な景観の周囲が、飽和してすぐにでも零れていきそうなコップの中の水に浮かぶ油の動きを真似る…カウントダウンのように不規則に。はるか下へと引っ張られていった足元だけが球形の影響を受けずに漆黒より黒く、マーブルのアイスの乗ったコーンのアイスクリームの印象を与えた…重力の影響でこう見えるのなら、足元も球形になる…が、いまのここには確かに穴がある。しかもその底に引っ張る力を持つ何かがあるような……。
急激に引き込まれた空間、生まれた気圧差…中耳炎のような痛みを伴う耳鳴りに煩わされる。周りから空気と熱気と臭気が穴へと逃れ、急速に失われていく……。
この下は地獄…映画の演出で行うような特殊効果がそこで渦巻く。意思のない少年の遺骸がそれに巻き込まれ、長方形の陶磁器のような白い壺が、力なく一緒に滑り落ちていった。人の塔がその後を追うように、穴の中を降りて行く…透明な壁でできた、周りから丸見えのエレベーターに乗っているみたいに…待てお前ら、穴を開けっ放しにしていくんじゃない。こんなもの…人の力で如何こうできるものじゃねえぞ?
部屋の端、無表情で佇む少女…何ともない、歪みもせず、異常に巻き込まれてもいない…椅子も、椅子の前、斜めに突き刺さっている重厚な絵本も、以前の状態で空中に浮かぶ…魔法陣が支えになっている? 見た通りではない、きちんと床がある、というような物体表現、荷物の留め置かれ…だが床はない、現にオレはその端で落ちそうになっている…止めてくれ、これ以上の厄介ごとに巻き込むな。目の前から急に異物が消えた、というような、表現しがたい平坦な感情で少女が辺りを見回し…オレに気づいて、また視線を合わせた…この状況が見えていない? どういうことだ? 確かめる術はない。
「ぎゅぎゃぐぎょ…ぎゅぎゃぐぎょ…ぎゅぎゃぐぎょ……」
個体が慄き…その異常に巻き込まれ、身体を歪めながら、懸命に羽を動かして、ズレ落ちていった…エッフェル塔の上部から、手に羽を付けて飛び降りた喜劇人のように。やはり自家製の手の羽では空を飛べない。助けを求める声がドップラー効果のような音の連なりで届いた。
一安心…だが、何もできない状況は変わらない……。
咄嗟に廊下へと逃れて、ナイフを床へと突き立てた…少女と個体と人の塔が、何かいちゃいちゃとやっている最中、待合室と廊下の境目、なんとかその端まで逃れていたオレをあざ笑うように、そこの境界が邪魔をした…出られない。固い不可視の壁…入るのは簡単、出るのはなにかフラグを立ててから、確かにイベント、なにかしでかさないと外へと出られず、外からも入れない、そんな仕様…だがその解決法が何かわからない。死に戻りも…嫌な直感が思考の向こうを横切っていった。もっと早く決断しておくべきだった…オレはいつも遅い。死に戻れば大丈夫…傷もすべて治る、その甘えが判断を誤らせた。
少年の遺骸が、倒れて横たわった…頭部が潰れた、イベントの終了…その感覚が戻り、伝わった。これでなんとか打開策が…何ともならなかった。
解放されたなにかの力、抑え込まれていた抑圧、どこかへと圧力が逃れていった…現に、音が廊下から聞こえた、反響して帰ってきたモールス…一瞬の逡巡…迷っている暇なんかほとんど、なかった。
床が、陥没した…落ち込んだ、どんないい方でも同じ、凹んだ。柔らかいゴムの上に重いボールを乗せたように…人がブラックホールを表現する時に行う平面の認識。本来、それはこんな風に三次元的に立ち昇る。
引き込まれる、引っ張られる、ずり降ろされる…起きた異常に巻き込まれそうになり、ナイフを床へと打ち付けた、少しでも遠くへ、廊下の向こうへと。抵抗なく床へと入り込むナイフ…床もイモータル属性のはず…まあいい、このイベントでの数少ない得物、少年が唯一残したナイフが、ゼリーへと入り込むように床へとあっさり刺さり…床を切って端まで引っ張られた、待てこら…胸まで奈落へと落ちて…かろうじてナイフが止まった、あぶねえ…廊下と待合室との境目、今度はそれに救われた…ナイフがその境にある、なにかの取っ掛かりに引っかかって止まった。数少ない救い、それでも体が引っ張られる…脚になにかがしがみついて引き下ろそうとするような悪寒が背中を伝う…汗か……。
体の中が、深層へと引きこまれる感覚…心が持っていかれる。
まずい……。
身体をなんとか持ち上げようと手を伸ばす…ギブスが本当に邪…!?
頭を掴まれた…持ち上げられる……、
「ぎゅあああああっ」
オレの頭の上、出現するような予兆も前兆も何もなく…廊下に出た時にそこに前もって立っていた、とでもいうように、隣人が立っていた…髪の毛を掴まれて持ち上げられる。まるで軽いボールでも掴み取るように…人をクレーンゲームで釣り上げるように…やめてくれ…いや助かったのか? どっちだ?
※アイキャンフラーイ ってやりそうなのをなんとか止めました 収集がつかなくなるので…




