Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #179
※2026/07/05いくつかを改訂しました 後から足したものがすべて余計にならなければ良いのですが……
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #179
「?」
床に残された少年の身体…力なく横たわるその首元から新たな…ビクついたような動きでやや淡い金色の胞子が出てきた。どんくさく…もたもたしたそいつは未練があるように首のところでぐずぐず、し、首の隙間から、背後の悲惨さに紛れて見えずらい、黒い細い糸でなにかを引っ張り出そうとあたふたし…喰われた、簡単に。胞子の存在に気づいた個体が瞬時に首を伸ばし飲み込んだ…笛が鳴るような高い悲鳴、固い軽い柿の種をかみ砕くような音。咀嚼はない…ただ確かに嚥下した。蛇が卵を丸呑みしたように、大きな瘤が身体へと向かっていき…断ち切られた。少女がまた、不快なものを断罪するように、首を切り落とした。重いものが水辺に落ちたような音と飛沫、巨大ウナギが横たわり…液化した。個体のどこかにある発声器官がまた悲鳴を上げ、そんなものはもう気にもならない、というように新たな顔を作り、また産声を上げた。引き起こされるエフェクト、音が瞬間的に聞こえなくなり、そこに存在するオレを含めたすべての存在にブレが発生したような、一瞬の動作の遅れ…少女にも。ディレイ攻撃? 嫌な気配が背中を伝う…傷口はもうなんともない、出血とは異なる異物感。明らかに変わった再生スピードと攻撃…深化が早い。それがこういったバケモノの特徴だが…弱点はそこではない、と明確には成った。ありとあらゆるところに情報は詰まっている。
銀河の果てまで行こうとしていた胞子の動きが、滞る、止まる。吸引力が無くなったブラックホールのように天体の運動が止まり、前にも後ろにも行かずに、行先を見失った旅人のように戸惑う。唐突に失われた慣性、胞子がその場で、どうするんだよ? おい…というような会話をしていそうな困惑を見せる。真下で待ち構えていた人の塔が、頭となったドームでそれを見上げた。
静寂と緊迫を伴った、互いのにらみ合い…一瞬の、こういったときは先に動いた方が負け、どこかで聞いたセリフ、の直後……、
唐突に、胞子の色が失われた。
頭の上、少しだけ残った胞子が、明るい白から黄土色…枯れ葉に似た褐色にくすんだ。潤いを失い乾燥した落ち葉が枝につく効力を失い、紅葉のように降る…小さい身体が細切れに崩壊し、塵になって…何があった? 何のトリガーでそんなことになった? 慌てたように人の塔のドームが、胞子に向かって腸を伸ばした…触手? 一部に根強いファンがいる所業が、胞子を吸い込もうと、蠢きはじめた。掃除機のような動きで触手が胞子を取り込んでいく…残った数、それほど多くはない、虱潰しにすり潰すように。だが…残骸は吸い込む力のベクトルを受けただけで、脆くも崩壊していった。ほとんど吸えない…慌てたように、怒ったように、人の塔はホースを振り回した…自身のアンテナや足にぶつけ、傷を作りながら。傷ついた腸から黄色い膿が弾け飛ぶ。一部のホースの先端を自身の行為で切り落とし…さらにその痛みに憤るように、人の塔は腸を乱暴に扱った…細いアンテナや足先の方が頑丈で、方や、固く、柔軟性がありそうな触手の方が脆い…歪なバランス。長い鞭を華麗に操る、そんなことはすぐにはできない。特にアニメやゲームで行っているような、変幻自在に自由に従える、には通常は相当な訓練と熟練がいる…あんな簡単にはできない、という良い見本がここで繰り広げられた。このゲームに鞭なんて、高尚なものはねえが……。
眼前への逃避、後頭部をスクロールして行く思考…はっきりと認識する、もうオレが如何こうできる状況にはない、対処はムリ、こんなの…どれかと対戦しろ、といわれてもどれともムリとしか言い逃れるしかない。胞子ぐらいならなんとかなりそうだが…その胞子もすでに失われた。椅子の後ろ、インジケーターも沈黙したまま、光りもしない。
もはやこの待合室にオレより下の存在は居ない…もともとオレより低い奴はいないが……。
椅子の後ろ、そこだけいまだ明るいテクスチャー、中庭の光に紛れるように置かれているはずの、壺の動きがない…動作不良? 感覚的には…満杯になった。いくつかの符号と状況がある答えにまで行きつく…床に引かれた魔法陣、移動できないようにされた境界、集められた胞子…だがそんなことをしてどうする? ということがわからない…真実は表層にはなく、深層にある。ただ…これで死に戻りをしても大丈夫、という予感と実感と直感が、それぞれの解答欄を同じ答えで埋めた。念には念を…そんな風に回りくどく、テストで余裕がある時に行うようなことを大事に行った、大抵のこの、念、というものを押そうとした行為というものには…遅すぎる結末が含まれる。そんな良い例が目前に迫る。碌なことじゃねえな…巻き込まれたこっちの身にもなってくれ……。
やはり、笑うしかない。恐怖に立ち会った時、人のとる行動はいくつかに分かれる。オレのそれは……、
唐突に、床がへこんだ……。
前兆も予兆もなにもない…もはやそれがフツウというように。そうとしか言い様がなく…深層がそこに生まれた。




