Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #176
※2026/06/30いくつかの表現を修正しました…この書き方は長くなるので考え直さないといけませんね
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #176
右腕のギブス いまや大人しくそこに刺さるナイフ…以前と同じ象 持続ダメージを食らうとは思わなかったが…それももうない 左のナイフも大きさは変わらない…このイベントで手に入れた数少ない得物 なのに少女が持つナイフが明らかに変わった
やや小柄な少女 外見的な年齢は…尋ねるのはタブー 彼女が持つ新たな得物 長剣にしては短くショートソードにしては刀身が細い 細長い…短いレイピア? 柄が小さく短い十字の形 柄の先端には四つのティアドロップの飾り 刃先も飾りも、より深い黒群青という色合いでさらに周囲の黒を反射する 大きくきれいな白鳥の羽を手に入れて、その美しさに見惚れるように少女はレイピア? を不思議そうに掲げ見て…光の残像を引いた 彼女の斜め後ろ、頭を半分に分割された狂信者の身体が、胸の位置で真っ二つに別れ、水の中へと飛び込む子供のような音を出して倒れた…切れた、ということは突き刺すだけのものではない 少女は正面を…少年のほうを向いたまま、後ろへ、体も顔も動かしてもいない…死角がない? 狂信者だったものから、我慢できなくなった吐き気を解消するように、血液が床へと打ち撒かれた…顔を背けたくなる腐臭と咽るような熱気 幾分かだけ、そこに横たわった狂信者だったものは、粘液のように揺れると融けるように液体へと崩れ、跡形もなく床に飲み込まれていった…完全消滅のエフェクト その臭いに少女が嫌悪するような微妙な表情を浮かべた…いままで見せたことのない感情 いやなものはいや、というのが少女という生物の特徴だが……
そんなことが行われている隙に、また少しだけ少女たちより遠退く…感覚的に待合室だったものと廊下の境界へと這う そこで思い至る…臭いがわかるということは少なくとも、空気を吸って、その中に含まれる粒子を感じている、ということに……
剣といい 感覚といい…進化? やっかいな…胞子を食ったから? 確かに胞子かも知れねえが…そんなんで進化できるのならスライムだって魔王になれらあ……
いままでにない行動 いままでにない反応 新しくなったのならそれを基準に…以前と違う、といって騒ぐだけなら、年端も行かない子供でも、子供より迷惑な老人でもできる なんの進歩も改善も見つけ出せない愚者にはなるな それだけは避ける…もっともFOOLは最初で強力なアルカナでもあるがな……
残る狂信者は5体…少年の遺骸の側 胞子を喰って微動だにしない1体を除いて すべての個体が上を向き、口を開け…開けすぎで顎の関節位置で顔を金床のように半分に、平たくし、胞子が幸運にも舞い下りてくるのをただ待ちわびる 一箇所に集まった狂信者たちは互いを労わるように腕や体を絡ませ合い…なにかの儀式を行うために積み上げられたキャンプファイヤーの積み木のように建つ 動かないのなら放置 こいつら全員と一度に相対するのはムリ いまの少女とやりあうのも無理…もともと、少女は如何こうできる存在ではない…少なくとも蝋燭がない今の現状では 時間的猶予と武器がもっといる 出血は止まった…痛みが鈍く残るが 右手の指はやはり生えてこない…まだ左がある あと少しで廊下へと逃げ出れる…少しずつバレないように行ったにじり寄りが功を奏して、なんとか魔法陣の範囲から逃げ出す まだ残る足跡が、夏のプールサイドの床に刻んだ跡のように、淡く消えていった
少女からは目を離さない…離せない 少女もオレをロックオンしたまま…本当に恋に落ちそうな見つめ合い だが起こるのは怖気に似た悪寒と彼女が消えたと同時に切り臥される最初の一撃 いままでの所業…アレで切られたら完全消滅での一発エンド…バッドエンドの未来しか見えない どうにかして死に戻りの時間を作らねえと…真ん中に集まる狂信者の身体を盾にして、少女の視界から一旦外れ…そんな愚かな考えは早々に捨て去るべきだった この世はこちらの都合通りに安易に行かない…ここはそんな甘いところではない ヘタな考え休むにニタり…確かに休んで回復に勤めた それがより酷い状況を生み出すということは世の中にはよくあることだったことを痛感する
「んゥギュぐわアあぁ、ぐヴァらりゅばうぇりゅウがァ」
視野の上 頭の上の胞子の移動が…明快な意思を持つように、奥へと向かう 視野の左をほぼ遮る、真ん中に集まった狂信者たちへ胞子は一向に落ちてはこない…そいつらがほぼ真ん中で揃うように四角いトーテムを形作っている、ということにも気がつかなかった 視野の右端、胞子を喰った狂信者が激しい痛みを伴う声を上げてのたうち回り、なにか理不尽なことに遭遇し、自身の無力を嘆くようにその胸を掻きむしった 胸へと力を込めて…指先を入れ込んで…開けた 表皮が裂けて繊維が切れる鈍い音 自身で自身を害するものが発する歪な声 胸の中を曝け出そうとする自虐的な行為に、内部の肋骨が同調するように蠢き出し その横に跪いていた少年の身体へと伸び、それを避けるようにか、視野のほぼ中央で、少年がふいに後ろへと斃れ込んだ それに同調するように鳴る、小さな電子音 少しの間、傍観者面して放置していた愚かものをあざ笑うかのように同時に叩き起こる、それぞれ別々の事象…やめてくれ、明らかにキャパシティーオーバーだ どれが重要で、どれに集中したらいいのか迷うだろうが……
視野の中央 微笑を浮かべたまま、少女が動かなかったことだけが唯一の救い…いや、それさえ救いにもならねえがな……




