Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #175
少し長くなりました……
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #175
喉元 頸動脈から頸骨までを一気に切り開かれた少年の首が その重みで、後ろの首の皮一枚だけで支えられて、真後ろへと背中につくように裏返った…どこかで働いていた救急隊員みたいに愉快に 背中で軽くバウンドした首は ボブルヘッドのように軽快な挙動で左右に 皮に支えられるほど重みなく小刻みに揺れ…こちらを睨み付けるような背の窪みで落ち着いた 焦点の合わない瞳が、小さく瞬いた瞼が、後悔を湛えたような色を帯びる…でもまだ生きている だらしなく動く口から放たれる言葉は、もう叶うことのない悪態と救済を求める声よりもさらに原始へと戻り 少年の身体から流れ出た体液が…床に引かれた魔法陣へと自らの意思を持つように集まろうとして、途中にある不可思議な足型の溝に遮られて、右往左往した挙句、泡だって自滅するように蒸発した
「があああああああ ぎゃはばばばばば げへへへへへへへへ ばあああああああ あががが……」
断ち切れた上下の血流と神経 脳だけで人は生きてはいけない…なのに少年は生かされている だが少年が発する言葉も内容ももはや、明瞭な単語を持たず、叫び声でも悪足掻きでもなく、ただ何かを訴える、赤ん坊が上げる声によく似…?
……首元からなにかが出てきた
液体? 首だけではない…少年の身体にできたあらゆる切断面から、黒い、まったく光を反射しない墨のような液体が滲み出てきた。血液よりも遥かに粘度の高いその液体は誰かのものと同じように、床にまで垂れると蒸発した音を発して白い蒸気と…オレのとは違って、小さく短い悲鳴を上げた。自ら意思があるかのような液体はスライムのようにそこで丸まって…明らかに床と接するのを嫌がって表面を波打たせると、体の中からなにか光る…綿毛のような胞子を外へと逃がした…珊瑚が卵を産み落とすみたいに。マットアイボリーの珠が液体から生まれ零れて周囲へと浮かぶ…ひとつやふたつではない。瞬く間に、百近い数がその中から吐きだされ…それを薄ぼんやりと見つめる少女と、力なく首を垂れた少年の姿を、白と銀と金の幻想的な光と色で浮かび上がらせる。胞子を吐き終わったスライムは床に吸い込まれるように泡となって消えた…完全消滅のエフェクト?
「はあぁああ…」
ため息に似た声を発して、少女が赤い唇を気怠そうに開けた。いままで息を吸っている、というような気配も息遣いもまったくなかった少女が甘く香るような吐息を吐くと、薄くピンク色に蒸気した頬に誘われるように、周りを漂っていた胞子がひとつ、ふたつと、自らの意思とでもいう動きでその中へと入って行った。呼吸をしている胸の動き、息苦しくなって息を吐く、そんな様子もない。少女はただ軽く顎を少し上げ、艶めかしく、飴かキスを待ちわびるような面持ちで唇を開く。その開いた口の中へと、咀嚼することもなく、飲み込むこともなく、味わうようでもなく、胞子が飲み込まれていった…お腹壊さないか? そんなもの食べて? 少女へと向かわなかった胞子は、ふたりの周辺にあるらしい緩やかな上昇気流に乗って、天井へと誘われるように登って行き…ちょうどオレの頭の上あたりで纏まりはじめた。床にある魔法陣の中心と同じ位置、水をためるボールがそこにあるかのような形で…狂信者がやっていたケチャが有効だった? 天井を底にU字に盛り上がると、胞子は自然と回転しはじめた…逃げ出すように外へと。だが底からは出られない…そこには確かに目に見えない何かの障壁があって、胞子が逃亡するのを阻止していた。一か所に集まった胞子は、決してひとつには溶けあわず、自身は確固たる唯一の存在である、と主張するかのようにボールのように混ざった。
それに懇願するように手を伸ばす……
「はワァうバりゅとァわぐぅばエがうぇあしゅヴァれ……」
祈りを解いた狂信者たち……
いつの間にかケチャをやめ、推移を見守っていたそいつらが、一斉に、神の降臨を雲間から差し込む光と見間違えた者どものように、啼き声を上げ、騒ぎ出した 踊り狂うように体をくねらせる狂信者たちは、我先にと胞子を捕まえようと細い、骨のみが浮かび上がる腕を天へと伸ばす…その姿勢はやはり神にすがる殉教者のままだ 少年の後ろ、安寧を与えた儀式のもっとも近くで陽気にケチャっていた狂信者の1体が幸運にも胞子を捕まえることに成功すると、唾を飛ばすような勢いで残りのミイラがそれぞれ異なる文句を口にした…言葉は全く分からない 文句をいわれつつも胞子を大事そうに抱えた個体は、大きな口を開け、さらに大事そうに胞子をその口の中へと入れ…噛み砕き、嚥下した 柿の種を噛み割るような乾いた音に重なるように鳴る、小さな悲鳴に似た笛の音 ほかの狂信者たちが共鳴したように狂喜乱舞し、乳化したダミ声を上げて、少女と同じように口を開け、少女と異なり歯がない口の中へ、光に誘われる蛾みたいに勝手に胞子が愚かにも自ら入ってくるのを待ちわびるかのように、天に向かって祈りだした…キムがヘタった時のように……
どいつもこいつもなんでそんなに自分だけは選ばれる、とか思い込む? さすがにムリだろ? それは?
当然のようにその自分勝手な欲望に…胞子が明らかに生理的拒否感のようなものを発して逃げ惑った 愚かに開く口から逃れるようにボールの中でかき混ぜられるボールの回転はやがて、水が排水溝から勢いよく抜け出るような竜巻に似たものにまで育ち…遠心力でもって、一部の縁近くの胞子が、端から零れるように外へと飛び出しはじめた…軽くなった内部のエネルギーがさらに回転を速くする 何もないところへと飛んで行った胞子は、慌てたように浮かぼうとし、なぜか天上へとは戻れずに、投げ落ちるフォークのような急角度で落下しはじめ……
「!っ」
少女の真上へと向かって漂っていった…ミイラに喰われるぐらいなら美少女に、というように。それに我先にと狂信者が集って行く…細い足を懸命に動かして、のたうち回る狂信者の目には、その胞子が天使かなにかに見えているのだろう。後ろから近づく嫌な気配に咄嗟に横へと道を譲った…これであと少しで廊下へと出れる。そう動いたオレの意図に気づいたように、少女が周りで起こる乱痴気騒ぎに心を惑わされることもなく、オレへとレーザーポインターのような照準を合わせ…そちらを一切見ないで、自身の後ろから近付いてきた個体をなんの抵抗もなしに切り伏せた。
嫌な雑味が混ざる声と命が断ち切れる音…生きてねぇなが 自分を崇めていたものに対しても容赦のない仕打ち…少年もそうだったな 愚かにも何か少女の感に障った信者の1体がそこに斃れ伏した 少女の手には、もはやナイフというような可愛いらしいものではない光があった……
PCで書き それをスマホで確認し 修正して 投稿する ということをしているのですが…そうすると違和感があるところを見つけやすいのです 今回のエピソードの読み直しで 主人公の位置取りを間違っていることに気づきまして 慌てて修正したのですが 急なことだったために 文章にいくつか違和感があるかも知れません すいませ あとでなんとか都合をつけます




