Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #171
※2016/02/21エピソード というか表現というか 行動記述が足りなかったため 加筆 修正しました
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #171
こいつの中の人 酒焼けして喉を壊してるか シャウトをして声を張り上げる職業か 年齢的に声帯の機能が落ちたおっさんか そのどれかか全部 つまり…このゲームをやっているよ……
……と後頭部のはるか先でカーソルにくっついてスクロールするように流れる文字を眺める隙をついて 右の…数字の死角が分かっているかのような位置から 刃先が飛んできた 少年がいつの間にかその隙間へと入り込んで、オレの顔目掛けナイフを伸ばした…首と身体ごと動かすようにしてそれを避け…ようとしたが、一瞬遅く、目尻からこめかみにかけて先端が届き、浅くだけ抉った その動きに呼応するように 少女がオレの左胸へと腕を伸ばす 体が思うように動かねえ…どこもかしこも一瞬だけ遅れる なんかのラグに引っ張られるもどかしい体感…背中と腰の痛みに 身体が急に体を伸ばすことを拒否する…のをなんとかねじ伏せ、体ごと捻って つい、少女の手を払おうと右手を振ってしまった…指先に鋭い痛み いくつかを持ってかれた…直後、異質な金属同士がぶつかる高い音と明るい、火花が舞いちるほどの閃光 目が眩む…のはオレだけではなかったようで、少女と少年もが舞進むのを澱んだ 炎でなくともいいのか…エマリアのライト 咄嗟にできた僅かな隙 転がるように身体を伸ばしてふたりから距離を取った 床に自らぶつかっていく酷い衝撃と反動によって派生する厳しい痛み 回転しながら離れた床には、元からあるものと、はっきり違う色の鮮血がなにかを意味するモールスみたいに残った
「ちっ、逃げんのだけはうめーな? 目ん玉、頂いたと思ったのに…だが次はないぜ?」
美少女が嫌いなものから顔を背けるようにうっすらと瞳を閉じて俯き 美少年が右腕で顔を庇いながら…指先と逆の頬に酷い火傷のような痕を創りながら、舌先でナイフの先を嘗めるような言い方と言い分でそう煽った…内容と声と姿はもうどれも一致しない 白ぼけした暗闇がゆっくりと戻って行った先 右の口端を持ち上げるようにニヤつく少年のその顔にも指先にも疵の痕なんかはなく 揃って立つ少女も 座っている時と同じ、きれいで清楚で純真なままだった
ふたりともに、どこかの愚かものと違って欲深く、深追いはしなかった…それもそうか 重く圧し掛かる体をなんとか持ち上げながら、ショックを悟られないように顎の下の、かいてもいない汗を拭うように拭いた 充分に取ったと思った距離が想定していた長さよりも遥かに短かい…無邪気な子供がよたよた、と簡単に親の胸元へと入り込めるほどしかない 同じ子供とはいえ双子でも数歩で十分に届く範囲…追い打ちは近い距離だと成功するが、遠いと失敗して反撃を喰らう…という格ゲーデフォはここでは通じない 無敵時間もねえしな…近い距離なら無理に追う必要もなく、追いつける
「はあはあはぁあ…」
膝をついて…つかないといられない状態で ふたりと対峙する 打つ手がない 助けが来る? 人は生まれた時も、死ぬ時も常に孤独 その甘い考えを頭のどこかから拭い去る
「ぎゃはははははは! ざまあねえな! いま楽にしてやる! 動くんじゃねえぞ? 動くと…さらに手が滑ってほかの所を切っちまうかも知れねえからなぁあ! あはははは、やっぱ無抵抗の奴を甚振るってのが一番、楽しいぜ! なあ? そう思うだろう? 生きてるって感じがするだろ? ぎゃははははは……」
ナイフを持った手をこちらに伸ばして…デフォのように睨み付けて少年が粋がる 最近のヤンキーやチンピラだってやらないような挙動…恥ずかしくないのか? それは?
その隣で 少女が麗しい幻惑から回復したとでもいうように、そのきれいな瞳を見開いた 生まれて初めて見た眩しい光のせいで何かを失くした、とでもいうように、少女が何かを見つけようと首を巡らせる…恋しい母親が近くにいないことに気づいて、寂しくなって探しまわる子供みたいに…それが ふと 止まる
その動きに 違和感が伝わって堕ちていく…アタマに血が足りねぇ 憎悪に鳥肌が立つ…感覚 この身体に鳥肌なんてものは立たない
断ち切られた筋肉 右指は親指と小指だけ、鮮血が垂れる ギブスはもう役に立ちそうにない ナイフは刺さったまま…左の腰にも…手で確認 背中の傷は処置も出来ずに、血液もだだ漏れ 武器らしい武器も…これ使えないか? 右腕に刺さった熱せられたように泡を出すナイフ…いいか、あとだ 満身創痍 ガタが来ている 精神的なもう働きたくない…でござる なのに痛みと圧迫と血液不足で意識が飛ぶこともない
つまり…また、笑い出したい 衝動に駆られる 自然に口角が上がる そんな反応
「……お前…本当に頭おかしいんじぇねえのか? ああ? こんな状態で笑っていいのはおれたちなんだよ! お前は命乞いするほうなんだよ! ほんとあったま、悪い奴だな…これを理解できないとか…逆に引くぜ」
床に落ちたオレの血液が、魔法陣を構成する線と領域となんらかの化学反応をして湯気を上げた 蒸発する その蒸気は…冷え切ったオレの身体にはちょうどいい熱さで、周囲を白く染めて、意識を手放すな、と弄っていく
その蒸気の向こう……
双子が揃って並ぶ 双子のように対になって並ぶ オレの返り血を浴びているはずなのに ふたりは異様にきれいなままで その佇まいも姿にもどこにも、こんな凄惨で残酷なことをするような雰囲気も、子供らしからぬ残虐性も纏わせてはいなかった
だが それも当然……
大抵の世の中というのは反対にできている
大きな事件を起こすのは 肩書が大きな人物であり
もっとも生産性のない争いを起こすのも もっとも肩書が大きな人物である
肩書は能力ではない あくまで その人物の能力的社会階級を示しているだけに過ぎない
だが、人はそんなものにしがみつかなければならないほど…んなことはどうでもいい 打つ手がねえ 追い詰められた…気がつくと 魔法陣のど真ん中に放り込まれていた…そこに転がる首が笑い声をあげてオレを呪う すぐ後ろが開いている…もう少し向こうへと行ければいいんだが…格ゲーでの位置取りは苦手なんだ……




