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Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


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179/212

Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #170


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #170



「!っ ぐっ」


背中の鋭い痛みに呻く。肋骨を避けるように何かが…鋭利な刃先がその合間に差し込まれた。オレの背中はバターのように柔らかく、弾力があり接触を伝えるはずの皮膚も、肋骨の間にある筋膜も、抵抗するような感覚も役割も何もせずに簡単に異物の侵入を許した。熱く熱せられた火箸が一気にまったく手応えなく、スペアリブを切り分ける時みたいに軽く、背骨近くまで斜めに登っていく。切り分けられる家畜が目を剥いて訴える感覚は、他人(ひと)には伝わらない。


「くぅうっ」


右の腰から腿にかけ、外よりも暖かい滑りが覆い出す。なのにオレが思う体の温度は異常なほど冷たく、凍死しかねないほどに感じるその寒さに連動するように、身体の反応が(にぶ)い。ここから先をやられたら動けなくなる(致命傷)…その直感に従って、無理に、時計回りに、ガイルが裏拳を出す要領で右手を少女がいると思われる顔の位置へと繰り出した。歪な痛みが背中をさらに抉って剥がれてゆく。体をなんとか少しでも遠くへと、無理に腕を大振りして()じって得た隙間はそれほどでもなく…なりふり構わずに身体を(よじ)る。振り返るようにして目の端で捉えたそこには、イベントをこなさないと解放されないはずの少女が確かにいた…気配も存在感も吐息さえもなく。悪いな、と一瞬だけ側頭葉の辺りのなにかがそう嘯いたが、それさえも感覚では一瞬にも満ちていない。


元のゲーム 少女は元凶ではあったが無害でもあった 攻撃も何もしてこない…こちらからもできなかったが…それが違う 明らかに感じる憎悪と無関心 相反して成立する、大人への的確な悪意と子供のような生への無頓着


まるで誰かのよう…!?っ


振り回した腕 上手い具合に少女の顔に向かったギブスは、のこぎりかなにかの歯で受け止められたような噛み合う音を発して、頬の位置でフィットしたように急停止した…当たってはいる だがダメージを与えたような感触もエフェクトもなかった…イモータル属性 石膏の固まりがその反動で粉々になって砕けていく…かと思ったがそんなこともなく無事に残り 逆に、少女の頬に勢いをつけて優しくくっつけた、という不本意な形で終わった 相手に与えられないのなら、ギブス(こちら)にも何一つダメージ(損害)はない…そんなよくわからないシステム(仕様) 少なくともそれに、助かったという感覚と打つ手がねえという実感が 滑る切り分けられた背中を伝わって落ちて行く…出血だな、これは もともと満身創痍、死に戻りできさえすればなんともない ここは一旦距離を取って、次の攻撃に…そんな簡単に行くわけがなかった


「!っ ぐっ、このっやっ……」


「ぎゃはははははっ、お前、おれが騙してたってわからなかっただろう? ええ? お前の事は最初っから分かってたんだよ! お見通しだったんだぜ? このバカがっ! お前プレイヤーだろう? 前にもお前みたいに自分は無害です、何もしません、ってな感じに入ってきた(ばか)がいてな! そいつと同じ動きだったんだよ! お前も! バカなんだよ! お前…無い頭使ったってダメなんだよ! ばーかばーか…ああ、ほんと楽しいぜ! 他人を騙すって…ああ? うっせーなあ…はいはい、教えてもらいました! ええ、こいつプレイヤーじゃね? って教えてもらいましたが? それがどうしたっていうんだよ? ああ? もっと感謝しろ? 助け合おう? うっせーなあ…いまはこいつを切り刻むのが先だろうが! 邪魔すんな!」



左腰 少女のものとは完全に異なる、皮膚が引き攣り裂かれ押し込まれる痛みが走る 少年がどこかに隠し持っていたナイフでオレを突き刺さした…体ごと背中へと飛び込むようにぶつかって 背骨に近い筋肉を通ったナイフは少女のものより遥かに深く…まさか! 魂への直接攻撃!? とかいうファジーでファンタジーなものか? とかアホなことを考えることでその痛みをごまかしつつ、前に立つ少女が無表情で無感情で無感動に再度、伸ばしてくる腕を右手でブロックするように持ち上げて避ける 同時に体を無理に今度は反対に回転させるようにサイドへと動かして左の肘を少年の顔辺りへと向かわせる…なんてことをしようとして そんな器用なことができるのならオレはもっと上手く生きている オレをナイフで押さえつけていた少年は肘が届くより前に、軽いフットワークで背後からいなくなり 少女のナイフが、パンケーキを作るときに混ぜ合わせるヘラみたいな軽い扱いで、さっくりとギブスへと入り込み、突き残った 痒みもなにも感じなかった右腕がはじめて、生きている、という信号を送ってくる 残ったナイフから沸騰するような湯気が音を出して ギブスの奥から血が垂れた その血の量は背中や腰に比べたらはるかに少ない


「はあはあ…くっそっ……」


動くはずの身体が、精神的な重圧によってか? 重い 溜息にも似た愚痴が出る



「おっと…まだそんな動けんのかよ? 意外にタフな奴だな…やり(殺し)がいがあるぜ」



どこぞの殺人狂がいうような、見た目と語る内容が一致しない少年の声はもはや隠す必要もないという感じに、さっき聞いた、だみ声、に戻っていた…その声と見た目ももう一致しない 美少年なんだから声は松〇禎丞くんがやってもいいだろうに…さすがに若〇規夫さんでは無理がある……


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