↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ  作者: 桜葱詩生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/212

Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #164


セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #164



ギブスがプレイヤーの攻撃にも有効 意外な事実 最初の一撃は喰らったが、それ以降で致命的なものはほぼない ギブスを失う その方が問題 案外、丈夫なことに驚く 頭の怪我は出血が多いが、どちらかというと精神的なショックの方が大きい


「ぐうっ…なんてことすんだ。痛てー……」


どれくらい横になっていたのか…飛んでいる感覚 痛みで気を失えればいいのだが…都合のいいことにこのゲーム それぐらいで意識は飛ばない 喰われる痛みと殴られた痛み 明らかに込められる意味が違う いまの攻撃には明白な悪意が バケモノどもからのものには明快な渇望が 生者に対する絶望と羨望 あらゆるものを自分の思い通りに、という欲望 明確に含まれる意図が異なる



自身の姿を確認…第三者視点(サードパーソン)は、こういった時に有効 プレイヤーにも分からせやすい



すでに酷い有り様だが…後頭部を手で探る 皮膚が割れた滑りと激しい痛み…陥没はない ホッチキスがいる…傷口を押さえ我慢する きれいな布…頭の包帯をどこで落としたのか 間違っていても地図はないよりあった方がいい


痛みは右肩 右腕 首裏…腰 これは破片 かさかさした鋭い針が刺さりつく 骨には異常はない 打ち身と痣 裂傷 勢いに任せ我を忘れると、最初の一撃は強いが、それ以降は軽く浅く、位置もバラバラになる 攻撃は主に右側…相手は右利き 棒などで殴られる時、蹲るのは威力が上がるから厳禁 だが、本能的にそうなってしまった



「うぁあああぁ」



誰かがオレを覗きこんでいる 心配そうに…握手会が終わったのか、同じように頭を割られて中身を零れさせる奴が真横に立っていて、真顔でオレを見下ろしていた 口元から垂れたよだれが床へと落ちて白煙を上げて、表面を溶かしていく…ようなことはなく、ただ雨どいから滴り落ちる生水のように王冠を作る ああ、大丈夫だ…何ともない、列に戻ってくれ…そんなことをいえるような状況ではなかった


そいつはオレを興味深そうに、白濁して揃わない…そもそも片方の瞳から上半分がない、視線で見つめた なんとか助けないと…とでもいう、山岳救助隊員(オレンジ)のように手を伸ばす これは…どっちだ? 拾い喰いか? それとも本心か?


マジか……


咄嗟に寝転んでその手を(かわ)した 全身の痛みを耐える 松葉杖が軽い音を立てて、そこに残った 確保しようと手を伸ば…それはいい 薬局と廊下の境 転がった先にも、興味深そうに集まってくるそいつら 徐々に抑圧が解放され行くような歩調 いや待ってくれ…お前らはそうじゃないんだろ? そう思うのはオレの勝手 相手の因果には(いばら)が棘つく


列を乱して 廊下へと ロビーから 診察に来た患者どもが餌を捲かれた鯉みたいに、我先にと溢れ出してきた 誰も焦点が合ってない なのになにかの感覚でもって…生命感知? オレへと興味を向ける


明らかな 渇望 それがそこに見えた


痛む身体を無理に押し上げて なんとか退路を確保…するように周囲を探る 身体を持ち上げる…そいつらの顔も明るくなった ロックオンを外すには…このまま後ろ 西棟へ逃れるのがもっとも簡単 ただそこから先のルートが不明 階段以外の確認を怠ったツケが身を削る (たか)られるのには慣れているが、ここまで来て普通に死に戻るのに欲が出る とはいえそれ以外に進める道がなさそうなのも現状 何も手に入れていないのにも悔いが刺さる だがそうは上手くいかないのも現実 ここで得るもの そんなのは初めからなかったのだと再認識する


こいつらの挙動、動作は明らかに遅い ゾンビ歩きとしどろもどろ…階段で転げ落ちた奴と同じ 緩慢で愚鈍 問題は…数が異様に多い 通路を塞がれたら、足元にある通気口ぐらいしか逃げ場がない…そんなもの、ここのどこにもないが 数の暴力…は、まあいい 西 東 どちらかへと抜け出れるような隙 それさえも罠かと身構える 少ない選択肢 手を前に伸ばして、全裸の美少女を前にしてどうしていいかわからないオタク()のように、おろおろして近づいてくるそいつらの姿に…ビートが自然と上がる 痛む身体でどこまでやれる? 本当にハクスラに似てきたな…その時、そいつらの近寄りが止まった 全員が一斉にそちらへと首を向けて なにかに誘われるように…本当にそこには美少女がいた、身体ごと向きを変えて歩み出した


「……………………」


「うわあっ ふぶうー」


ナースがなにかの会話をしだした…よくは聞き取れない 赤ん坊が笑いだす その歪んだ不協和音に もうひとつの歌うような、あやすような甘い声が混じる


元の列へと…違う 我先にと 群衆のように そいつらがその声のほうへと、カウンターへと集って行った 金を集めることにしか興味のなくなった坊主のように、必死に貴重品に手を伸ばす 台に邪魔されているが どちらも神にすがる妄信者 音に敏感で認知機能に障害があり、動作が不安定で目の前にいても素通り…そんなことはいい 早急に次の行動を選択しな……



「この種とその青い鳥を交換しておくれ。そうすればお前たちは種から生えた実で幸せに暮らしていけるだろう」




どこからか…そんな話し声が聞こえた 赤ん坊をあやすような声とは違う おとぎ話を読んでいるような涼やかな声


待合室? ホールの向こうから、漂うように、妖精の悪戯でか、読み聞かせでもしている語り声 診察患者は…聞こえてないような動きで神へと(たか)る 気づかれないように 反応させないように 柱を、壁を、エレベーターを杖代わりに背につけて 東棟へと避ける 壁と床に不規則に残る赤い区切り線が矢印を刻む エレベーターが咄嗟に開いて落とし込まれる…こともなかった ふらつく意識を手放さずに 歩くたびに痛む身体を押す


「うわっぎゃあっ」


顔色の悪い子供が人が群がる勢いに押し出されて、転ぶようにエレベーターホールへと吐き出された 呆気にとられたように自身の親の仕打ちを見返した子供は、そのまま自分の首を地面へと落として、崩れるように血だまりになり、床へと飲まれていった 受付前はすでに人壁で塞がれ 玄関ロビーも同様に 熱気が後押しして混乱と混沌が渦巻く 人同士が混じり合っていく 人壁の中で老人は、翻弄されるように体を捩らせ 老婆は自分の言い分を聞いてくれない周りに当たり散らすように腕を振って…体中の穴という穴から小汚い鬱屈をまき散らした こんな状態でも体格や体力で優る若者の方が優勢で…それはやはり、カウンターへと無秩序に並ぶ、アイドルの握手会の様相を保ってはいた 理性をもはや保ててはいないが……


エレベーターホールをゆっくり 横に動いて抜け出る すぐ待合室前 ふと、そこで見返すと…診察患者たちは朧げな白い闇の中へと沈んでいった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。