Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #163
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #163
受付の窓の外 そこは正面玄関と平行に続く外壁 小さく植えられた花壇の向こうは正面駐車場 実際にはこの病院の外はわからない 出られない…出ると同時にクリア 窓から外を見ると…そのようなテクスチャー
そんなところに赤ん坊が居座る…いまここへと入ってくるものどもは間違いなく遭遇する この暴君に弄ばれる…はずなのだがどうもそうではない 何ともなく無事に…この姿が無傷であるのかどうかはわからないが 入ってくる患者の群れは、途切れることなく正面ロビーをいまだ埋め尽くす いま出入口から出ていったとしてもクリアとなったかどうか怪しい 出た途端に捕まれ、死に戻る あり得る可能性は常に無限 そんな感覚…罠は連続して設置する とあるゲームの基本情景 ホラーだろうがRPGだろうがなんだろうが、すべての遊びの基本は謎解きにある
「うわあっ、きゃあっ、わあああああっ」
楽し気に手を差し入れ、指先に触れた人形を持ち出す赤ん坊 持ち出した人形の行く末は…どれも同じ これほど大きく無秩序な手が狭い範囲を探り回ったら…大災害が生まれる 受付内は空き巣に入られたようにものが転がり、倒され、悲惨な状況…のはずが、実際にはどこもなにも変化していない 落下した書類、荷物、書類入れ、動かされた机も倒れた椅子も、赤ん坊が手を外に戻していった後、目線を外すか瞬きしただけで元の位置へと何事もなかったかのように戻っていた 机、椅子、その間に置かれる展示物も同じ だが…それらはすべて違う位置に復帰 ナースのマネキンはいくつかのバリエーションがあって、違うポーズのナースが元の位置とはかならず異なる箇所に置かれていった 置かれる数は固定? 一定数でそれ以上にはならない 何回か、以前と同じポーズをしたナースが現れて、しかし同一ポーズのナースは一緒には飾られていない ダブったものはトレードに出される運命 置かれる所も特定、固定 連れ去られるナースと再配置場所 それは完全にランダムのように規則性はなく、赤ん坊の思い付き いやな感覚が背中を伝う 受付が迷路化? そんな疑惑……
机と椅子 その間に立つナース 普通に行き来できないように、ただし一筆書きの要領で通れるように アクティブな迷路の様相 ナースが通路を塞ぎ…他の箇所が空き、違う彼女が現れ、次が通行可能 だがそこに破壊と衝撃 いくつかの所…ここ、端 中央はほぼダメ 手が暴れても被害を受けない安全地帯…ただしあくまで予測 動かず動かされないところは…少しだけ そこにはかならずナースが邪魔 これを安全に抜けろ? 一苦労とかいうものじゃねえ なんとか進んでも…手が来る 来ないことを祈って、潜み、先へ抜ける…進んでどうする? という…そんな疑問
「うわああああああああああんっ」
なにかが気に入らなくて赤ん坊が泣く 子供は泣くのが仕事 ただ泣く理由がなにか? 分からないのはいただけない 美プラにも似たナース人形 味は不味いらしい 心身的負担が多い職業は…まあいいか
3Dゲーム マッピングが不可欠 俯瞰できなければ迷うだけ だがここでなぜそんなことをする必要がある? カンタンで単純なルート ランダム性が高いのは…いつものこと ボードにある数字? それだけのことにしては仕掛けが大げさすぎる
この先に何がある? 隠された仕掛け ここを抜けるには紙がいる…幸運の神が 方眼紙? 目の前にあった
カルテ? パッドに備え付けられた、魔法陣が血で描かれ…ただの赤いインクでなぞられたような紙がカウンターに置いてあった 図形の中心には英字文章…ではない、読めない文字の羅列 何語? が書かれ、意味がある、とでもいうように自己主張 このゲームに字幕はない
診察に来たものどもが見ているのとは明らかに違うカルテがそこにあった。気がつかなかった? いや…ここに着いた時にそんなものはなかった。紙の右下の部分は、ちぎったような四角い切れ目。だがベリンダが持っていたリストではない。裏には何も書かれておらず…白い。
これを使ってマッピングをしろ? ペンがない それに最近の3Dダンジョンは立体的 平面地図作成は必要だが…こんな単純なところでそんなものは……
「こぉんっのっ クソ野郎っ! お前のせいだっ! お前のせいでっ! おれたちはっ! こんな……」
後頭部 激痛が走った 誰かから後ろから殴られた 視界が不規則に揺れ、鮮血がカウンター上に飛び跳ねた それにかまわずそいつはオレを殴り続けた
「この野郎っ! この野郎っ! この野郎っ! 死ねっ! 死っ! くそっ…この野郎…これで少しは懲りただろう? ええ? いい加減、おれたちを解放しろっ! この野郎がっ! いつまでもお前に従ってるおれたちじゃねえんだよっ! くそがっ! いいか? こっちも暇じゃねえんだ! すぐに…くっそっ!」
そんなことをほざきつつ そいつはオレを真後ろから滅多打ちにした…気配がなかった? どこから現れた? 薬局からか? そいつはオレの頭、肩、背中をなにか…長い棒のようなもので殴り、打ちのめした 痛みに唸る 咄嗟に腕で頭を抱える オレの腕に命中した棒が不可思議に破裂し、男が狼狽した ギブスに当たった? 激しい音と鈍い痛みと呪詛 砕け散った破片が宙に舞って、襟から背中へと入り、棘のような鋭い痛みが突き刺さる
「もう追いつきやがった…くそぅ、覚えてろよ? 次に会ったらこんなんじゃ済まねーからなっ!」
そんなチンピラみたいな捨て台詞を吐き捨てて 蹲ったオレの背中を追撃するように蹴っ飛ばしたそいつは足早に…バタバタバタバタ どこかへと走り去って行った……
鈍い痛みに身体が自然に床へと転がる 視界が揺れて、黒ずんだ 痛みと突然のショックに息が詰まり、身体が小刻みに震える こんな時、人は寝転がるしかできない
「はあ……」
後ろ姿を確認 ムリだ 不意打ちは主導権を握るためにもっとも有効な手段 だが…サンダル? そんな音がどっちだ? 遠退いて行って…その後を何かが確かに追いすがって行った だが…歩いて行くような振動も音も空気の揺れ動く気配も何もなかった 仲良く追いかけっこ? その不満はそれに当ててくれ……




