Try n Dead 狂気系不条理ホラーゲームに転生させられたオレはゆるく死に急ぐ #136
セント・ミカエル・ラザフォード病院からの逃亡 #136
そう歩みを進めたオレの足は そこにあるはずの床を踏まなかった
「え?」
そのまま 前のめりに落下する 出た先 階段がない 足場がない 何もない空中へと放り出されて あっという間に闇の中を落下していく
病院の階段 蛍光灯はないが、ある程度、周囲が見えるようになっている…ゲーム的配慮 だが…ここは闇一色 その中をただ落下していく 風圧も 重力も 圧迫感も、何ひとつない 本来あるはずの身体に掛かるそれらがない なのに…落ちていく その感覚だけがある
そう認識させられる マジか…病院の屋上にある燭台 それを手に入れた後はそこから飛び降りるしか手がなかったが…ここで同じ行動を取らされるとは 不覚 回転しながら先を行く、愚か者を先導するような立て看板が、不意に、そこに境界があるかのように闇の中に消えた 地面に追突して、壊れたような音が響く
だが…オレにその衝撃 事実は到達しない どういうことだ? 真っ暗の中、ただ落下していく
何ごとも確認を怠ってはいけない、ということを再認識する それを再確認させるためのこの落下 初心者によくあるミスだ
なんていったっけか? サ〇ーンゲームの夢魅館? ドアを開けて進むと…こんなふうに落下してエンド A野万年課長の動画を見ればよくわかる…あの人も出世しないな どの世界でも用心深いものだけが生き残る 階段は安全地帯、と言う心理的安寧 そのスキ 愚かな犠牲者の末路
それにしても…地面に落ちない もうどれくらい経った? この高さ…墜落死? その時、それが下から登ってきた…どういうことだ?
四角い光が、目の端を、扉をあえて開きっぱなしにしてあるような長方形が通り過ぎて行った 階下のどれかのドアが故障して、開け放たれたままで、そこをエレベーターが通過していったような、そんな嫌な事故の雰囲気
確かめるために…空中で胡坐をかく 体表面を小さくして…重心を足元に集める こうすれば自然と上下が…そもそも、どっちが上だ? 落下しているからこちらが下? という地球上の感覚をこちらに持ち込んでもいいのか? とにかく体を小さくして、安定させる 体育座りでもいいが空気抵抗が減少して、落下スピードが上がる…はずが体感覚がここでは感じられない 同じ速度で…同じように下から光が昇ってきて、目の前を通り過ぎていく
1、2、3…カウントから、7~8秒ごと 地球上での重力での、自由落下速度は約200km/sだから…いまの速度は実際には150前後? そんなことを考えつつ…やはりおかしいことに気づく 来るはずの衝撃が一向に訪れない 3~4階分の建物の高さなら、もう地面に衝突していてもおかしくはない だが待望の死の瞬間が訪れない 看板は壊れた音がした それなのに…
何度も、何度も 同じところを落下し続けている 同じような小さい光が近づき、通り過ぎていく
これはあれか? ここに取り付けということか? いや無理だろう? 落下した直後ならなんとかできるかもしれないが…そこでさらに気づく 生き残るための手段はいつも、どこでも、最も早い段階に隠されている ぐずぐずして、決断が遅れれば遅れるほど、生存確率は低下する いやな真実 そうするのが正解というような仕組まれた事実
だが…どう見ても、いまのこのスピードであのドアのところに引っかかれる、ということが成功しそうな気がしない 落下した直後だとしても…位置か ドアを開けて…そこへと走り込んで、対面に壁があることを期待して、それで抵抗を得つつ、その隙間へと飛びつく……
いや無理だって ここが狭いエレベーターでなら可能かもしれないが…階段だ 奥がある それにそんなヒーロー的な行為は スタローンかクルーズかアンジェリーナ そういった人たちに任せるのがいい この主人公はそのどれにも似ていない




