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貴族たちの舞踏

 王都ソルナに春が訪れた。

 白い花が庭園を飾り、宮廷は祝祭の季節を迎えていた。

 王太子アーサーの成人を祝う舞踏会が、盛大に開かれる。


 その夜、リアナは初めて正式な侍女の礼装に袖を通した。

 薄紅のドレスに銀の糸が縫い込まれ、粗末な手が信じられないほど白く見えた。

 鏡の中に映る自分に、彼女はわずかに息を呑む。


 「火の娘も、いざという時は花になるのね。」

 背後で声がした。

 振り向くと、後宮でも有名な貴族令嬢、イザベラ・ヴァルネが立っていた。

 その微笑みは、花のように美しく、棘のように冷たい。


 「王太子殿下の寵愛、羨ましいわ。平民の血でも、炎の奇跡があれば通じるのね。」

 リアナは微笑を返した。

 「殿下の寵愛など受けておりません。ただ、務めを果たしているだけです。」


 「務め、ね。」

 イザベラの声には柔らかい毒があった。

 「宮廷では、務めだけでは生きられないのよ。」


 舞踏会が始まると、金と宝石の海のような光景が広がった。

 貴族たちは笑いながら剣を交わすように言葉を選び、

 音楽は華やかであるほど、空気には鋭い緊張があった。


 リアナはその隅に立ち、杯を手にして人々を観察した。

 彼女の眼差しは、火の中で鍛えられた刃のように鋭い。

 権力を持つ者、恐れる者、媚びる者。

 どの顔も同じ熱を帯びていた。――欲。


 やがて、王太子アーサーが現れた。

 場の空気が一瞬で変わる。

 人々は一斉に跪き、祝福の言葉を述べる。


 アーサーは軽く微笑し、リアナを見つけた。

 「……来ていたのか。」

 「侍女としての務めです。」

 「なら、務めの一環として踊ってくれ。」


 彼が差し出した手に、リアナは一瞬ためらった。

 ざわめきが走る。

 平民の娘が王太子と踊るなど、宮廷の礼に反する。


 「殿下、それは――」

 イザベラが一歩進み出ようとしたが、アーサーの目が制した。


 リアナは静かに手を伸ばした。

 その瞬間、弦楽が響き、二人の影が舞踏の輪の中へと溶け込んだ。


 彼の手は温かく、しかしどこか遠かった。

 彼女はその温度の中に、わずかな違和感を感じた。

 まるでその温もりの下に、氷の刃が隠されているように。


 曲が終わり、礼を交わすと、アーサーは耳元で囁いた。

 「この夜を忘れるな。火の娘よ、彼らはおまえを恐れている。」


 舞踏会の終わり、リアナは回廊の影で二人の貴族が密談するのを聞いた。

 「宰相は動く。次の評議で“火の娘”を追放する手筈だ。」

 「太子殿下も止めはせまい。いずれ、彼女は消える。」


 リアナは静かに目を閉じた。

 火の中に立つ覚悟は、すでにできている。

 ――舞踏の笑顔の裏で、最初の戦いは始まっていた。


 夜空に灯る千の燭光の下、

 彼女の影だけが、紅く燃えて見えた。

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